侵害予防調査について  ⑦ 侵害予防調査のポイント(後編)

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チーム角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会最優秀賞)です。

連載として侵害予防調査について説明をしています。

前回は「侵害予防調査のポイント(中編)」として、(4)リスクに応じた調査範囲の設定と、(5)侵害予防調査におけるカバー率について述べました。

今回は、「侵害予防調査のポイント(後編)」として、(6)ヒアリングのTIPS、(7)スクリーニングのTIPS、(8)コストを抑えるための「工夫」について説明をします。

 

お知らせ

知財検定を受検される方は、こちらのページをご確認ください。

無料の動画セミナー等もあります。

 

 

(6)ヒアリングのTIPS

侵害予防調査におけるヒアリングでは、適切なキーワードや観点を設定するために、言い換えや視点換えが重要となります。

 

開発者(発明者、技術者)からヒアリング(聞き取り)を行う場合、自分の製品等に対する思い入れが強いあまり、特徴的な構成を主張しすぎる(重視しすぎる)傾向があるので、思わぬ観点を見落としてしまわないように注意しましょう。

 

網羅的で漏れの無い調査を行う上で「言葉のレベル感」が異なっていると互いに全く違う次元で話をしているといった事態が生じかねません。

 

ヒアリングでは、意識して言葉のレベル感を合わせる必要があります。

 

言葉のレベル感を合わせるにためには、①切り口を合わせること、及び、②視点の位置を合わせることが必要となるでしょう。

 

① 切り口については、知財担当者や調査担当者であれば、開発者がポイントであると主張している構成以外にも、他社が出願をしているポイントが潜んでいるかもしれないと考えるでしょう。その一方で、開発者は自身の研究成果やアイディアをポイントであると主張して、その他の構成は大した構成ではないと主張する傾向があります。

 

② 視点については、知財担当者や調査担当者であれば懸案となる権利を把握しておきたいと注意深い視点で考えるでしょう。その一方で、開発者は懸案となる権利が見つかると自身の成果が毀損することや、製品のリリースに影響が出てしまうことを恐れて何も見つからないことを望む傾向があります。

 

リスクヘッジの観点からは、あらゆる事象を想定しなければなりません。

 

簡単な構成で現場では通常行われていることにもかかわらず、審査官が証拠を提示することが困難で(文献に開示されるような内容ではなく)権利化されてしまった「当たり前特許」の存在など、①切り口を多面的に検討して合わせる必要があります。

 
また、②視点の位置についても主観的な視点ではなく、客観的で権利者になったつもりの視点に立って事情聴取する位の感覚で、ヒアリング・スクリーニングを行うことが求められるでしょう。

 

なお、いかなる年代に、どのような技術が存在していたか、技術の開発の流れを技術に詳しいベテランの研究者や開発者に確認することは有効です。

 

 

 

 

(7)スクリーニングのTIPS

スクリーニングでは、先入観や都合の良い解釈は排除しなければならず、権利者になったつもりで客観的にスクリーニングを行う必要があります。

 

スクリーニングの初期段階は、慎重に読み進め、ある程度の件数を読むことで技術の流れが掴めた段階になると、技術の流れと存在し得る権利の見通しがついてきて、視界が晴れてくるでしょう。

 

また、スクリーニングでは、請求項の文言が重要ですが、実施例や図面に囚われて判断をしてはいけません。請求項は上位概念で記載されていることが一般的であるため、実施例や図面から思い込みで限定してクレームの文言解釈をすることは厳禁でとなります。

 

仮に、図面や明細書の記載に対象製品等と同一又は類似の技術が開示されていたとしても、特許請求の範囲に記載の発明と無関係であれば、基本的には非侵害となります。但し、出願継続中のものについては、補正や分割出願で事後的に、他社製品を含むように権利化が試みられることがあるため、将来懸案となりそうな発明を主題として包含している場合には注意をしましょう。

 

なお、出願中のものは、将来的な分割出願も意識して、実施例や図面も含め慎重にスクリーニングをする必要があります。

 

対象となる件数が膨大で複数人のチームでスクリーニングする際には、各担当者間で判断基準や解釈を統一し、ばらつきが出ないように注意します。これは、外注を使う場合も同様であり、調査の詳細について意思の統一を図り、こまめに擦り合せをし、判断に迷う場合には勝手な判断をせずに確認し合うことが大切です。

 

段階的なスクリーニングを心掛けて、作業履歴の段階的な保存も行い、作業の途中で所定の段階まで戻ることができるように備えることも忘れてはなりません。

 

侵害予防調査における段階的なスクリーニングとは、1段階目で技術分野や技術の範疇が異なるものを除去し、2段階目で請求項を読んで大まかに関係があるもの(関係がグレーなものを含む)と関係が無いものに分類し、3段階目で関係があるものを精査するといった手法が想定されるでしょう。

 

侵害予防調査は将来に向かって行われるため、将来的にリスクになり得る権利も把握しなければいけませんし、現状の製品等が採用していない構成であったとしても、将来的に採用し得る可能性がある等、想定し得る設計変更も意識して抽出を行います。

 

 

(8)コストをを抑えるための「工夫」

侵害予防調査の基本は、侵害の恐れのある特許権を漏れなく網羅的に抽出することであるため、何らかの「工夫」によって、検索範囲を絞りヒット件数を減らすことはできないはずです。

 
しかし、コスト(時間や費用)には制限があることからカバー率100%の完璧な調査は、現実には不可能であるため、何らかの観点に着目して検索範囲を絞り込むという対応を行うことになるでしょう。

 
このとき、何を調査対象としたのかは勿論、何を調査対象から外したのかも報告書や資料に明確に記録しておく必要があります。

 

 

調査範囲を絞り込む際には、技術(構成要素・調査観点)を限定したり、構成要素・調査観点を組み合わせて絞り込んだりします。

 

競合相手が明確であるときには、対象とする主体(権利者)を限定する場合もありますが、思わぬ主体が重要な権利を保有している可能性もあることから、推奨することはできません。

 

なお、特定の権利主体について、グループ関係にある場合や契約の存在などを根拠に調査の対象から外すことはあり得るでしょう。

 

また、特定の主体について重点的に力を入れて調査を行うことはあり得ますし、有効でしょう。

 

また、調査対象の種別を限定することが考えられます。具体的には、出願中(審査継続中)のものは、クレームの記載も広く、権利範囲が未確定であるため、権利化されているもののみを、まずは調査対象とし、その後の補充調査で出願中のものを追加して調べることも現実的でしょう。

 

コストに制限がある以上、完璧な調査は不可能であるため、費やすことが可能なコストの制限内で最大限の調査を行うことがポイントとなります。

 

「使えるコスト(労力・時間・費用)はどのくらいか?(How much?)」ということが調査設計における最重要かつ前提事項となるでしょう。

 

使えるコストの範囲内でベストを尽くすことはビジネスの基本でもあります。

 

 

次回は、「侵害予防調査の仮想事例」について述べようと思います。

 

角渕先生からのお知らせ

受講後のアンケートでも非常に満足であったとのコメントを頂いた「プロのサーチャー弁理士が手の内を明かす、侵害予防調査と無効資料調査の実務的ノウハウ」と題する有料セミナーを10/13(金)10時~16時に開催します。

このセミナーの内容は知財実務情報Lab.でしか聞けない内容となっています。

詳細はこちらからご確認ください。

 

角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)

  note

秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/