ASEAN IP REGISTERの使い勝手検証(調査実務に使えるか?)

 

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの石川 勇介(弁理士、法律事務所ZeLо、元ジェトロ・バンコク事務所)です。

 

今回のテーマについて、以下の構成で解説を進めます。

 

1.はじめに

2.ASEAN IP REGISTERとは

3.実際に使ってみた

4.検証の結果

5.まとめ

 

お知らせ

欧州(EPO)の特許実務は、日本と結構、違いますよね。

 

日本と同じ感覚で対応していると拒絶理由が解消されず、何回もOAが出て、権利化できたけど相当なコストがかかった、ということになりかねません。

 

そこで、日本の特許実務と、欧州の特許実務の違いを知っておく必要があります。

 

今回は、ドイツに在住し、欧州特許弁理士、ドイツ弁理士として活躍中、しかも日本の弁理士でもある長谷川先生に、日本との違いを意識した、欧州特許における権利化実務ポイントを解説して頂きます。

 

欧州特許の権利化実務に関係している方は、2026/2/20(金)にセミナーを開催しますので、ご参加ください。

 

詳細は以下をクリックして開くページからご確認ください。

 

 

1.はじめに

近年、日系企業によるアセアン諸国への進出、特に中国からアセアン諸国への生産移管が進んでおり(ジェトロ地域・分析レポート)、アセアンにおいて「商標出願」だけでなく「意匠出願」、「特許出願」の件数も徐々に伸びてきています。

 

他方で、現地事業の拡大に伴い、製品の輸出や現地製造を行うにあたって、現地の「商標権」、「意匠権」、「特許権」などを事前に調査することは、ビジネスの防衛上極めて重要となっています。他社の権利を侵害すれば、例えば差止請求により現地でのビジネスが停止に追い込まれるリスクがあるためです。

 

こうしたリスクを回避するための「侵害予防調査(クリアランス調査)」において、アセアン全域の知財情報を網羅的に、かつ効率的に調査できるツールへのニーズが年々高まっています。

 

 

2.ASEAN IP REGISTERとは

アセアン地域における無償の調査ツールとして、各国の知財庁が提供するデータベース(DB)が一次情報源となりますが、それらを統合的に検索できるポータルサイトとして「ASEAN IP REGISTER」が存在します。

 

ASEAN IP REGISTER」は、アセアン公式の知財ポータルサイト(ASEAN IP Portal)内で提供されている検索サービスです。アセアン10カ国の特許、意匠、商標、地理的表示のデータを英語のシングルウィンドウで提供することで、アセアン域内のビジネス環境の透明性を高めることを目的としています。

※シンプルなトップ画面で個人的には好きです。

※ミャンマーでは未だ特許出願が公開された案件はないようです。

 

 

アセアンの知財調査では、「3つの課題」が存在すると言われていました。

  • 言語」の課題:英語環境下では情報の欠落や機能制限が生じやすいため、基本的には、現地語の知財庁DBを扱う必要がある。
  • 操作性」の課題:国ごとに検索コマンドや表示形式が異なり、習熟に時間がかかってしまう。またレスポンスが遅い。
  • 分散」の課題:10カ国それぞれの知財庁DBを個別に巡回しなければならない。
  •  

 そこで、「ASEAN IP REGISTER」は、これら課題を解決し、権利情報にアクセスできる環境を整備することを目的として開発されました。

 

3.実際に使ってみた

実際に、このポータルサイトが、「先行技術調査」や「侵害予防調査」といった実務レベルの要求に耐えうるものなのか、(1)データ収録率(2)使い勝手・操作感(3)リスト出力の可否、という観点で、検証してみました。

 

試しに、対象国「フィリピン」とし、出願日「2010年12月20日~」の案件を対象とし(フィリピン意匠の権利期間は出願日から最大15年)、ロカルノ分類「09-01」とし、ペットボトルの意匠の検索を行ってみました。

 

※09-01:瓶、フラスコ、ポット、カーボイ、デミジョンおよび動的放出手段を備えた容器(ペットボトルの本丸)

※意匠調査のトップ画面です。アセアン国ごとの「出願件数の割合」が左側の円グラフで比較されています。また、右側にアセアン国ごとに「出願件数、公開公報の収録期間」が示されています。見た目いい感じです。

 

 

※詳細検索の検索画面です。実際に「出願国(Philippines)」、「出願日(Filing Date)」及び「ロカルノ分類(Classification)」で絞って検索した結果の画面です。

