インドネシアの特許法改正(用途発明の保護追加へ)

 

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの石川 勇介(弁理士、法律事務所ZeLо、元ジェトロ・バンコク事務所)です。

 

今回は、「インドネシアの特許法改正」についてご説明したいと思います。

 

なお、インドネシアから独立した「東ティモール」が、2025年10月26日に「11番目のアセアン加盟国」として正式に承認されました。「東ティモール」は人口約140万人、一人当たりの国内総生産(GDP)が1450ドル(2024年)と、「アジア最貧国」の一つです。経済的な課題を抱える一方、国民の人口の平均年齢が約20才と驚異的に若く、豊富な石油・天然ガスによる国家収入も見込めるなど、潜在能力を秘めた国となっています。今後は、「教育やインフラ整備」が国の発展の鍵を握るとされています。

 

それでは、今回のテーマについて、以下の項目に沿ってご説明します。

1.はじめに

2.インドネシア改正特許法のポイント

3.アセアン主要国の用途発明の保護状況

4.まとめ

 

 

1.はじめに

インドネシアは、アセアン11カ国のなかでベトナム、タイに次ぐ日本企業の重要な海外進出先となっています。言語の壁や外資規制、コンプライアンスリスクなどはあるものの、その「最大の魅力」は、世界第4位の人口規模、平均年齢の若さ、アセアンの中心位置にある地理的優位性に加えて、政府がスタートアップなどを積極的に支援している点などにあります。「知財法の改正」など投資環境の整備も着実に進んでいます。

2024年10月より、「特許制度の合理化」、「特許保護の強化」、「国際基準への準拠」を目的として、改正特許法が施行開始されています

 

2.インドネシア改正特許法のポイント

2024年10月に「特許に関する法律2024年第65号」が公布され、同日付で施行されました。詳細は、WIPOのウェブサイトに公開されています。ここでは、主な改正ポイントについてご紹介します。

 

① 発明の定義の拡大(特許法第1条)

発明について「物」、「プロセス」、「物又はプロセスの改良、改善」に加えて、「システム」、「方法」、「使用」を含むことが規定され、「ソフトウェア」や「AI関連技術」の保護が強化されました。

これまでは、従来の「物又はプロセス」のカテゴリーに明確に当てはまらない可能性のある「システム発明」や「方法発明」に対して、権利化の不確実性が生じていましたが、本改正によって特許取得可能な発明の範囲が明確となりました。

 

➁ コンピュータプログラム、用途発明の特許性(特許法第4条)

発明に含まれないものについて「コンピュータプログラム。ただし、コンピュータで実行される発明を除く。」と変更され、「コンピュータを用いて実行されるプログラム」が発明の保護対象(特許対象)として明文化されました。

また、発明に含まれないものから、「既存・既知の製品、化合物の新規用途、新規形態の発見」が除外されたことにより、いわゆる「用途発明(医薬用途発明)」が特許対象となりました

なお、日本の特許制度とは異なり、「既存・既知の薬剤の新たな医薬用途」であって、新たな投与量/投薬計画、新たな投与様式/投与頻度、および新たな患者群を特徴とするようなものは、たとえ「用途発明」の形式で表現されていても特徴部分とはならず、特許性は認められない、と現地より聞いています。

アセアン主要国での用途発明の保護状況について後述したいと思います。

 

③ 新規性のグレースピリオド延長(特許法第6条)

インドネシアの国内または国外で開催された「公式の展示会・学会等での開示」、「論文等の公表」による出願までの猶予期間が「6カ月」から「12カ月」に延長されました。

他方で、日本や他のアセアン主要国と比較して、「自己による開示」について、公の展示会、学会等での開示しか例外適用を認めておらず、例外適用を受けるハードルはまだ高いと考えます(「過去の記事」のように、タイ、インドネシアでは例外適用を受けるハードルが高い印象です。)

 

④ 特許の実施状況における年次報告の義務化(特許法第20条A)

「特許権者は、インドネシアにおける特許の実施に関する声明を作成し、遅くとも毎年末までに大臣に通知しなければならない。」との規定が追加され、インドネシアでの特許の実施状況について、毎年報告書を提出する義務が課されました

2025年10月時点では、この声明を提出しなかった場合の制裁について特に言及されておらず、具体的な施行規則についても公開されていません。

現地代理人によれば、2025年1月1日以降に付与された全ての特許に適用されるようで、「実施状況の説明書」の提出期限は、特許出願日の1周年となるようです。当該説明書には、(ア)特許の実施の有無(例えば製造・使用・販売・輸出入などが行われているか)、(イ)実施している場合にどのような形態で実施されているか(自社製造、ライセンス供与など)、(ウ)生産量、販売量、投入資源(原材料・労働力・設備など)、市場展開(国内市場・輸出など)のような投資情報、(エ)実施してない場合に実施できていない理由(技術的理由、経済的理由、その他障害)などを報告するようです。

 

⑤ 強制実施権の明確化(特許法第90条)

⑥ 政府による特許の実施(特許法第109条)

特許付与後36カ月以内に実施されない場合、または公衆の利益を満たさない場合など、政府は第三者に強制実施権を付与できるとの規定が定められました。これは、TRIPs協定の第31条に適合するものです。また、公衆衛生上の緊急事態に対応する必要がある場合、政府は特許製品(医薬品などを想定)の実施を行う権限を有するとの規定も定められました。

 

⑦ ボーラー条項(特許法第167条)

ボーラー条項とは、医薬品の登録および製造に必要な申請書類を作成するために必要な試験を実施する行為などの特定行為を、特許権の侵害から除外することを意味します。当該条項は、特許権の満了後、医薬品が迅速に公衆に利用可能となることを保証することを目的としています。

法改正後は、「特許満了前の5年間の制限期間」が撤廃され、研究者は期間の制限を受けずに特許発明を利用できることとなっています。特許権者側としては、特許医薬に対するジェネリック医薬品開発のプロセスが加速することにつながります。

 

今回の改正内容の概要について、「ASEAN Briefingの記事」もご参考にしてください。

 

3.アセアン主要国の用途発明の保護状況

法改正により、インドネシアでも「用途発明(医薬用途発明)」が保護対象として認められるようになりました。

ご参考までに、アセアン主要国での用途発明の保護状況をまとめました。

 

 

「ベトナム」では、特許規則で保護対象から明確に除外することが規定されています。今後、医薬用途発明の保護に向けた動きを期待したいです。

 

用途発明の取り扱いについては、「過去の記事」も参考にしてください。

 

4.まとめ

今回は、「インドネシアで施行開始された改正特許法のポイント」と、「アセアン主要国の用途発明の保護状況」についてご紹介しました。

上述したように、「インドネシア」は、コンプラリスクなどはあるものの、日本企業の重要な海外進出先となっており、その人口規模や地理的優位性、また「知財法の改正」など投資環境の整備も着実に進めており、魅力的な市場であることは間違いありません。

 

今回の情報が東南アジアの知財実務のご参考になれば幸いです。

 

 

石川 勇介(弁理士、法律事務所ZeLo、元ジェトロ・バンコク事務所)

専門分野:特許権利化実務(化学/材料/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)、特許調査

 

法律事務所ZeLo https://zelojapan.com/