「発明」とは「課題+解決手段+効果」の3点セット

こんにちは、知財実務情報Lab. 管理人の高橋政治(弁理士・技術士)です。

  

発明者が作成した発明提案書に、発明ではなく発見が記載されていたり、願望・結果・効果だけが記載されていたりするケースがありますよね。

 

このような場合、知財専門家は発明者に「発見」や「願望・結果・効果」は特許制度における保護対象ではないことを説明する必要がありますよね。

 

今回は、発見や願望・結果・効果は発明ではないので権利化できないこと、および特許法において保護され得る「発明」がどのようなものであるかについて記します。

 

 

 

「発見」や「願望・結果・効果」は発明ではない

特許出願に向けた打合せをしていると、発明者が「すでに販売されている化学物質Aについて粉末X線回折測定を行ったら珍しいチャートが得られたので、「粉末X線回折チャートの形状が〇〇となる化学物質A」という請求項で特許出願したい」というようなことを言ったり、そのように発明提案書に記載されていたりするケースがあります。

 

これは既に公知である化学物質Aを、従来とは別の視点から規定して特許を取りたいといっていることになります。

 

別の言い方をすると、上から見て円である円柱を横から見たら長方形の円柱だから、上から見たら円である公知の円柱について、横から見たら長方形の円柱として特許が取れると言っているようなものです。

 

上から見たら円である円柱は、従来、横から見たら長方形です。横から見たら長方形、が今始まったわけではありません。

 

仮に従来、円柱を横から見た人はおらず、この発明者が初めて横から見たとしても、この発明者が横から見たら長方形であることを「発見」したに過ぎません

 

また、上から見たら円の円柱に特許権が付与されている場合に、横から見たら長方形の円柱に特許権が付与されてしまっては、同一対象に2つの特許権が付与されることになり不合理です。

 

上記の例であれば、販売されている化学物質Aについて、その発明者が初めて粉末X線回折分析を行ったとしても、その化学物質Aは、その発明者が発見する前から、もし粉末X線回折分析を行えばチャートの形状が〇〇となるものでした。

 

発明者はそれを「発見」したに過ぎません。

 

特許法は「発明」を保護し得るが「発見」は保護しません。よって、上記の例の化学物質Aについて特許を取ることはできません。

 

 

上記と同様、特許出願に向けた打合せをしていると、発明者が「〇〇を達成できる・・・物」や「不純物含有率が〇%以下である・・・物」のように願望、結果または効果を請求項に記載した発明について特許出願を希望する場合があります。

 

確かに、願望、結果または効果を請求項に記載して特許権を取得できる場合はあります。実際、願望、結果または効果を示しているに等しいパラメータ発明が請求項に記載された特許を見かけることがあります。おそらく上記のような発明者はそのようなパラメータ発明を見て、願望等も特許権が取得できると勘違いしていると思われます。

 

願望、結果または効果を請求項に記載した場合、そのような願望をかなえる全ての手段、そのような結果が得られる全ての手段、または、そのような効果が発揮される全ての手段を請求項に記載したことと同じであることを理解しなければなりません。

 

通常、その発明の範囲は極めて広くなるため、新規性が否定される可能性が極めて高くなります。

 

また、請求項に願望、結果または効果を記載した場合、それが具体的にどのようなものかの例を挙げたうえでその作用効果を説明するか、または、できるだけ多くの具体例を挙げて明細書中に記載しないと、サポート要件違反(特許法36条6項1号違反)となることも理解しなければなりません。

 

したがって、発明者が願望、結果または効果を請求項に記載して特許出願を希望した場合、その具体例をできるだけ多く説明してもらうべきです。

 

具体例に加えて作用効果を説明することができるか、または、多くの具体例を挙げることができるなら、願望、結果または効果を請求項に記載した特許出願を行っても権利化できる可能性はあります。

 

しかし、具体例が1つしかないのであれば、願望等ではなく、その具体例をできるだけ上位概念化した請求項とするべきでしょう。

 

 

また、ここで挙げた具体例が公知例であるというケースをしばしば見かけます。従来公知である物について、その物が特定の効果を発揮することは知られていない、または先行技術文献に記載されていないので特許が取れると考えているようです。これについては前述の通り、「発明」ではなく「発見」であるため特許は取れないということになります。

 

さらに、具体例が1つもないというケースもしばしば見かけます。そのような発明者は、特定の願望、結果または効果に目を付けたこと自体が発明であると認識しているようです。

 

このような場合、次に説明するように、特許法によって保護され得る「発明」に該当しないことを理解して頂く必要があります。

 

「発明」とは「課題+解決手段+効果」の3点セット

特許法によって保護され得る「発明」とはどのようなものであるかについては種々の意見があると思いますが、筆者は「発明とは「課題+解決手段+効果」の3点セットであると考える」と理解しやすいと考えています。

 

ここで「課題」と「効果」は表裏一体です。

 

「従来、Aができなかった」が「課題」であり、その逆の「Aができるようになった」が「効果」です。

 

そして、「課題」を解決して「効果」を発揮するものが「解決手段」であり、特許法は原則としてこの「解決手段」に特許権を付与します。よって「解決手段」を請求項に記載します。

 

 

発明が「課題+解決手段+効果」の3点セットであると理解していれば、前述のように、願望・結果・効果だけしか存在していない場合、解決手段が存在しないので、特許が取得できないことは明らかです。

 

しかし、請求項に願望等が記載されているのに特許が成立しているケースもあると指摘したくなる方もいるでしょう。確かにそのようなケースは存在します。

 

上記のように、請求項に記載されているものは「解決手段」であると理解されます。

 

したがって、請求項に願望等が記載されているのであれば、その請求項には、その願望等をかなえる全ての解決手段が記載されていると理解されることになります。

 

そうすると、その願望等をかなえる全ての解決手段が明細書中に説明されていることが求められ、説明されていない場合はサポート要件違反(36条6項1号違反)となります。

 

したがって、請求項に願望等が記載されているのに特許が成立しているケースは、願望・結果・効果だけではなく、解決手段も存在していて、その解決手段が明細書中に記載されているはずです。

 

だからこそサポート要件違反とならずに特許が成立しているのです(もちろん、新規性、進歩性等についても満たすと判断されている)。

 

 

さらに、発明が「課題+解決手段+効果」の3点セットであると理解しておくと進歩性を理解することにも役立ちます。

 

例えば引用発明1と引用発明2とを組み合わせることで本発明と同じ「解決手段」となっても、本発明と「課題」が異なるのであれば、その引用発明1,2は本発明とは別の発明と認定されることがあります。 

 

また、例えば引用発明1と引用発明2とを組み合わせることで本発明と同じ「解決手段」となっても、本発明が引用発明1,2に対して、顕著に有利な「効果」を発揮するのであれば、本発明はその引用発明1,2とは異なることになり、進歩性が認定されることがあります。

 

 

このように、「発明」は「課題+解決手段+効果」の3点セットである」との理解は特許実務における種々の場面において理解を容易にすると思います。

 

しかし、万能ではない点に注意して下さい。例えば本発明の新規性を判断する際、引用発明と本発明との構成要件、すなわち「解決手段」を対比するのであって、引用発明における「課題」および「効果」は考慮しないことが原則です。

 

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