※なお、「Title(タイトル名)」、「Abstract(要約)」でも絞ることができます。

※本サイトの特徴として、案件ごとの「有効(ACTIVE)/無効(NONACTIVE)」を識別することもできます。

 

検索結果の比較:

 ・上記「ASEAN IP REGISTER」:864件ヒット

 ・下記「フィリピン知財庁DB」:877件ヒット

※実は、フィリピン知財庁のデータベースは、WIPO支援のもとで作成されており、ユーザインターフェースも似ています。

 

4.検証の結果

(1)データ収録率

国によっては、直近の公開データ、古いデータに欠落がある。

今回検証の「フィリピン」では、同じ検索式であってもASEAN IP REGISTERでは現地知財庁DBと比較して「13件のデータ欠落」がありましたが、全数から見れば比較的少ない印象です。この要因として、非常に古いデータが収録されていないことによるものと考えられます。

 

そのほか、他のアセアン国についても調べたところ、「フィリピン」のほか、「マレーシア」、「タイ」、「ベトナム」では、WIPOのシステムと連携が進んでいるためか、データ欠落が比較的少ない傾向でした。

他方で、「インドネシア」、「シンガポール」、「その他のアセアン新興国」に関しては、直近の公開データにタイムラグが生じており、また非常に古いデータが収録されておらず、データ欠落が比較的多い傾向でした。

 

なお、今回の検証結果は、ジェトロ調査報告「アセアン産業財産権の検索DB調査(279頁~)」と概ね同様のデータ収録率の傾向となりました。

 

「フィリピン」、「マレーシア」、「タイ」、「ベトナム」でのデータ欠落は少ないものの、知財実務家として「侵害予防調査」を行うならば、現地知財庁DBで調査することがより確実であるとの見解です。

 

(2)使い勝手・操作感

⇒検索インターフェース自体は使い易いが、レスポンスが遅い

検索インターフェース自体はモダンで、直感的に操作できます。

「アセアン全域」を指定して横断検索できる点は、ファミリー調査(複数国への出願状況確認)において便利になりそうです。また、検索一覧画面で「ACTIVE(有効)/ INACTIVE(無効)」のステータスが表示される点も評価できます。

 

しかしながら、レスポンスの遅さは否めません。各国を横断検索させたり、検索条件を複雑にしたり、ヒット件数が増えたりすると、読み込みに相当の時間がかかり、非常に煩雑な作業を強いられます。また、情報量は各国の知財庁DBに劣り、法的状況などを確認するには、知財庁DBを見に行く必要があります。

 

(3)リスト出力の可否

リスト出力機能がなく、実務利用における課題である。

最も実務上の障壁と感じたのが「リスト出力機能の欠如」です。

「ASEAN IP REGISTER」には、現状、検索結果(リスト)をCSVやExcel形式でダウンロードする機能が実装されていません

そのため、データの二次利用やオフラインでの精査が事実上不可能であり、解析業務を行う上での「大きな制約」となりそうです。

 

5.まとめ

今回は、「ASEAN IP REGISTERの使い勝手検証」についてご紹介しました。  検証結果を踏まえた、現時点での最適な活用法は以下の通りです。

 

(1)簡易調査・ファミリー確認には「使える」

複数国を横断して概要を把握する用途や、権利の生死(ACTIVE/INACTIVE)をざっと確認する用途には適しています。

 

(2)侵害予防調査には「不十分」

情報の欠落(特に直近データやインドネシアなどの特定の国)のリスクがあるため、必ず「現地知財庁DB」を使用するべきです。

 

(3)効率化には「国内有償DB+現地知財庁DB」を併用

リスト表示、リスト出力が可能な「国内有償データベース」があれば活用して検索スピードを上げつつ、直近データのタイムラグを補うために最終確認は、「現地知財庁DB」で行うのが最も確実と考えます。

 

「ASEAN IP REGISTER」は未だ発展途上のツールと言えそうです。今後のデータ連携の強化と機能改善に期待しつつ、現状は「現地知財庁DBを主軸に置いた調査フロー」を組むことをお勧めします。  

 

今回の情報が東南アジアの知財実務のご参考になれば幸いです。

 

 

石川 勇介(弁理士、法律事務所ZeLo、元ジェトロ・バンコク事務所)

専門分野:特許権利化実務(化学/材料/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)、特許調査

 

法律事務所ZeLo https://zelojapan.com/