パラメータが新規であることのみによっては発明の新規性は認められない

こんにちは、知財実務情報Lab.管理人の高橋です。

 

今後、何回かにわたって(もしかしたら数十回にわたって)、パラメータ発明に関することを書いてみようと思います。

 

今回は「パラメータが新規であることのみによっては発明の新規性は認められない」と題して書いてみます。

 

さて、パラメータ発明について特許出願のご相談を頂くことがありますが、そのパラメータ発明におけるパラメータは、実際のところ、次の例1、例2に示すような「見つけた特性」であることが多いです。

  

(例1)従来品(金属材料)のX線回折パターンをとってみたら珍しい形だったので、これに基づいて「X線回折パターンの形が・・・である金属材料」というクレームで出願したい。

 

(例2)従来品(組成物)について性能評価試験をしたら、珍しい振る舞いをする(・・・という条件の時に組成物の粘度が高くなる)ことが分かったので、これに基づいて「・・・という実験をしたときに粘度が○以上となる組成物」というクレームで出願したい。

 

ここで例1の「X線回折パターンの形が・・・である金属材料」も、例2の「・・・という実験をしたときに粘度が○以上となる組成物」も、発明者が見出したものですから、このようなパラメータ自体およびこれに類似するパラメータ自体は先行技術文献に記載されていません。

 

この場合、パラメータ自体が先行技術文献に記載されていないからという理由で特許が取れると勘違いしている方が、少なからずいます。

 

しかし、例1、例2の場合、従来品における「これまで知られていなかった特性に、今になって気が付いただけ」です。

 

前から見て四角に見えていた物を、上から見たら円形であることに気が付いたので、従来、四角であると言っていた物を「円形だから新規の物だ」と言っているようなもので、見る角度を変えただけにすぎず、その「円形の物」は従来品であることに変わりはありません。

 

例1の場合であれば「X線回折パターンの形が・・・である金属材料」というクレームは従来品(金属材料)を従来に無い方法で表現したに過ぎず、例2の場合も同様に、「・・・という実験をしたときに粘度が○以上となる組成物」というクレームは従来品(組成物)を従来に無い方法で表現したに過ぎません。従来品であることに変わりません。

 
したがって、これらのクレームは、いずれも新規性が無いということになります。

 

 

ただし、「X線回折パターンの形が・・・である金属材料」や「・・・という実験をしたときに粘度が○以上となる組成物」というクレームが権利化されてしまうケースがあるのは事実です。

 

例えば従来品が「市場に出回っている製品」であって、文献には記載されていないケースの場合、通常、特許庁の審査官は文献の記載に基づいて新規性や進歩性を判断しますので、その製品についての説明資料のようなものが入手できなければ、新規性や進歩性を否定することは困難です。

 

また、審査官が仮に「市場に出回っている製品」についての説明資料を入手できたとしても、例えば例1の「金属材料」について、従来、X線回折パターンを測定したことはなかったはずですから、その説明資料にX線回折パターンは示されていません。

 
その「金属材料」が「先行技術文献に記載されている具体例(実施例等)」であった場合も同様で、その文献(公開公報)にはX線回折パターンは示されていません。

 

そうすると、何らかの理由により「従来品についてのX線回折パターンの形状はクレームに記載と同様になる蓋然性が高い」と言えるロジックを組めない限り、新規性や進歩性は否定できないことになります。

 
例えば、明細書中に挙げられている具体例と従来品とが同一または類似していれば、審査官はX線回折パターンを入手できていなくても新規性がないと判断できます。

 
すなわち、パラメータ発明におけるパラメータは従来存在していなかったものであるため発明の技術的範囲を理解し難く、また実施することが難しいことから、明確性要件または実施可能要件を満たすために、そのパラメータで規定するクレーム範囲内にどのようなものが含まれるのかを明細書中に具体例を示すことが多いため、そのような明細書中に挙げた具体例が従来品と同一または類似であれば、審査官はX線回折パターンを入手できていなくても新規性がないと判断できます。

 
逆に言えば、例えば出願人が明細書中に挙げる具体例として、従来品とは同一でも類似でもないものみを挙げていれば、審査官は新規性を否定しようがないということになり、特許は成立することになります。