本願発明の認定における「用語の解釈」について改めて考えてみた

 

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田中 研二(弁理士)です。

 

新規性や進歩性の判断は、まず「本願発明の認定」から始まります。

 

本願発明は基本的にクレームに記載されたとおりに認定されるので、実務的には「引用発明の認定」ほど争いになることは多くありません。とはいえ、本願発明の認定を争った裁判例や審査・審判事例はそれなりに存在します。 今回は、「本願発明の認定」のカギとなる「用語の解釈」について整理してみます。

  

1.審査基準のおさらい

審査基準では、本願発明の認定について、おおむね以下のように規定されています(第III部第2章第3節2.)。

 

  • 請求項の記載が明確である場合
    ・クレームの記載どおりに本願発明を認定する。
    ・クレームの用語の意味は「その用語が有する通常の意味」と解釈する。
     ただし、用語の意味内容が明細書等に定義・説明されている場合にはそれを考慮する。
  • 請求項の記載が一見すると明確でなく、理解が困難な場合
    ・明細書等および技術常識を考慮して用語を解釈して、本願発明を認定する。
    ・明細書等および技術常識を考慮しても本願発明が明確でない場合は、
     本願発明の認定を行わない。

 

つまり、審査基準によれば、「クレームの記載が明確かどうか」によって、明細書等や技術常識を考慮するかどうかが変わることになります。

 

2.クレームの用語が明確でも、技術的意義が明確とは限らない

クレームの各用語の意味が個々に明確であったとしても、必ずしもクレームの記載の「技術的意義」まで明確であるとは限りません。

 

たとえば、平成21年(行ケ)第10403号「洗濯機の脱水槽」事件では、クレームに記載された「隙間」という用語の解釈が問題になり、裁判所は以下のように判示しました。

 

確かに「隙間」ということば自体の一般的な意味は,辞書に記載されているとおり明確であるといえる。しかし,本件発明1を記載した請求項1においては「フィルタ部材が上下の全長で前記胴部の接合部を内側より覆い,その上下の全長より充分に小さな寸法の隙間を前記バランスリング又は,底板との間に余す」として「隙間」について,フィルタ部材との関係で相対的に大きさを示し,バランスリング,底板及びフィルタ部材との関係で位置を示しているから,本件発明1における「隙間」の技術的意義は,特許請求の範囲の記載のみでは一義的に理解することはできず,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しなければ,その技術的意義を明確に理解することはできない

 

このように、用語自体の辞書的な意味が明確であるとしても、本願発明における役割や他の要素との関係を考慮しないと、その記載の技術的意義が明確にならない場合もあります。

 

つまり、「辞書的な明確さ」と「技術的意義の明確さ」とは別物であるといえます。

 

技術的意義が明確に理解できない場合には、明細書等および技術常識を考慮して用語を解釈して、本願発明が認定され得ます。

 

3.審査で本願発明の認定を争うべきか?

とはいえ、実際の審査では、用語自体が明確だからと明細書等を考慮せずに広い意味で用語を解釈する審査官もいますし、明細書等や技術常識を考慮するといってもどこまで考慮するのか、考慮した結果どのように用語を解釈するのか、といった点は結局「審査官次第」となりがちです。

 

言うまでもなく、審査段階では素直に補正をするという選択肢もあるので、予測可能性の低い「本願発明の認定争い」に踏み込まないほうが無難である場合も多いでしょう。

 

下記表に、「クレームの記載の解釈を争う場合」と「クレームを補正する場合」のメリデメを整理してみました。

 

どちらがよいかはケースバイケースで判断することになりますが、審査官が本願発明をクレームの記載どおりに認定している場合にクレームの用語の解釈を争うのは、拒絶査定のリスクと隣り合わせであると考えたほうがよいです。

 

4.まとめ

以上のように、本願発明の認定における用語の解釈は、クレームの記載の「技術的意義」がクレーム記載のみでは一義的に理解できない場合に問題になることが多いです。

 

本願発明の認定を争うべきかは、補正ができる場面かどうかによっても変わりますが、権利化後への影響なども十分に考慮して判断すべきです。

 

また、クレームの用語の解釈を争うとしても補正をするとしても、そのベースになるのは明細書等の記載ですので、結局は

  • 明細書において、クレームの記載事項の技術的意義をしっかり説明する
  • 一般的でない用語や曖昧な用語については、明細書に定義を記載する

ことが重要であるといえます。

 

 

 

田中 研二(弁理士)

専門分野:特許権利化(主に機械系、材料系)、訴訟