
こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田中 研二(弁理士)です。
今回は、過去に筆者が進歩性欠如に対する反論の有効性を分析した際に、おまけで調べた小ネタを紹介してみます。
調査内容はタイトルどおり、拒絶理由通知や意見書の長さは、補正なし反論の成功率に影響するのか? です。
― 個人的には、拒絶理由の記載が長かろうが短かろうが、審査官の認定が誤っていれば拒絶理由は解消される気がしますし、たとえ短い意見書でも、核心を突いた反論であれば拒絶理由は克服できるように思えますが、実態はどうなのでしょうか。
本記事では、実案件のデータに基づいて、審査の傾向を眺めてみましょう。
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あんまり真面目な分析ではないので、「へーそうなんだあ」くらいの気持ちで読んでいただけたら幸いです!
対象事例はいずれも、進歩性欠如の拒絶理由に対して補正をせず反論のみで対応し、その結果特許査定または拒絶査定がされた出願716件です。より具体的な案件抽出条件については、「進歩性の拒絶理由に対する各種反論の有効性」パテントVol. 74, No. 7 (2021)をご参照ください。
1.拒絶理由通知の長さと反論成功率との関係
まずは拒絶理由通知の長さと、補正なし反論の成功率との関係を見てみましょう。

横軸は、拒絶理由通知の全文字数を示します。
左の縦軸と棒グラフは、反論の結果特許査定(青色)または拒絶査定(グレー)がされた出願の件数です。
右の縦軸と折れ線グラフは、特許率(特許査定された出願数/全出願数)です。
拒絶理由通知の文字数が増えるほど、特許率(反論成功率)が緩やかに下がっていく様子が見て取れますね。
この傾向の原因を推察するに、長文の拒絶理由通知には、審査官が十分に吟味・検討したものが相対的に多いと思われるので、たとえば出願人側が阻害要因を主張しても「その阻害要因は拒絶理由起案時に考慮済みですわ」となってしまうことが比較的多いのではないか、と考えられます。
そうすると、長文の拒絶理由通知に対する反論成功率は相対的に低めになりそうです。
逆に、審査官が十分な証拠を見つけられず、「相違点は一旦設計事項! 文句があるなら反論してね」といったジャブ的な拒絶理由を打つような場合には、拒絶理由通知に書ける内容はさほど多くないので、拒絶理由が短くなりがちと考えられます。
そのような場合には、相違点に係る構成の技術的意義を説明することなどで拒絶理由を克服しやすいでしょうから、結果として短い拒絶理由通知に対する反論成功率は高めに出ると推察されます。
2.意見書の長さと反論成功率との関係
次に、意見書の長さと反論成功率との関係を見てみましょう。
まず、意見書全体の文字数をカウントして反論成功率との関係を調べたグラフを示します。

グラフの横軸は意見書全体の文字数で、両縦軸は拒絶理由通知の文字数グラフと同じです。
特許率(折れ線グラフ:右縦軸に対応)は見るからにガタガタで、意見書全体の文字数と反論成功率との間にあまりはっきりした関係は見て取れなさそうです。
そもそも、このように全文字数をカウントしてしまうと、拒絶理由のコピペを意見書に貼る人と貼らない人とでだいぶ文字数が変わってしまいそうですよね。
そこで、多少手間でしたが、各意見書から具体的な反論部分のみを抽出して、反論部分の文字数のみをカウントしてみました。

グラフの横軸は意見書中の反論部分の文字数で、両縦軸は他のグラフと共通です。
こちらは多少系統的な結果になりました。
すなわち、反論部分の文字数が0~3999字の範囲では、意見書の文字数に伴って反論成功率が緩やかに増加する傾向が見られます。
この傾向については、ある程度説得的な反論をするには、自ずと一定の文字数が必要になることが多い(反論が短すぎると審査官を納得させにくい)と解釈できそうです。
3.意見書中の実質的な反論量の割合と反論成功率との関係
最後に、せっかく意見書中の反論部分を特定したので、反論部分の割合=「反論部分の文字数÷意見書全体の文字数」と反論成功率との関係も見てみましょう。
意見書において、拒絶理由のコピペ・要約や本願クレームのコピペなど、反論部分以外の(比較的形式的な)記載をどの程度書くかは人によります。
意見書中の反論部分の割合が大きいほど、上記のような形式的記載が少なく、反論部分の割合が小さいほど、形式的記載が多いといえます。
このため、反論部分の割合と反論成功率との関係から、「意見書中の形式的記載のボリュームと反論成功率との間に相関があるか?」の示唆を得ることができそうです。
そこで、意見書中の反論部分の割合を計算して、反論成功率との関係をグラフ化してみました。

横軸は意見書に占める反論部分の割合で、両縦軸は他のグラフと共通です。
ボリュームゾーンである20~80%の辺りに注目すると、反論割合20~40%のグループ(形式的記載多め)は、反論割合40~80%のグループより反論成功率が若干低いようです。
一方、反論割合40~60%のグループと反論割合60~80%のグループとを比較すると、反論成功率はほぼ同程度です。
このように、実質的な反論部分が過度に少ないと反論成功率が多少下がるものの、形式的記載の多寡は反論成功率にさほど影響しなさそうという至極真っ当な傾向が見て取れます。
4.まとめ
今回はちょっとした小ネタとして、拒絶理由通知や意見書の長さと反論成功率との関係を見てみました。
実務的に有益な示唆が得られたかというと別にそんなことはないのですが、みなさまの知的好奇心を少しでも満たせていたら幸いです。
なお、上記は単純化した集計結果であり、拒絶理由や反論の内容、技術分野などは考慮していない点にご留意ください。
同様の小ネタは他にもいくつかあるので、また機会があれば紹介してみます!

田中 研二(弁理士)
専門分野:特許権利化(主に機械系、材料系)、訴訟