
こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの竹内 茂樹 (カリフォルニア州弁護士・パテントエージェント・弁理士、Kim and Stewart LLP)です。
今回はAkamai Technologies, Inc. v. MediaPointe, Inc., AMHC, Inc.事件(CAFC判例)について解説したいと思います。
「best(最良)」「optimal(最適)」といった相対的/程度の表現が112条の明確性を欠くとした事例です。
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事件名:Akamai Technologies, Inc. v. MediaPointe, Inc., AMHC, Inc.
事件番号: 2024-1571(2025年11月25日判決)(Precedential)
担当判事: Taranto, Stoll, Cunningham(執筆:Taranto判事)
解説
本件は、ネットワーク経路選択に関する特許クレームに含まれる「best(最良)」「optimal(最適)」といった相対的/程度の表現(language of degree)が、明細書の記載次第で35 U.S.C. §112の明確性を欠くことを、改めて明確にした事例です。特に、経路トレース(ネットワーク上の所定の地点までの複数の経路候補を事前に探査する処理)を実行して遅延値を生成するといった、一見測定らしい記載があってもそれだけでは不十分で、どの指標をどう優先し、矛盾したらどう決めるかといった客観的境界(objective boundaries)が示されていなければ不明確と判断され得る、という点が実務上重要です。
事実/背景
本件特許(U.S. Patent Nos. 8,559,426/9,426,195)は、インターネット上でストリーミング等のメディア配信を効率化するため、管理センターが、クライアントに対して適切な中継ノード/経路を割り当てる、インテリジェントな配送ネットワークを開示していました。明細書では、経路トレースの結果に含まれる遅延やホップ数(目的地に届くまでに通る中継点の数)等を比較して良いノード/経路を推定する旨が示される一方で、時間帯、コスト、帯域、過去実績等、他の要因も考慮し得ることが開示されていました。
本件では、まずアカマイ社(Akamai)が非侵害確認訴訟を提起し、これに応じてメディアポインテ(MediaPointe)側が侵害反訴しました。地裁は、クレーム解釈の段階で、「best」「optimal」を含むクレーム群を不明確として無効と判断し、残存クレームについては非侵害の略式判決を認めました。連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は、無効(不明確)判断と非侵害判断の双方を支持しました。
判決
原判決支持(Affirmed)。CAFCは、問題となった「best/optimal」等の文言を、裁量性を伴う程度の表現と位置づけ、2014年のNautilus最高裁判決が示す「当業者に合理的確実性をもって権利範囲を示す」要請を満たすには、明細書等から当業者が依拠できる客観的境界が必要だと整理しました。
そのうえで、CAFCは、(i)クレームが経路トレースの利用を含んでいても、それが「唯一の評価基準」であるとはクレーム上も明細書上も読めないこと、(ii)明細書が経路トレース以外の要素(時間帯、コスト、帯域、過去実績等)も「考慮し得る」と開示しており、評価基準が明確に絞り込まれていないこと、(iii)経路トレースの結果の内部でも遅延とホップ数等が一致しない局面があり得るのに、どの指標をどう優先するかの指針がないことを重視し、不明確との結論を維持しました。
実務への影響
本件は、特許明細書作成の実務における相対的/程度表現の扱い方を再確認させる内容となっています。
(1)「best/optimal」を使用する場合には、測定可能な指標の列挙だけではなく、境界も記述する
「遅延が小さいほど良い」、「ホップ数が少ないほど良い」といった一般論や、単に「経路トレースで測定できる」という説明があっても、どの条件で何が「best/optimal」になるのかが当業者にとって一意に定まりません。本件の明細書のように、他要素(時間帯、コスト、帯域、過去実績等)も「考慮し得る」と書くと、評価基準がより曖昧となります。
ドラフティングの実務として、少なくとも次のいずれか、または組み合わせを検討することが推奨されます。
- 「best/optimal」を定義する(経路選択の例:一次指標=遅延が最小、二次指標=ホップ数が最小、同点なら信頼性を優先)
- 評価関数(スコアリング)や重み付け、閾値など、アルゴリズムとしての客観性を記述する
- クレームで最重要指標を定量的に記載する
- 「一以上の特性が考慮され得る」等の曖昧な表現だけを記述せず、少なくとも優先順位付きの基準を明細書に記載する
(2)MPEP上の「相対的表現」の類型をチェックリストとして使う
MPEP 2173.05(b)は、程度表現、近似表現(about/substantially等)、主観的表現を例示し、当業者が客観的に境界を把握できるかどうかを説明しています。
本件の「best/optimal」はまさに「程度の表現」ですが、実務的には、ドラフトの最終段階で、相対的表現・程度表現・主観的表現等を機械的に抽出し、
- 明細書に測定方法だけでなく判断ルールがあるか
- 複数指標が競合するケースへの規定があるか
- 運用上の都合で基準が変わり得るような書き方になっていないか
これらの点を確認することが有効です。






