パラメータ発明の進歩性が認められやすい理由

こんにちは、知財実務情報Lab.管理人の高橋です。

 

パラメータ発明の進歩性が認められやすい理由について書いてみようと思います。

 

以下の新規性・進歩性の判断フローを用いて、パラメータ発明の進歩性の判断方法を確認します。

 

 

 

 

このフローの左上から右上へ向かう流れは、新規性の判断フローになっています。

 
本発明を認定し、主となる引用文献1を挙げて発明Aを認定し、発明Aと本発明とを対比して相違点がなければ新規性は無い、相違点があれば新規性は有る、と認定します。

 

パラメータ発明の場合も全く同一の判断方法ですが、パラメータ自体が新しいかではなく、パラメータで規定する発明の範囲と、従来技術(発明A)とを対比して、新規性を判断する点がポイントになります。

 

このようにして判断した結果、新規性が有るという場合、フローの左下へ移動し、「相違点が他の引用文献に記載されているか」を判断します。

 
そうすると、パラメータ発明の場合、パラメータ自体は先行文献に記載されてないので、Yesになり難く、つまり、Noになるので、次は、動機づけの判断ではなく、設計事項であるか否かの判断となるケースが多くなります。

 

そして、パラメータ自体は当業者が実験的に最適化しようと試みる対象とは言い難いため、設計事項と判断されることも少なくなります。

 

そうすると、フローの③のルートから、「進歩性あり」に到達することが多くなります。

 

これがパラメータ発明の進歩性が認められやすい理由ということになります。

 

 

一方で、パラメータ発明の進歩性が否定されたケースもあります。

 

例えば、ランフラットタイヤ事件(H29年(行ケ)第10058号)が挙げられます。ランフラットタイヤ事件(H29年(行ケ)第10058号)の判旨は以下の通りです。

 

本件特許の優先日当時,当業者は,乱流による放熱効果の観点から,タイヤ表面の凹凸部における,突部のピッチ(p)と突部の高さ(h)との関係及び溝部の幅(p-w)と突部の幅(w)との関係について,当然に着目するものである。そして,甲2技術は,凹部の形成により,乱流を発生させ,温度低下作用を果たすものであるから,当業者は,甲2技術の凹部における,突部のピッチ(p)と突部の高さ(h)との関係及び溝部の幅(p-w)と突部の幅(w)との関係に着目する・・・。

引用例2には,甲2技術として,放熱効果の観点から,「5≦p/h≦20,かつ,1≦(p-w)/w≦99の関係を満足する凹部30」が記載されていると認められる。・・・引用発明に甲2技術を適用する動機付けは十分に存在する・・・・

本件発明1は,凹凸部の構造を,「10.0≦p/h≦20.0,かつ,4.0≦(p-w)/w≦39.0」の数値範囲に限定するものの,当該数値範囲に限定する技術的意義は認められないといわざるを得ない。よって,引用発明に甲2技術を適用した構成における凹凸部の構造について,パラメータp/hを,「10.0≦p/h≦20.0」の数値範囲に特定し,かつ,パラメータ(p-w)/wを,「4.0≦(p-w)/w≦39.0」の数値範囲に特定することは,数値を好適化したものにすぎず,当業者が適宜調整する設計事項というべきである。・・・ 

 

このようにランフラットタイヤ事件では、[1]パラメータに着目できた→[2]主引例と副引例の組合せは動機付けあり→[3]数値に顕著な効果なし→[4]数値範囲は設計事項→[5]進歩性なし、という流れで進歩性が否定されています。

 

しかしながら、ランフラットタイヤ事件のように従来技術に基づいてパラメータ自体に想到できると判断可能なケースは少ないはずですので、結局のところ、パラメータ発明の進歩性が否定されるケースはマレと言えると思います。つまり、パラメータ発明の進歩性は認められやすいと言えると思います。