拒絶理由別の反論成功率を調べてみた

 

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田中 研二(弁理士)です。

 

今回は前回に引き続き、拒絶理由に対する「補正無し反論」に関する統計情報を紹介します。

 

審査では、進歩性だけでなく、サポート要件や明確性など様々な拒絶理由が指摘されますが、みなさまはどのくらい反論しますか?

 

今回は、どの拒絶理由に対して出願人がどのくらい反論しており、その成功率はどの程度なのか、2024年の1年分の審査事例を集計してみました。

 

あくまで集計値なので最終的にはケースバイケースで判断しないといけませんが、拒絶理由をもらったときの反論を検討する際に、ちょっとした参考となれば幸いです。

 

 

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詳細は以下の通りです。

 

1.調査方法

以下の手順(1)~(4)に沿って、拒絶理由別の反論成功率を調査しました。

 

(1)2024年1月1日~12月31日に査定または審決がされた特許出願のうち、1回目の拒絶理由通知に対して補正せずに反論して特許査定または拒絶査定がされ、査定までに補正がされていない全2,627件を抽出しました。

 

(2)(1)の各出願について、1回目の拒絶理由通知で指摘された拒絶理由をリストアップしました。

 

(3)拒絶理由が1つだけ指摘された出願のみを対象として、反論の成否(すなわち、反論の結果、特許査定および拒絶査定のどちらがされたか?)を調べました。ただし、新規性欠如はほぼ進歩性欠如と一緒に指摘されるので、新規性欠如については「新規性+進歩性」が指摘された出願を調べました。

 

(4)(3)の結果に基づいて、拒絶理由に対する反論の成功率を集計しました。

 

※なお、上記(3)において、出願時のオムニバスクレーム(請求項1が「本明細書に記載の発明。」のようなもの)に対して明確性違反が指摘され、補正せずに意見書で「クレームを考えているので審査をもう少し待ってください」のように記載したものの、一定期間が経過して拒絶査定がされたものが少なからず見られました。調査の趣旨に鑑みて、このような事例は例外的に、明確性違反に対して反論した事例としてカウントせず、対象から除外しました。

 

2.調査結果

以下のとおり、比較的指摘が多かった拒絶理由について、反論が成功した件数と反論が失敗した件数を棒グラフで示し、成功率(=反論成功件数÷反論件数)を併記しました。

 

たとえば、進歩性欠如が指摘された出願では、補正せずに反論した1,377件のうち975件で反論が成功して特許査定がされたので、成功率は71%(975/1,377)と算出しました。

 

 

進歩性欠如に対して反論した場合と、新規性欠如+進歩性欠如に対して反論した場合とで、それほど反論成功率に開きがないのはちょっと意外に思われるかもしれません。

 

具体的な拒絶理由の中身を見てみると、新規性欠如+進歩性欠如に対する反論は、(新規性を争っているので当然といえば当然ですが)引用発明の認定を争うケースがほとんどです。

 

このような引用発明の認定の反論に成功すれば、拒絶理由の土台が覆るので、新規性欠如だけでなく進歩性欠如まで一気に解消できることも多いようです。

 

これに対して、進歩性欠如に対する反論は、引用発明の認定だけでなく、動機づけ、阻害要因、設計事項、有利な効果など反論成功率が異なる種々の論点があり(筆者の論文もご参照ください)、それらを均した成功率が71%であると理解できます。このため、単純に新規性の反論成功率と比較することはできないと思います。

 

記載要件については、サポート要件と明確性の反論成功率がかなり高いのに対して、実施可能要件の反論成功率が少し低いのは、体感的にそれほど違和感はありません。

 

なお、同日出願については、反論というより、他方の出願の補正や協議結果の届出によって拒絶理由を解消しているものが大半でした。

 

3.技術分野ごとの傾向

もう少し解像度を上げるために、技術分野ごとの傾向を見てみましょう。

 

今回は簡単に特許庁の審査部で分けてみました。

 

「審査第一部」は物理・分析・光学・建設・農林水産・アミューズメントなどを扱っており、「審査第二部」は機械・制御分野、「審査第三部」は化学・バイオ分野、「審査第四部」は電気・電子・情報・通信分野を主に扱っています。

 

 

技術分野による違いが目立つのは、サポート要件と実施可能要件です。

 

サポート要件については、機械・制御分野の反論成功率が若干低めに出ていますが、事例内容を見ると、クレームの限定不足で課題を解決できない態様がクレームに包含されていたため拒絶されてしまったものが多いようです。

 

実施可能要件については、電気・情報・通信分野の反論成功率が他分野よりも低く出ています。この分野の実施可能要件はそもそも事例数が少ない(全9件)ですが、具体的なアルゴリズムが明細書に記載されておらず、技術常識に基づく反論も奏功しなかった事例が見られました。

 

逆に、実施可能要件の反論成功率が高い機械分野では、明細書の開示内容をベースに発明の原理を丁寧に説明することで拒絶理由を解消していた案件が多いようです。

 

4.まとめ

今回は拒絶理由ごとの反論成功率を調べてみました。みなさまの体感と一致していたでしょうか?

 

もし「この拒絶理由、意外と成功率高いのねえ」と感じられたなら、次にその拒絶理由を受けたときは反論できないか検討してみてもよいかもしれません。

 

もし機会があれば、拒絶理由ごとのより詳しい分析もやってみたいと思います。

 

最後に、上記グラフに示していないマイナーな拒絶理由も含めた数字を以下に載せておきます。少しでもみなさまの参考になれば幸いです!

 

 

 

田中 研二(弁理士)

専門分野:特許権利化(主に機械系、材料系)、訴訟