[実施例]の評価結果を〇×で示すことのメリット・デメリット

こんにちは、知財実務情報Lab.管理人の高橋政治(弁理士・技術士)です。

 

明細書の[実施例]の欄に評価結果を示す際、良好な結果であるものを○、そうではないものを×と示す場合があります。

 

今回は、この〇×評価のメリットとデメリットについて記載したいと思います。

 

 

明細書の[実施例]の欄において、各実施例および比較例の結果を評価する際、それを〇×で表わす場合があります。◎、△などが含まれる場合もあります。

 

例えば、本発明の効果が「硬度が高い」であれば、各実施例および比較例における硬度の測定結果を示すべきですが、測定結果としての硬度を数値で示すのではなく、「硬度が100kgf/mm2以上であれば良好であるため“○”、100kgf/mm2未満であれば不良であるため“×”」のように記載したうえで、各実施例および比較例について“○”または“×”のみを記す方法です。

 

 

この示し方のメリットとして、実際の硬度の測定結果を隠すことができること、および、どれが良好でありどれが不良であるかが分かりやすいことが挙げられます。

 

しかし前者については本質的には隠せていません。それは当業者が同じ実験を行って得た結果物を測定すれば分かることだからです。ここで当業者が硬度を測定できる程度に[実施例]に測定方法を記載しなければ隠せることになりますが、その場合は実施可能要件違反(36条4項1号違反)ということになるでしょう。

 

一方で、この示し方のデメリットは、補正に利用し難いことにあります。実施例1、2、3の硬度が〇×ではなく、数値で100kgf/mm2、200kgf/mm2、300kgf/mm2のように記載されていれば、審査において硬度が150kgf/mm2の引用発明が見つかった場合に、実施例2の数値を用いて本発明を「硬度が200kgf/mm2以上であるもの」に限定する補正を行って引用発明との差異を出せる場合があります。

 

しかし、上記の例のように「硬度が100kgf/mm2以上であれば良好であるため“○”、100kgf/mm2未満であれば不良であるため“×”」のように記載したうえで、各実施例および比較例について“○”または“×”のみを記してあると、本発明を「硬度が100kgf/mm2以上であるもの」に限定する補正は可能としても、「硬度が200kgf/mm2以上であるもの」に限定する補正は不可能です。

 

また、〇×で示す場合、実施例間における効果の比較が不可能になる点もデメリットして挙げられます。

 

例えば実施例は全て○、比較例は全て×と示している場合、補正によって[特許請求の範囲]の発明の範囲が減縮されると、減縮補正後の[特許請求の範囲]の発明の範囲に含まれていない例(補正前は[特許請求の範囲]内であったが、補正後は[特許請求の範囲]外になった実施例)も評価が○となってしまいます。

 

ここで例えば「硬度が100kgf/mm2以上であれば良好であるため“○”、100kgf/mm2未満であれば不良であるため“×”」としてあったところ、減縮補正後は[特許請求の範囲]の発明の範囲に含まれている実施例のみ評価が○となるように、「硬度が200kgf/mm2以上であれば良好であるため“○”、200kgf/mm2未満であれば不良であるため“×”」のように基準を変える補正は認められないでしょう(新規事項追加となる)。

 

そうすると減縮補正後の[特許請求の範囲]の発明の範囲に含まれていない実施例は削除する補正を行わざるを得なくなる可能性があります。

 

ここで削除補正を行えばツジツマが合うことになりますが、後に特許査定後または拒絶査定後の分割出願を行う場合に、削除した実施例を復活させることができなくなり、その分割出願において実施例が少ない状態になり、それがその分割出願の権利化可能性を下げる要因となり得るでしょう。

 

以上より、各実施例および比較例の結果の評価は〇×ではない方が好ましいと言えます。

 

なお、「硬度が100kgf/mm2以上であれば良好であるため“○”、100kgf/mm2以下であれば不良であるため“×”」のように記載してはなりません。

 

硬度がちょうど100kgf/mm2である場合が○であるか×であるか不明になるからです。「硬度が100kgf/mm2以上であれば良好であるため“○”、100kgf/mm2未満であれば不良であるため“×”」のように記載しなければなりません。