東南アジアに対する欧米の知財保護・執行に関する評価レポート(インドネシア、タイ、ベトナムが監視指定)

 

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの石川勇介(日本弁理士、元ジェトロ・バンコク事務所)です。

 
今回は、「東南アジアに対する欧米の知財保護・執行に関する評価レポート」についてご紹介します。

 

お知らせ

知財検定を受検される方は、こちらのページをご確認ください。

無料の動画セミナー等もあります。

 

 

1.はじめに

まずは、2022年の東南アジアの「1人当たりGDP(USドル)」と『実質GDP成長率(%)』を示したグラフをご紹介します。

 

 1人当たりGDP(USドル)」と『実質GDP成長率(%)

 

アセアン諸国のうち、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピンは「中所得国」に位置し、また、ラオス、カンボジア、ミャンマーは「後発開発途上国」に位置付けられます。
 

「中所得国」とは、一般に一人当たりの国内総生産(GDP)が「3000ドル」から「1万3000ドル」程度の国を指すと言われています。また、「後発開発途上国」は、開発途上国の中でも特に開発が遅れている国として位置付けられています。

 

マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム、フィリピンでは、いわゆる「中所得国の罠」からの脱却を果たすべく、「外資呼び込み政策」や「研究開発の各種優遇・支援措置」、「イノベーションの促進」を積極的に進めています。「中所得国の罠」とは、自国経済が中所得国のレベルで停滞することで、先進国(高所得国)入りが中々できない状況を言います。
 

例えば「タイ」では、中所得国化を果たしましたが、安価な労働力に依存した産業構造のままでは競争力がいずれ低下し、経済成長が停滞してしまうことが懸念されています。そのため、持続的成長のためには自国のイノベーションが必要とされ、人財育成や研究開発、インフラ整備に向けた取り組みが課題となっており、成長への正念場を迎えていると言われています。

 

また、ラオス、カンボジア、ミャンマーにおいても、後発開発途上国からの脱却を目指しており、「外資呼び込み政策」や「研究開発の各種優遇・支援措置」を進めています。

 

こうしたアセアン各国の政策の下で、海外からの投資に結び付く「知的財産権に関する法整備」に対する関心は高いです。
 

そして、アセアン諸国では、欧米からの投資に大きく影響するため、毎年報告される「米国通商代表部(USTR)の知財保護に関する監視リスト」、隔年で報告される「欧州委員会による知財保護・執行に関する優先監視国リスト」から脱却すること、あるいは対象国に挙がらないことについて、非常に高い関心を持っています。

 

 

2.米国の「スペシャル301条年次報告書」とは

米国通商代表部による「スペシャル301条年次報告書」とは、米国通商法に基づき、知財保護が不十分な国や公正かつ公平な市場アクセスを認めない国を特定するもので、警戒レベルとして高い順に「①優先国(Priority Foreign Country)」、「②優先監視国(Priority Watch List)」そして「③監視国(Watch list)」の3段階が設定されています。

 

「①優先国」に特定されると調査及び相手国との協議が開始され、協議不調の場合には対抗措置(制裁)への手続が進められます。米国独断ではあるものの、各国における「知的財産の保護水準」の役割を果たしています。

 

2023年度では、アセアン諸国においては、インドネシアが「優先監視国」、タイ、ベトナムが「監視国」となっています。

 

 

ちなみに、2017年度からタイは「②優先監視国」から「③監視国」に格上げされており、2014年度からフィリピンは、「③監視国」から脱却を果たしています

 

 

3.欧州の「知的財産権の保護・執行に関する報告書」とは

欧州委員会による「知的財産権の保護・執行に関する報告書」とは、主として知財権の保護及び執行の状態が最悪の水準の懸念を引き起こしている第三国を特定し、これにより欧州委員会がその活動及びリソースを当該領域に集中できるようにするものです。隔年で知的財産に関する協力のための「優先監視国」のリストを更新することが行われています。

 

「優先監視国」のリストは3つのカテゴリーからなり、知的財産権の保護及び/又は執行の状況が欧州の知財権者にとって最も有害な国からなるカテゴリーから順に「優先度1」、「優先度2」、「優先度3」と続きます。本報告書では各国ごとの知的財産権をめぐる状況の評価の要約を、「進捗(Progress)」,「改善及び行動への懸念及び領域(Concerns and Areas for Improvement and Action)」,「欧州の行動(EU Action)」の3項目に分類して付記しています。

 

2023年度では、アセアン諸国においては、インドネシア、タイ、マレーシアが「優先監視国の優先度3」に分類されています。

 

 

4.まとめ

以上、アセアン諸国に対する「欧米の知財保護・執行に関するレポート(2023)」についてご紹介しました。本レポートを一読することで、欧米による各国の知財保護・執行に関する評価内容を知ることができます。

 

なお、ジェトロ・ニューヨークのレポートジェトロ・バンコクの講演資料こちらの知財に関するブログでは、上記レポートに関する概要や見解が述べられています。興味深いのでご参考にして下さい。

 

東南アジアでは、欧米の本レポートの発行時期(米国レポートは4月発行、欧州レポートは5月発行)の前に合わせて知財に関する規則や通達、ガイドラインの改正のほか、各省庁を横断した知財委員会等の設置、大規模な模倣品・海賊版撲滅のキャンペーンを行う等の取り組みがなされています(欧米に対するアピールとも言えるもの)。

 

知財の法整備、知財当局の積極的な動きがありますので、アセアン各国の状況を見ておくと良いかもしれません。

 

以上、今回の知財情報がご参考になればと思います。

 

石川 勇介(弁理士、元ジェトロ・バンコク事務所)

専門分野:特許権利化実務(化学/材料/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)、特許調査

 

秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/