
こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田中 研二(弁理士)です。
前回は、知財実務家にとって「研究」が、日々の案件対応とは別の軸として専門性を育ててくれる、という記事を書きました。
今回も引き続き、知財実務家としての「研究」について考えてみます。
1.一番大事なのは「目的」
初めに考えることは、
- 何を知りたいのか?
- なぜその研究をやりたいのか?
という研究の「目的」です。
これはもちろん人によって様々ですが、たとえば以下のような「目的」があるでしょう。
- ネットワーク関連発明で有効なクレームドラフト手法を整理したい
- サポート要件の拒絶理由に対する有効な反論手法を知りたい
- キャッシュレス決済分野における技術要素の出願の優先順位付けの基準を作りたい
目的がはっきりしているかどうかで、どのように研究を進めるのかが大きく変わりますし、研究をやっていて迷ったら「目的」に立ち返ることがとても大事です。
2.もう一つの軸:「個別具体的」か「体系的」か
研究を考える上で、もう一つ重要なのが、
- 個別具体的な事例から示唆を得られれば十分か?
- 体系的に全体を整理したいのか?
という観点です。
研究の背景や課題感、使えるリソースによって、少数の事例を深く掘り下げる研究もあれば、きっちりと母集団を設定して統計的に傾向を調べていく研究もあります。
どちらが優れているという話ではなく、目的との組み合わせによって向いている研究のタイプが変わる、という点が重要です。
3.「研究」の類型化
以上を踏まえると、知財実務家の研究は次の2軸で整理できます。
- 第1軸:目的が明確に決まっているかどうか
- 第2軸:個別具体的か、体系的か
この2軸を組み合わせると、研究は4つのタイプに分かれます。

(1)目的が明確×個別具体的:ケーススタディ
一つ目は、目的がはっきりしていて、統計的な分析までは必要とせず、個別事例をいくつか取り上げて分析するパターンです。
たとえば、
- ある裁判例を詳細に分析して、進歩性判断の考え方を理解したい
- うまくいったいくつかの中間対応事例から、再現可能なポイントを探したい
といった研究がここに入ります。
具体的な言い回しを学んだり、大まかな傾向を把握することができます。自分の日々の実務に生かすための研究としては、これで十分な場合も多いです。
また、事例数が限られる裁判例の研究など、統計的な有意性を確認するほどの事例数が取れない場合には、必然的にケーススタディに留まらざるを得ないこともあります。
(2)目的が明確×体系的:体系的研究
二つ目は、目的がはっきりしていて、体系的な調査・整理を行うパターンです。
たとえば、
- サポート要件違反に対する反論の成功率を把握したい
- 設計事項と判断された相違点について、有効な反論類型を整理したい
といった研究が該当します。
弁理士会の調査研究や、論文としてまとめる研究は、多くの場合、このタイプになります。
母集団を設定し、データを集めて、傾向を分析するという手順を取ることが一般的で、時間と手間はかかりますが、再現性があり、他人に説明しやすい知見を得られます。
(3)目的が明確でない×個別具体的:探索的研究
三つ目は、初期段階で研究の目的がはっきりしておらず、個別事例を見ながら目的自体も具体化・再定義していくパターンです。
このパターンは、上記の二つに比べると少しイメージしづらいかもしれませんが、たとえば、
- 電池材料に関して、いい感じの明細書ドラフトテクニックを見つけたい
- いろんなビジネスモデルと特許との関係を知りたい
くらいの解像度の目的の場合は、この「探索的研究」向きです。
このパターンは、そもそも事例の探し方すら明確でないことも多いので、最初から効率を求めすぎず、ある程度気長に事例を探してみるのがよいと思います。
たとえば、興味のある技術分野が決まっているのなら、まずはその分野の代表的な企業をリストアップして、その技術分野のIPCが付された最近の出願を企業ごとにざっと見てみましょう。面白そうな出願を見つけたら、たとえば調査対象を一旦その企業に絞って、他の出願を見ていき、何らかの傾向や、その裏にある出願戦略を探っていきます。
こうした「探索」の中で、「何を調べたいか」という目的が徐々に明確になってきます。
この場合、母集団を決める必要はありませんし、集計を考える必要もありません。まずは面白いと思える事例が1件でも2件でも見つかれば御の字くらいに考えて、あれこれ探してみましょう。
面白い事例が見つかったら、一段抽象化して自分の実務に適用してみると、きっと何らかの学びがあるはずです。
(4)目的が明確でない×体系的:複合的研究(探索+体系化)
最後は、目的が曖昧なところから始めて、体系的な研究に発展させるパターンです。
三つ目の「探索的研究」を体系化まで持っていくという、一番大変でやりがいのある研究です。
上述したように、「探索的研究」を行う中で何かしらの傾向や示唆を見つけると、少しずつ「目的」が具体化されてきます。
その結果、自分なりの「問い」(「何を知りたいか?」という目的)を立てることができたら、ようやく適切な母集団を設定できるようになるので、体系的な研究に進むことができます。
手間はかかりますが、実務から自然に研究が立ち上がる点で、非常に実務家向けの研究スタイルだと思います。
4.まとめ
今回は、知財実務家の研究を「目的の明確さ」「個別具体的か、体系的か」という2軸で、以下の4類型に整理してみました。
- ケーススタディ
- 体系的研究
- 探索的研究
- 複合的研究
もし明確に研究してみたいことがあるなら、「目的」を定義して、個別事例のケーススタディから始めるのがよいと思います。
あるいは、既に「このテーマの専門家に、おれはなる!!!」という意志があるのであれば、最初から母集団の設計をしっかり考えて体系的研究を行ってみるのもよいでしょう(とはいえ、まずはケーススタディから始めるのが結局近道だったりもします)。
そこまで明確に知りたいことがない場合は、まずは普段の悩み事から出発してふわっとした「目的」を仮で設定し、探索的研究にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
次回以降はさらに踏み込んで、具体的な研究の進め方を考えてみます。

田中 研二(弁理士)
専門分野:特許権利化(主に機械系、材料系)、訴訟
