侵害予防調査について  ⑪オールエレメントルールの具体例

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チーム角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会最優秀賞)です。

 

連載として侵害予防調査について説明をしています。

 

前回は特許権侵害の判断方法について述べました。

 

今回は、検索式作成の基本とありがちな「勘違い」について述べます。

 

 

 

検索式作成の基本

権利一体の原則(オールエレメントルール)に基づけば、構成要件が自社の実施製品等よりも少ない特許権も抽出しなければなりません。

 

具体的には、実施製品が構成Aと、構成Bと、構成Cの3つの構成を備える場合、構成A構成Bや、構成A構成Cや、構成B構成Cのように2つの構成を構成要件として有する特許権も検索式でヒットするようにする必要があります。

 

 

 

つまり、検索式で、「 AND  AND 」と3つの構成をANDで掛け合わせてしまうと限定しすぎであり、「( OR ) AND 」や、「 AND ( OR )」、場合によっては、「 AND 」や、「 AND 」としたり、必要に応じて「 OR  OR 」としたりすることが想定されるでしょう。

 

 

 

このとき、何も考えずに、各構成について、AND演算やOR演算を行うのではなく、特許分類とキーワードを巧みに使い分け、特許分類の上位・下位、キーワードの上位・下位概念、同義語・類義語を適切にレベル感に応じて選択して、AND演算やOR演算を行う必要があります。

 

キーワードとキーワードを掛け合わせるとノイズが多くなる場合には、特許分類とキーワードをAND演算してノイズを抑制したり、キーワードに相関があるときには近傍検索をしたりするとよい場合もあります。

 

特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載に基づいて定められるため、キーワードを用いる場合には、検索範囲(検索フィールドの指定)について、「特許請求の範囲+要約+発明の名称」(/CL+AB/+/TI)を基本とするとよいでしょう。

 

ただし、化学やバイオ分野などでは、特許請求の範囲に化学構造式や上位概念が記載されている場合もあるため、適宜、「全文」を検索範囲とするなどして(ポイントとなる概念や物質名を全文で検索する)補足をすることが好ましいでしょう。

 

このとき、汎用的な物質名を全文で検索してしまうと、ノイズが多くなるため、「特許請求の範囲+要約+発明の名称」又は特許分類でポイントとなる上位概念(特徴的な骨格、置換基や機能性)を検索して大枠を定めた上で、下位概念である具体的な物質名を全文で検索して絞り込みを行うと適合率を向上させることが可能となります。 

 

 

ありがちな「勘違い」

特許権侵害の判断では、イ号製品(被告製品、対象製品)の特定や、特許権の請求項が備える各構成要件との対比、文言解釈法、裁判例の理解、出願経過や明細書等の参酌などが求められるため、まさに言うは易し行うは難しです。
 

理論を説明することは簡単ですが、実際に特許権侵害の判断を行うことは、専門家である弁理士・弁護士であっても非常に難しく、頭を悩ませるものです。

 

以下の図に、特許権侵害の判断において、初心者や知財部員ではない研究者などがしてしまいがちな勘違いの例を示します。

 

 

 

競合他社である第三者が特許権(先願)として、構成A、構成Bを備える装置Cについての権利を取得していたとしましょう(シンプルな構成の基本特許を想定)。

 

この状況下、自社は、第三者の先願を参考にして研究開発を行い、構成A1、構成B1を備える装置Cについて、構成D1を更に備える利用発明である特許権(後願)を取得することができました(改良特許であり、A=A1、B=B1を充足します)。

 

まず、①自社が特許権(後願、改良特許)を保有していることを根拠に、実施品1の製造販売が第三者の特許権(先願、基本特許)を侵害しないことにはなりません(つまり、侵害となります)。

 

自社の特許権(後願、改良特許)は、構成D1を備えることで新規性・進歩性が認められた利用発明に過ぎないからです。

 

また、②自社の実施品1は、第三者の特許権(先願)の構成要件にはない構成D1を備えているからといって、実施品1の製造販売が第三者の特許権(先願)を侵害しないことにはなりません。

 

権利一体の原則(オールエレメントルール)に従えば、第三者の特許権(先願)が備える3つの構成要件A、B、Cをすべて充足するので、基本的には、文言侵害となります。

 

このように、自社が特許権を取得できたことと、他社の特許権を侵害するか否かどうかは、独立して検討しなければならず、特許庁が自社の特許権の成立を認めたとしても、他社の特許権を侵害しないことを保証するものではないことに留意が必要です。

 

さらに、③自社の実施品2として、第三者の特許権(先願)の構成Bとは異なるが近い構成に置き換えた場合、均等侵害の可能性があるため、注意が必要となります。

 

次回は、「均等論」について述べようと思います。

 

角渕先生からのお知らせ

日本テレビのドラマ「それってパクリじゃないですか?」の第3話で芳根京子さんが演じる知財部員が読んでいた、私が侵害予防調査について執筆した書籍、「改訂版 侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ~特許調査のセオリー~」が、一般財団法人経済産業調査会から発行されています。

詳細はこちらからご確認ください。

 

角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)

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