アセアン代理人との交流の深め方(アセアンで特許を取るならどうするか?)

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの石川 勇介(日本弁理士、元ジェトロ・バンコク事務所)です。

 

今回は、2025年2月24日、25日に現地開催された「JPAAアジアセミナー@マニラ」に講師として参加し、アセアン代理人と交流を深めてきましたので、自分が感じたことを自由に述べたいと思います。

 

以下、下記の項目についてご説明します。

1.JPAAアジアセミナーとは

2.アセアン代理人とのコミュニケーション

3.アセアンで特許を取るならばどうするか?

4.最後に

 

お知らせ

角渕先生のセミナーはいつも大人気なんですが、受講して下さった方から、

 

「誰でも、これだけ押さえておけば何とかなる、というセミナーはないですか?」

基礎的なところをキッチリと固めるセミナーはないですか?」

J-PlatPatだけしか使えないんですが、何とかする方法はありますか?」

 

というようなご要望を頂きましたので、角渕先生にそれに応えるセミナーを作って頂きました!

 

詳しくは以下をご参照ください。↓

 

1.JPAAアジアセミナーとは

「JPAA IP Practitioners Seminar(通称:JPAAアジアセミナー)」とは、東南アジアの現地代理人(弁護士・弁理士)向けに、特許・商標のワークショップを開催し、①東南アジアにおける知財の実務能力向上のサポートを行うとともに、②東南アジアにおける日本弁理士会のプレゼンス(存在感)を高めることを目的として、現地開催しているセミナーです。

アセアン10カ国を回り、今年は、フィリピンのマニラで開催されました。

 

現地代理人としては、①実務研修を通じて知財の実務能力を高められること、②代理人同士の人脈を形成できることから、大変人気のあるセミナーとなっており、毎回、多くの参加者が集まります。

 

私が講師を務める「特許グループ」では、今回は、①クレームドラフティング②OA(オフィスアクション)対応の課題に加えて、新たに③侵害検討の課題を二日間かけて取り組みました。

 

実際の課題は、有名企業による「セルフレジ特許」を題材としたものであり、私はOA対応のワークショップの講師を担当しました。拒絶理由通知は、引用文献に基づき、「新規性」、「進歩性」、「明確性」の欠如を通知するものです。

 

OA対応のワークショップの課題

 

 

特許グループのワークショップの様子

 

参加いただいた現地代理人が所属する法律事務所の大半は、ジェトロHPに掲載されている「東南アジアの現地法律事務所の一覧リスト」に挙がっており、知財に精通している法律事務所又は知財ブティック事務所でした。

 

こうしたセミナーに参加する現地代理人らの実務能力は高く、クレームドラフト、OA対応、侵害検討について、こちらが意図した解答方針に沿った解答を導いていました。

 

彼らは、自国ではエリート集団に属し海外留学も豊富に経験していることから語学堪能であってディベートも得意です。これから経済成長が期待され、知財環境の整備が進んでいくアセアン各国において、彼らは情熱的で野心的であり、本セミナーでも将来の人脈を形成しようとする勢いを感じました。

 

2.アセアン代理人とのコミュニケーション

私がアセアンに駐在した経験もあって、多くのアセアン代理人、アセアン当局の方々と接する機会があり、最近になってアセアンの方々とのコミュニケーションの仕方というものが少し分かってきました

 

お互いに「アジア人同士」で似たような顔立ちをしていますから、話し始めてみると親しみ易く、また「親日な方々が多い」ことが分かります。

 

知財ビジネスの話を始める前に、お互いに相手を知る、信頼できるか見定めることは大事なことと思います。以下、私が彼らとはじめて会話するときに心掛けていることです。

 

 

「(1)最初の自己紹介」では、目を見て笑顔で話す、自分のことを分かり易く伝える、相手の話に共感することが大事です。これに加えて、「アセアンの代理人(弁護士、弁理士)」は、①自分の国が大好きで、②自分たちは自国を代表するエリート階級という誇りがあり、③特に日本の文化や歴史に非常に関心を持っています。

 

そのため、「(2)相手の国に興味を持つこと」は大事です。相手の国で行ったことがある場所、行ってみたい場所を伝えれば、「もっとお勧めの場所があるよ。」とか「絶対行った方がいい。明日私が案内してあげるよ。」、「知り合いのガイドがいるから紹介するよ。」などと教えてくれます。困っている人を見ると、相談されたりすると「何とか役に立ちたい」という心意気(仏教の「慈悲深さ」のようなもの)をもっている方々が多いです。

 

