
こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田中 研二(弁理士)です。
前々回「補正無し反論」の統計を調べたところ、知人から「進歩性の拒絶理由だけ指摘されたときと、進歩性と明確性の両方が指摘されたとき、どっちのほうが反論成功しやすいんや?」と聞かれました。
前々回の記事では一つの拒絶理由が指摘された場合のみを集計しましたが、確かに複数の拒絶理由が指摘された場合の反論成功率も気になります。
そこで今回は、どのような拒絶理由の組合せであれば反論が成功しやすいのかを見てみました(ちなみに、進歩性のみが指摘されたときの反論成功率が71%であったのに対し、進歩性+明確性が指摘されたときの反論成功率は50%でした)。
1.集計結果
調査対象の母集団は、前々回の記事で使った特許出願2,627件です。
今回は複数の拒絶理由が指摘されたものも含めて集計し、拒絶理由の組合せごとに反論成功率を算出しました。
事例数10件以上のものを反論成功率の高い順に並べたのが以下のグラフです。

※ 前々回の母集団を見直し、「出願時のオムニバスクレームに対して明確性違反が指摘され、そのまま拒絶査定がされたもの」に該当する事例1件をさらに対象から除外したので、明確性の反論成功率が変わっています(92%→93%)。
2.拒絶理由のよくある組合せ
(1)サポート要件+明確性(反論成功率:80%)
サポート要件と明確性が指摘される場合、それぞれ全く別の拒絶理由であることも多く、この場合はそれぞれ独立して対応する必要があります。
一方、たとえばクレームの記載ではAを意味するのかBを意味するのか明確でない事項について、明細書に実質的にAしか記載されていない場合には、サポート要件違反と明確性違反が併せ打ちされるケースが見られます。
この場合、明確性違反を反論で解消できれば、自ずとサポート要件違反も解消されることが多いです。
(2)実施可能要件+明確性(反論成功率:72%)
クレームに不明確な記載があり、明細書を参酌してもよくわからない場合、明確性違反だけでなく「発明の詳細な説明は、クレーム発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない」として実施可能要件違反も指摘されることがあります。
意見書で反論する場合には、不明確とされた記載の意義や発明そのものについて、技術常識や明細書の記載全体に基づいて説明することが多いです。
(3)新規性+進歩性+明確性(反論成功率:58%)・進歩性+明確性(反論成功率:50%)
新規性・進歩性欠如と明確性違反が同時に指摘される場合、両者は無関係の内容であることも多いですが、これらが互いに関連するケースとしては、たとえばクレームに2通りの解釈A、Bが可能な記載があった場合に、当該記載について明確性違反が指摘されるとともに、一方の解釈Aを前提として新規性・進歩性を判断した結果として新規性・進歩性欠如が指摘される場合があります。
この場合、明細書の記載や技術常識に基づいて当該記載はBと解釈すべきであると説明することで明確性違反をクリアできれば、その解釈Bに基づいて新規性・進歩性欠如も解消できる可能性があります。
(4)新規性+進歩性+サポート要件(反論成功率:50%)
新規性とサポート要件が併せ打ちされるケースは、クレームが広すぎる結果、サポート要件違反が指摘されるとともに、本来想定していない先行技術が新規性の根拠として引用される、という場合が少なくありません。クレームを少し補正すれば簡単に拒絶理由を解消できることも多いですが、補正なし反論で頑張ると拒絶査定を食らうこともあるでしょう。
また、分割出願で、分割要件違反+サポート要件違反が指摘されるとともに、出願日が遡及しないことで親出願の公報に基づく新規性・進歩性欠如が指摘されたものも散見されました。
(5)進歩性+サポート要件(反論成功率:46%)
特に化学・バイオ系の発明では、クレームが「予測できない顕著な効果が認められる範囲」よりも広いために、クレーム全体について有利な効果によって進歩性を肯定できず(進歩性欠如)、かつ課題を解決できると当業者が認識できない態様を含む(サポート要件違反)というケースが見られました。
「予測できない顕著な効果が認められる範囲」は、通常のサポート要件の判断基準である「課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」よりも実質的に狭くなる(つまり、厳しく判断される)可能性があり、サポート要件違反だけが指摘された場合(反論成功率87%)よりも進歩性+サポート要件違反が指摘された場合のほうが、一般的には反論が成功しにくくなると考えられます。
(6)実施可能要件+サポート要件(反論成功率:40%)
クレームが実施可能でない態様を含む場合には、同様の理由でサポート要件違反も指摘されることが少なくありません。
このような場合、全体的な傾向として、実施可能要件違反やサポート要件違反が単独で指摘されている場合よりも、明細書の記載が(著しく)不十分であることが多いように思われます。
その結果、実施可能要件+サポート要件の併せ打ちの場合、反論成功率がだいぶ低くなっていると考えられます。
3.まとめ
以上の分析を下記表にまとめました。
縦軸と横軸に拒絶理由を並べており、たとえば「進歩性」と「サポート要件」が交差するマスには、進歩性欠如とサポート要件違反の両方が指摘された場合の反論成功率と大まかな傾向を記載しています。なお、同じ拒絶理由が交差するマスはその拒絶理由のみが指摘された場合の反論成功率を記載しています。
なお、新規性欠如が指摘された場合には基本的に進歩性欠如も指摘されるので、たとえば「新規性」と「サポート要件」が交差するマスは、新規性欠如・進歩性欠如・サポート要件違反の三つが指摘されたケースを示します。

この表を見ると、複数の拒絶理由が併せ打ちされた場合よりも単独の拒絶理由を指摘された場合のほうが、やはりというべきか、総じて反論成功率は高いことがわかります。
また、複数の拒絶理由が互いに独立していれば、当然それらを各々解消する必要がありますが、拒絶理由同士が関連している場合には、一方を解消すれば自ずと他方も解消されることもありそうです。
ただし、拒絶理由同士が関連している場合であっても、比較的反論しやすい組合せ(サポート要件+明確性など)もあれば、反論しにくい組合せ(進歩性+サポート要件、実施可能要件+サポート要件など)もあるようです。
最後に、成功率だけでなく実件数も以下に載せておきます。少しでもみなさまの参考になれば幸いです!


田中 研二(弁理士)
専門分野:特許権利化(主に機械系、材料系)、訴訟
