なぜ引用発明の上位概念化が進歩性の否定に繋がるのか?(3)

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田中 研二(弁理士)です。

 

前々回前回に引き続き、「引用発明の上位概念化」について考えてみます。

これまで、上位概念化を「捨象」と「抽象化」に分け、「抽象化」はさらに「構成の抽象化」と「発明の前提の抽象化」に分けて、以下のように類型化してきました。

 

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今回の記事では、「発明の前提の抽象化」が進歩性の否定に繋がる理由を考察するとともに、前々回・前回の内容も踏まえて、引用発明の上位概念化と進歩性との関係をまとめてみようと思います。

 

「発明の前提」の抽象化

それでは、「発明の前提」が抽象化される場合を考えてみましょう。
ここで「発明の前提」とは、構成以外で引用発明を特定する要素を指し、具体的には発明の技術分野や課題が挙げられます。

 

「発明の前提」の抽象化としてよくあるのは、次のようなケースです。

 

本願発明は、これまでと同じく「みかん果汁、保存料X、および香料Zを含む果汁飲料」です。一方、主引用発明は保存料Xを含む果汁飲料であり、香料Zを含まない点で本願発明と相違します。
ここで、以下のような拒絶理由が通知されたとしましょう。

副引用発明である「香料Zを含む野菜飲料」は主引用発明と同じ「飲料」の技術分野に属することから、当業者が副引用発明を主引用発明に適用する動機付けがある。
したがって、本願発明は、主引用発明および副引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

 

 さらっと書かれていますが、主引用発明の「果汁飲料」が「飲料」に上位概念化され、副引用発明の「野菜飲料」も「飲料」に上位概念化されています。これは、主引用発明および副引用発明の「技術分野」の抽象化にあたります。

 

 

あるいは、上記例において、副引用例に「より飲みやすい香り付けがされた野菜飲料を提供することを課題とする。」と記載されており、この課題を解決するために香料Zを配合する旨が開示されている場合において、次のように判断された場合はどうでしょうか?

 

主引用発明の果汁飲料においても、より飲みやすい香り付けをするという課題が存在することは自明であるので、主引用発明において、副引用発明を参照して、より飲みやすい香り付けをするために香料Zを配合することは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、本願発明は、主引用発明および副引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

 

ここでは、副引用発明の「野菜飲料を飲みやすくするための香り付けをする」という課題が「(一般的に)飲料を飲みやすくするための香り付けをする」という課題に抽象化された上で、この抽象化された課題は主引用発明にも内在するとして、副引用発明を主引用発明に適用する動機付けがあると判断されています。

 

 

このように、発明の前提となる技術分野や課題を上位概念化すると、主引用発明と副引用発明とを組み合わせる動機付けが認められやすくなることが多いです。

 

これを図式化すると、以下のとおりです。

 

 

このような上位概念化が認められるかどうかは、実際には事案によるところが大きいと感じます。

たとえば、上記の例では、副引用発明において香料Zが野菜汁に特有の臭みを消すためのものであれば、みかんジュースなどの果汁飲料と同一視できるまで副引用発明の技術分野や課題を抽象化することは許容されない、などと反論できそうです。

このように、副引用発明を「野菜飲料に香料Zを使用する発明」としか認定できないか、それとも「飲料に香料Zを使用する発明」と上位概念で認定できるかは、副引用発明における香料Zの技術的意義に依拠すると考えられます。

 

したがって、もし拒絶理由において副引用発明の前提が抽象化されている場合には、まず(本願発明と主引用発明との)相違点に対応する副引用発明の構成が副引用発明においてどのような技術的意義を有するかを検討した上で、その技術的意義に照らして、副引用発明の前提の抽象化が妥当かどうかを検討してみるとよいでしょう。

 

以上のような「前提の抽象化」は、副引用発明を主引用発明に適用する動機付けがあるといえるように、引用発明の前提を抽象化するものです。

このため、(1) 適用しようとする副引用発明の前提を抽象化するケース、(2) 適用される側の主引用発明の前提を抽象化するケース、(3)その両方を抽象化するケース(上記例では、「果汁飲料」と「野菜飲料」をいずれも「飲料」に抽象化しています)のいずれもあり得ますが、実務的には(1)と(3)が多いように感じます。

ただし、いずれの場合も、拒絶理由通知で審査官が親切に「引用発明を抽象化して認定したよ」と書いてくれることはほとんどありません。

このため、出願人サイドとしては、進歩性対応時に「引用発明が適切に認定されているか?」「都合よく上位概念化されていないか?」というアンテナを張っておくことが重要といえるでしょう。

 

まとめ

以上全3回にわたって見てきた「引用発明の上位概念化」について、留意点も含めて下記表にまとめてみました。

 

こうして見ると、一口に「引用発明の上位概念化」といっても様々なパターンがあることがわかります。

そして、どのパターンも、副引用発明を主引用発明に適用する際の動機付けまたは阻害要因に関連しています。

発明の要素を捨象または抽象化すると、「当業者が副引用発明を主引用発明に適用することが容易であった」と言いやすくなるので、結果として進歩性が否定される方向に働きます。

 

しかしながら、もちろん常に発明の上位概念化が許されるわけではありません。

ここまで見てきたように、引用発明の特定の要素を捨象または抽象化できるか否かは、当該要素の技術的意義本願発明の抽象度相違点に対応する副引用発明の構成の技術的意義などに照らして検討すべきです。

なお、実務上は、複数の引用例からその共通部分を抽出して周知技術として認定したり、これを設計事項の根拠とすることもよく見られます。

これを副引用発明の上位概念化の一種と見ることもできますが、特有の論点もいろいろありそうなので、このような「複数引例に基づく上位概念化」についての検討は別の機会に譲ることにします。

 

田中 研二(弁理士)

専門分野:特許権利化(主に機械系、材料系)、訴訟