こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田中 研二(弁理士)です。
突然ですが、私は素早いクレームドラフティングが得意ではありません。
発明ヒアリングをしながらサラッとクレームを書けるとカッコいいなあと思いつつも、恥ずかしながら、未だにその場でのクレーム作成にはもたつきますし、それよりも事前に提案書を読みながら時間を使ってクレームを用意するスタイルのほうが好きだったりします。
とはいえ、ヒアリングの場で次々に新しい情報が出てきたりすると、やはりその場で素早くクレームを作る能力が求められる場面はありますよね。また、事業内容や競合他社の情報を詳しく聞いてみると、事前に用意したクレーム案が全然使えない…ということもあります。
ではどうやってクレームドラフティングのスキルを伸ばすかといえば、基本的に経験あるのみではないかと思います。
どんなに手早くその場でクレームを作れる先生方も、初めからそうだったわけではなく、繰り返しクレーム作成の経験を積むことでそのスキルを体得されたのだと推察します。
そこで今回は、私が最近やっているChatGPTを使ったクレームドラフティングの練習方法を紹介してみます。 ※本記事の内容は、2024/7/14にChatGPT 4.0oを使用して検証したものです。
1.気になる公報をChatGPTに読み込ませる
まず、練習したい技術分野の出願公開公報を用意します。
出願人や代理人で選んでもよいです。また、特許済みの出願であれば、審査過程も見られるので、より学びが深いかもしれません。
今回は、試しに「特開2021-123456」のPDFデータをJ-PlatPatでダウンロードしました。
発明は、フィルムを原反から別の巻取軸に巻き替える「フィルム巻替装置」に関するもののようです。 ここでは、まだ公報の中身は見ないようにして、公報のPDFをChatGPTにアップロードし、以下のようにお願いしてみます。
2.クレームドラフトのお題を出題してもらう
そうすると、ChatGPTが、発明の内容をわかりやすく説明してくれます。
「エキスパンダーロール」の構成を従来から変更したのがポイントのようですが、ちょっとまだよくわからないので、発明ヒアリングのつもりでもう少し詳しく聞いてみます。
発明を理解できるだけの情報が得られたら、早速クレームを書いてみます。
いくつか発明の効果が挙げられている場合は、最も重要そうな効果を選んで、それに対応するようにメインクレームを作成してみましょう。
今回は、とにかくクレームドラフトの数をこなすこととスピードを上げることに重点を置いているので、制限時間を決めて書き上げました。 ここではメインクレームだけ書きましたが、目的によってはもちろんサブクレームまで作成してもOKです。
3.元のクレームと比較して学びを得る
クレームを提出すると、ChatGPTが公報のクレームと比較してレビューしてくれます。
ただし、あまり的確ではない指摘も多いので、どちらかというと直接公報のクレームを見て、自分の目でクレームを比較したほうが手っ取り早いかもしれません。 以下、今回のレビュー結果(長いので一部だけ)を貼っておきます。
自分で書いたクレームと実際に出願されたクレームとを比較すると、思った以上に学びが大きいです。自分が悩んだ箇所がスマートに表現されていたり、自分よりも上位概念で発明が捉えられていたり、逆にもっと具体的な構成が特定されていたり。
また、先行技術との関係については、審査経過を見てみるのもお勧めです。「実際に審査で引かれた文献を知っていたら、どうクレームしたか?」という追加問題をやってみるのもいいでしょう。
個人的に、この方法の一番のメリットは、スマホでクレームドラフティングの練習ができるので、通退勤などの隙間時間を使える点です。
これまでもクレームドラフティングの題材を提示する書籍はありましたが、どれも机で腰を据えてやるようなものでした。また、当然ながら電車の中で実案件のクレームドラフトをすることは御法度です。
しかし、この方法であれば、J-PlatPatから公報をダウンロードしてChatGPTにアップロードするだけで、お手軽にクレームドラフティングを始めることができます。
ちなみに、公報に基づいて出題してもらうと、公報のクレームと比較できて嬉しいのですが、一方で発明がそれなりに整理された状態で出題されることが多いです。 発明の整理からチャレンジしたいという方は、いっそのこと公報なしで、以下のようにChatGPTにお願いするのもいいでしょう(ただし、お題によってはかなり発散します)。
田中 研二(弁理士)
専門分野:特許権利化(主に機械系、材料系)、訴訟