そして、私たちが「(3)日本の文化や歴史を語れること」も大事です。例えば日本で行ったことのある場所、行ってみたい場所を聞けば、彼らは大抵「東京、大阪に行ったことがある。」「北海道で雪祭りを見に行った。」、「今度、新潟でスキーにトライしてみたい。」等と話し始めて、会話が弾むはずです。日本の漫画やアニメに詳しい方々、ラーメンが大好きという方々も多いため、共通点が見つかると一気に親近感が湧いて印象に残ります。

 

せっかく、一期一会で出会って会話が弾んだのであれば、「(4)SNSで連絡先を交換する。」ことで締めたいものです。写真付きの名刺を渡すことはもちろん大事ですが、SNSで繋がっておくことでその後の関係性が築き易くなります、彼らは主にフェイスブック、インスタグラム、ライン、リンクトイン等を利用していますので、これらの一つでもビジネスように利用しておくと良いかと思います。

 

 

ここで、今回の現地セミナーにて「私がアセアン代理人に対して勝手に感じたこと」をお伝えします。

「フィリピン人」:非常にフレンドリーで、特に女性はエンターテイナー。セミナー1日目の夜に仲良くなってカラオケに行ったのですが、皆さん歌うのが上手すぎてダンスも踊れます。ある女性弁護士は、テキーラを飲みながら、情熱的な歌をプロのように歌ってました。

いつも思うのですが、アセアンでは女性の方が男性よりもしっかりしていて、弁護士・弁理士として活躍している実感があります。

 

「インドネシア人」:特に男性は日本の漫画、アニメに詳しい。私が挨拶すると、「俺の大好きな漫画(幽遊白書)の主人公と同じ名前じゃないか!」みたいな感じで、漫画について熱く語ってくれました。私も漫画・アニメが大好きなので意気投合しました。幽遊白書、シティハンターなど、NETFLIXの実写版映画が流行っているようです。

 

「ベトナム人」:特に男性は非常に真面目な人が多い。親日感もひしひし伝わってくる。個人的には一番信頼できるイメージです。

年配の男性は良く飲み始めると、「あの大国に立ち向かって大戦争したのは日本とベトナムだけだ」などと誇らしげに語ってきます。

 

レセプションパーティの様子

 

3.アセアンで特許を取るならばどうするか?

近年、日本企業によるアセアン諸国への進出、特に中国からアセアン諸国への生産移管が進んでおり(ジェトロ地域・分析レポートより)、アセアンにおいて「商標出願」だけでなく「特許出願」の件数も徐々に伸びてきています

 

よく、「アセアンで特許を取得する意味はあるのか?」、「アセアンで実際に特許権を活用できるのか?」等と問い合わせを受けることがあります。「現地でビジネス展開を行うならば、特許権を取得しておくべき」ということがありますが、「発明の重要性と予算のバランス」、「実際に侵害されていたとしてコストに見合った権利行使が可能か。」などと判断が悩ましいです。

 

例えばアセアンで実施する「基本技術」であって、アセアンで特許を取得することを決定したならば、下記の権利化方法を提案したいです。

 

(1)日本で早期審査を行い、できる限りシンプルで明確であって、権利範囲が広いクレームで特許を得ることに全力を注ぐ(拒絶査定不服審判まで徹底的に争って、できる限り権利範囲が広く、審判官のお墨付きを得た安定した権利化を図る)。

 

晴れて日本で特許を取得できれば、(2)アセアン現地で、PPH、(PPH+、CPG)を利用して、日本と同じ権利範囲で早期に権利化を果たす。

 

こうすることで、アセアン特有の「審査の長期化」を避けることができ、また日本で十分に審査・審理がなされた、できる限りシンプルで明確となったクレームで現地でも特許を取ることができます(実務上、PPHを利用することで、そのまま権利化、あるいは形式的な補正を加えての権利化を果たすことができると考えられます)。

 

現地で取得した特許権の発明内容が、現地当局、現地代理人(あるいは第三者)にとって疑義の生じにくい、分かり易い内容であれば、権利活用がし易く、予見性が高い特許になると考えます。

※PPH、PPH+、CPGの詳細については、「以前の記事」をご参照下さい。

 

4.最後に

今回、「JPAAアジアセミナー」に講師として参加し、東南アジアの現地に行くことができましたので、現地代理人とのコミュニケーションを通じて直接肌で感じたことをお伝えしました。

 

今回の情報が東南アジアに興味を持っていただくとともに、東南アジアの知財実務においてご参考になれば幸いです。最後に、ミャンマーを襲った地震被害に対して一刻も早い復旧、復興をお祈りいたします。

 

 

石川 勇介(弁理士、元ジェトロ・バンコク事務所)

専門分野:特許権利化実務(化学/材料/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)、特許調査

 

秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/