阻害要因を導入する補正とは

 

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田中 研二(弁理士)です。

 

今回は「阻害要因を導入する補正」という進歩性のテクニックをご紹介します。

 

ある程度経験を積まれた方にはお馴染みの手法かもしれませんが、意外と言語化されていない気がするので、まとめてみました。

 

お知らせ

言わずと知れた著名な知財弁護士である、イノベンティアの飯島 歩 先生にご講演頂けることになりました。

飯島先生は当然ながら知財に関する様々な業務に携わっておられますが、その中でも職務発明に関しては、過去20年以上、細かな相談も含めれば100社以上の様々な業務に携わっており、おそらく職務発明の制度設計や、職務発明の裁判などについては右に出るものはいないと言って良いのではないかと個人的には考えています。

そんな飯島先生が、職務発明の全て」を4hで解説して下さいます。

主に企業の知財部の方には役立つと思います。めったにない機会と思いますので、職務発明に関与している方は7月5日午後のスケジュールを確保して、ぜひ、セミナーにご参加ください。

 

詳しくは以下をご参照ください。↓

  

 

1.「どんな補正がよさそうか」の判断基準

拒絶理由通知で新規性欠如や進歩性欠如が指摘された場合、出願人が取り得る選択肢は、

 

(1) 補正せずに反論する

(2) 補正をする

の二択です。

 

しかし、「補正をする」といってもその内容は様々ですよね。

 

本願明細書を隅々まで探せば、たいてい引用発明と異なる点がいくつか見つかるので、その中でどの補正が一番よさそうかを考えることになります。

 

「どの補正がよさそうか」の判断基準はいろいろありますが、代表的なものとして以下が挙げられます。

 

(1) 補正要件を満たしているか

(2) 競合他社の実施行為をカバーできそうか

(3) 拒絶理由を解消できそうか

 

今回は、このうち(3)に着目してみましょう。

(3)を判断するためには、「拒絶理由を解消できそうな補正とはどういう補正か?」を知る必要があります。

 

2.拒絶理由を解消できそうな補正(1):格別の技術的意義を有する特徴を追加する補正

たとえば、新規性欠如や進歩性欠如の拒絶理由に対して、明細書や図面の記載事項を補正でクレームアップする場合を考えてみましょう。

 

このとき、クレームアップした特徴が引例に記載されていない旨の主張に加えて、当該特徴から生じる効果を併せて説明することがよくあります。

 

仮に補正で相違点を導入したとしても、それが特段の技術的意義のない、当業者が適宜なし得る設計事項レベルのものであれば、進歩性欠如の拒絶理由は解消されませんよね。

 

つまり、上記の効果の主張は「この補正で導入した相違点はただの設計事項じゃないよ!」という主張であると理解できます。

 

言い方を変えると、設計事項を超える格別の技術的意義を有する特徴を追加する補正は、比較的拒絶理由を解消しやすい補正といえます。

 

3.拒絶理由を解消できそうな補正(2):阻害要因を導入する補正

しかし、補正で導入した相違点が格別の技術的意義を有するとしても、審査官の追加サーチの結果、主引例と組合せ可能な、当該相違点に係る構成を開示する副引例が新たに見つかってしまったら、再び進歩性欠如の拒絶理由が指摘される可能性が高いです。

 

その場合、せっかく補正で追加した特徴はもはや無意味な限定となってしまいますよね(もちろん、前の拒絶理由を解消したという意義はあるものの)。

 

これを避けるためには、「主引用発明で採用されなさそうな特徴」を補正で特定するのが有効です。

 

たとえば、「主引用発明で採用されなさそうな特徴X」が本願明細書に記載されていれば、請求項1に係る発明に特徴Xを追加する補正をして、意見書で「本願請求項1に係る発明の特徴Xは、主引用文献には記載も示唆もされておらず、かつ主引用発明において特徴Xを採用すると……という問題があるので、特徴Xを採用することには阻害要因があります。」と主張できます。

 

こうすれば、仮に審査官の追加サーチで特徴Xを開示する副引例が見つかったとしても、主引用発明に特徴Xを追加することの阻害要因を先回りして主張しているので、その阻害要因を覆せない限り、審査官はその主引例+副引例で進歩性を否定することができなくなります。

 

試しに、具体的な仮想事例を考えてみましょう。

 

下図のように、本願発明は「みかん果汁と、添加剤A、Bとを含む、果汁入り飲料。」です。

 

主引用発明は添加剤Aを含み、副引用発明は添加剤Bを含み、主引用発明と副引用発明とを組み合わせることで本願発明の進歩性が否定されているとしましょう。 主引用発明は、酸味料Xを添加することなくすっきりした果汁入り飲料を提供することを目的として、添加剤Aを添加することで、飲料に酸味料Xを添加することなく、すっきりした飲み口を実現できるという発明です。

 

 

ここで、本願では酸味料Xを加えることは特に問題視しておらず、かつ本願明細書に酸味料Xについての記載があった場合には、請求項1に「酸味料X」の記載を追加することで、本願発明を引用発明と差別化することができます。

 

さらに、この補正をすれば、「主引用発明は、酸味料Xを添加することなくすっきりした果汁入り飲料を提供するという目的を達成するために添加剤Aを加えるというものです。したがって、主引用発明において酸味料Xをさらに加える動機付けはなく、むしろ酸味料Xの添加は『酸味料Xを添加することなくすっきりした果汁入り飲料を提供する』という主引用発明の目的に反するので、主引用発明をそのように変更することには阻害要因があります。」と、阻害要因を先回りで主張することができます。

 

こうすると、仮に審査官が追加サーチで酸味料Xを開示する副引例を新たに見つけたとしても、その副引用発明を主引用発明に適用しづらくなります。

 

また、本願発明において酸味料Xの添加に格別の技術的意義がない場合であっても、上記のような主張をすれば進歩性が認められることは割と多いです。

 

もちろん、酸味料Xを含まない製品も権利範囲に含めたいような場合には使えませんが、そうした事情がなければ、汎用的に使えるテクニックではないかと思います。

 

4.まとめ

今回は「阻害要因を導入する補正」というテクニックを紹介しました。

 

進歩性欠如を解消するための補正は、反論よりもずっと選択肢が多く、最適な補正を選ぶのは意外と難しいものです。

 

選択に迷うときは、下記のような星取り表を書いてみて整理してみるのも効果的かもしれません(上記の果汁入り飲料の例は「補正B」に当たりますね)。

 

 

 

田中 研二(弁理士)

専門分野:特許権利化(主に機械系、材料系)、訴訟