最近の裁判例から考える明細書の書き方(その1)

 

弁護士・弁理士の高石秀樹先生が「弁護士高石秀樹の特許チャンネル」というYoutubeチャンネルにて、裁判例に基づく動画セミナーをたくさん提供して下さっています。

 

今回、そのうち1つを私(弁理士・技術士 高橋政治)が視聴し、そこから得た知見を、明細書作成の際にどのように反映させるべきか等を検討してみました。

 

そして、直接、高石先生へ質問させて頂き、色々とご教示頂きました。

 

ここにまとめますので、皆さまが明細書を作成するときの参考にして頂ければと思います。

 

なお、記事については高石先生に公認いただいております!

   

 

今回は、上に動画を示してあります、『【特許】明細書中の「本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である」という記載と、進歩性判断』と題する動画セミナーを視聴してみました。

   

以下は、私からの質問と、高石先生からの回答です。

 

高橋
高橋

今回の動画セミナーを視聴させて頂き、明細書内に「本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である」と記載した場合、攻撃される側ならば(無効審判された場合等)、本件発明が非限定的に認定されることから新規性、進歩性が否定されやすくなって不利に働き、一方で、攻撃する側ならば(他社を侵害で訴える場合等)、本件発明の範囲が広く解されることから有利に働く、ということだと理解いたしました。

 

そうすると、明細書作成時において「本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である」と記載した方がよく、記載すると、これを明細書の記載しなかった場合と比較して、発明の範囲が広くなると考えられるのでしょうか?

  


高石先生
高石先生

気休め程度かもしれませんが、これを明細書の記載しなかった場合と比較して、発明の範囲が狭くなることを抑止する効果はあると考えます。

 

まず、発明の技術的範囲は、当然、請求項の記載で決まります。

 

また、請求項に記載の発明の技術的範囲の解釈が、明細書の記載および図面を考慮して行われることも、70条2項より当然のことです。

  

したがって、「本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である」と明細書に記載したとしても、それは当然のことを確認のために記載しているにすぎないことになります。

 

しかしながら、被疑侵害者が、明細書に「発明の技術的範囲が限定解釈されるような」記載があると主張してきた場合に、「本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である」と書いてあれば、そのような主張を押し返す効果(発明の範囲が狭くなることを抑止する効果)はあると考えます。

  

高橋
高橋

なるほど、そうなんですね。

「本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である」と似たような話で、【実施例】の欄の初めに「本発明は以下に説明する実施例に限定されない」と記載される場合も多いと思います。

これも同様と考えて良いのでしょうか?

  

高石先生
高石先生

私は同様と考えています。すなわち、【実施例】の欄の初めに「本発明は以下に説明する実施例に限定されない」と記載した場合も、被疑侵害者が、明細書に「発明の技術的範囲が限定解釈されるような」記載があると主張してきた場合に、「本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である」と書いてあれば、そのような主張を押し返す効果(発明の範囲が狭くなることを抑止する効果)はあると考えます。

  

  

高橋
高橋

明細書中に、発明の技術的範囲が限定解釈されるようなことを記載してしまったものの、権利化後に「限定解釈されないです」と強引に主張したい場合に、明細書中の「発明の技術的範囲が限定解釈されるような」ことを削除する訂正を行うことはできるのでしょうか?

 

高石先生
高石先生

教科書的には、発明の詳細な説明の削除により、発明(の要旨)が拡張・変更する場合は、訂正はできないということになりましょう。

 

上記の人工乳首事件(東京高判平成14年(行ケ)第539号)は、逆に実施例を追加して発明(の要旨)が拡張されるという事案でしたが、理論的には同様です。

 

例えば、複数の測定方法があるパラメータ発明において、どちらでも充足しなければ非充足という場面において、片方の測定方法を潰す訂正をすれば、発明の技術的範囲が拡張されますから、訂正要件違反となりましょう。(測定方法の追加が新規事項追加とされた裁判例としては、平成27年(行ケ)第10234号があります。)

 

ただし、実際に発明の詳細な説明の削除が新規事項追加とされた裁判例は殆どありませんから、教科書的なロジックが裁判所で通じるかは別問題です。

 

また、そのような削除をして、訂正の遡及効があったとしても、裁判所は、当所明細書の記載を考慮して、やはり限定解釈するかもしれません。

 

このような不透明性が残る中で、訂正拒絶となれば藪蛇ですから、かかる訂正をするか否かは、戦略上慎重に考えることが望ましいと思われます。

  

    

以上をまとめますと、今回の動画セミナーから得られた、明細書作成時における注意点等は、以下となります。

 

① 発明の範囲(請求項に記載の発明の範囲)を限定解釈されてしまうようなことを明細書内に記載しないことが重要であり、それに比べれば、明細書中に「本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である」と書くか書かないかは重要ではない。

 

② 明細書中に「本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である」とか「本発明は以下に説明する実施例に限定されない」とかを書くことは、発明を拡げる効果はまでは無いが、被疑侵害者が、明細書に「発明の技術的範囲が限定解釈されるような」記載があると主張してきた場合に、そのような主張を押し返す効果(発明の範囲が狭くなることを抑止する効果)はある。

 

今回は「弁護士高石秀樹の特許チャンネル」の中の『【特許】明細書中の「本件発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である」という記載と、進歩性判断』と題する動画セミナーを視聴して、高石先生に質問に回答して頂いた上で、得られた知見を明細書作成の際にどのように反映させるべきか等をまとめてみました。

 

弁護士高石秀樹の特許チャンネル」ではいろいろな動画セミナーが公開されていますので、今後、他の動画セミナーも視聴して、「それでは明細書はどのように記載すべきなのか」を検討し、ここにまとめて公開していきたいと思います。

 

皆さまも、「弁護士高石秀樹の特許チャンネル」にチャンネル登録して、動画セミナーで勉強しましょう。

 

高橋政治(知財実務情報Lab.管理人、弁理士・技術士(金属部門
)、ソナーレ特許事務所 パートナー)

専門分野:特許の権利化実務(主に化学系、機械系)