こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの石川勇介(日本弁理士、元ジェトロ・バンコク事務所)です。
今回は、「ミャンマーの現在の知財状況」についてご紹介したいと思います。
以下、下記の項目に沿ってご説明します。
1.はじめに
2.現在の知財法の施行状況
3.出願・権利化にあたっての留意点
4.まとめ
1.はじめに
ミャンマーでは、比較的安価な「労働力」(1人当たりGDP1,053US$:2022年)、魅力的な「人口」(約5800万人:2023年)、親日的で勤勉な性格等から、「アジア最後のフロンティア」とも称されていましたが(統計はジェトロより)、2021年2月に発生したミャンマー国軍による「クーデター」により状況は一変し、なおも「政情不安」が続いており、国軍による「非常事態宣言」の延長が繰り返されています。
また直近では、18歳以上の男女を対象とする「徴兵制の発表」がなされており(兵役を拒否した場合に懲役刑あり)、若者の間で国外に脱出する動きが広がっていると聞いています。
そうしたなかでも、ミャンマー政府は、知的財産法の整備を着実に進めており、2023年に「商標法」、「意匠法」そして「新著作権法」が施行され、2024年には「特許法」の施行が予定されています。
今回は、ミャンマーで知的財産の保護を図るにあたって(個人的にですが、ミャンマーの早期な経済回復・政情不安の回復も期待して)、「現在の知財法の施行状況」、「出願・権利化にあたっての留意点」についてご説明したいと思います。
2.現在の知財法の施行状況
ミャンマー政府は、下記図に示すように、新知財法について段階的な施行開始を進めています。まずは、2023年4月に「商標法」が施行、既に商標出願を受け付けています。
続いて、2023年10月に「意匠法」、「新著作権法」が施行され、「意匠法」について、2024年2月より意匠登録出願を受け付けています。
「新著作権法」についても、著作権の登録を同年同月より受け付けています。日本と同様に当局への登録がなくとも著作権は発生するとされていますが、「著作権登録」を行うことで、第三者との間で事実関係の証明が容易になる等といったメリットがあります。
残るは「特許法」の施行開始、出願受付が待たれるところ、ミャンマーの現地代理人によれば、下記図の通り、2024年中の実現が予定されています。
今後の予定(段階的な施行開始)
なお、「日本特許庁のウェブサイト」には、知財法・施行規則について日本語の仮訳が公開されています。
⇒「商標法」、「商標登録規則」、「意匠法」、「新著作権法」、「特許法」
また、「ミャンマー知的財産局のウェブサイト」には、出願から権利化までの「フローチャート」、各種手続の「庁費用」などの情報が公開されています(英語、ミャンマー語)。追って、規則・ガイドライン、Q&A等がアップデートされ、また「商標サーチ」、「意匠サーチ」、「特許サーチ」のEサービスも立ち上がるようです。
3.出願・権利化にあたっての留意点
(1)続いて、ミャンマーにおける「知財法の概要」をまとめると、下記表のようになります。
(2)特許法、意匠法、商標法の主な留意点は以下の通りです。
「特許法」
第14条(a)に特許を受けられない発明が限定列挙されている。例えば、コンピュータ・プログラムは特許されない。
原則、2033年1月1日までは医薬品又はその製造方法に関する発明について特許されない(第14条(b))。また、既に経過しているが、2021年7月1日までは農業に使用される化学物質、食料品、微生物に関する製品について特許されない(第14条(c))。
ミャンマー政府は、これら発明について特許を受けられない期間を変更できる。
「意匠法」
新規性がないこと、技術的・機能的な特徴のみの意匠であることについては、異議申立がなされなければ審査されない。意匠出願に対し異議申立を望む者は、出願公開日から60日以内に行う必要がある(第28条、第31~第33条)。
「商標法」
絶対的拒絶理由(識別性がない、公序良俗違反等)又は相対的拒絶理由(他人の登録商標や周知商標との類否)に該当する標章については登録されない(第13条、第14条)。
そして、相対的拒絶理由については、異議申立がなされなければ審査されない。商標出願に対し異議申立を望む者は、出願公開日から60日以内に行う必要がある(第23条、第26~第28条)。
4.まとめ
以上、ミャンマーにおいて、今後、日本企業がミャンマーで知的財産の保護を図るにあたって、「現在の知財法の施行状況」、「出願・権利化にあたっての留意点」について簡単にご説明しました。
ミャンマー商標法も日本と同様に、原則、先願主義(早い者勝ち)を採用していますから、将来にミャンマーでビジネス展開を行う予定がある企業(企業の代理人)におかれては、信頼できるミャンマー代理人を確保し、また商標出願を済ませておくことが必須であると考えます。
すなわち、ミャンマー商標法では、相対的拒絶理由(他人の登録商標や周知商標との類否)について、異議申立がなされなければ審査されないため、冒認商標の出願がなされると短期間(出願公開日から60日以内)で異議申立を行う必要があり(あるいは無効審判を請求する必要があり)、後手に回るとビジネスに甚大な影響が及ぶためです。
アセアンで知財保護と言えば、引き続き「模倣品対策」が中心になりますから、ミャンマーにおかれても「商標権」を取得することは必須と考えます。
今回の情報がミャンマーの知財実務においてご参考になればと思います。
石川 勇介(弁理士、元ジェトロ・バンコク事務所)
専門分野:特許権利化実務(化学/材料/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)、特許調査
秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/