サーチャーから弁理士へのキャリアプラン

 

こんちには、知財実務情報Lab. 専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学))です。

 

ここでは、私のキャリアについて紹介をしながら、特許調査を行うサーチャー(特許調査員)から弁理士へのキャリアアップについて述べたいと思います。

弁理士のキャリアップの一例として、今後、弁理士として活躍したい方への参考になれば幸いです。

 

 

自分の知財に関するキャリアを大まかに分けると、以下のようになります。


①2008年~2011年:アカデミック
 博士課程(東京大学理学系研究科化学専攻


②2011年~2016年:特許調査
 特許調査員(登録調査機関である株式会社技術トランスファーサービス


③2016年~現在:特許事務所
 弁理士(秋山国際特許商標事務所

 

①博士課程(2008年~2011年)

研究室に在籍していた時に、経済産業省関連の新規プロジェクトの立ち上げに携わる機会を得ました。そこでは、企画立案の段階から、従来技術として学術論文を調べることはもちろん、先行する特許も調べる必要がありました。当時のIPDL(特許電子図書館)で特許を調べたことが特許調査との出会いでした

 

当時から、実験が下手というのもありましたが、論文を調べることや計算機を使った計算が大好きで、デスクワークの方で能力を発揮していました。

 

学生時代に特許出願(特許5398025、特許5419049、特許5521216、特許5549939、特許5700622、特許5733736、特許5736664など)をした際に、弁理士という資格を知りました。吉田正義先生が研究室に訪れて、研究成果の発表を聞いて質問をいくつかすることで技術を理解し、特許出願の書類ができていく様子を見ることで、面白い仕事があるんだなぁと感じたことを覚えています。

 

研究者として、それなりの業績を挙げてはいましたが、色々な事情が重なり博士課程を単位取得満期退学して、研究者の道を辞して転職することを決めました。

 

転職をすると決めたとき、知財業界にしようと考えた理由として、特許事務所であれば、研究職とは異なり、都心で勤務出来ること、学生時代から法律に興味があり、勉強をしてみたいと思っていたこと、新しい技術に触れることが好きであったことがあります。転職と同時に、弁理士試験の予備校にも通おうと考え、特許の勉強も始めたとき、とてもワクワクして楽しいなと感じました。

 

②特許調査員(2011年~2016年)

知財業界に転職することを決断したとき、最初は特許事務所を中心に転職活動をしました。その中で、転職エージェントから、特許調査の仕事を紹介されました。

 

最初から、難解な特許出願の明細書を書くことは、難しいのではないかと感じており、特許調査であれば、様々な分野の色々な特許文献を読むことができること、特許法や審査基準も学べることから、特許の初心者にとって非常に良いのではないかと感じ、最終的には特許事務所か特許調査会社の2択になりました(ちなみに、最後まで迷った特許事務所は、その数年後、所長の脱税事件が発覚して解散してしまいました…)。

 

登録調査機関でサーチャーとして勤務するためには、独立行政法人 工業所有権情報・研修館(INPIT)が行う調査業務実施者育成研修(法定研修)を修了する必要があります。そこでは、特許調査の手法はもちろん、特許法、審査基準、進歩性の考え方などを学ぶことができ、その経験は今でも基礎として役立っています。

 

登録調査機関のサーチャー(特許調査員)は比較的、仕事量のコントロールをし易く(月に○○件といった具合に計画的に仕事を割り振られるため)、弁理士試験の勉強時間も十分に確保できました。弁理士試験も、通学で学習をする余裕が十分にあり、一発合格することができました。

 

また、博士課程を満期退学後の3年間であれば、博士論文を提出することで学位(通常の課程博士)を取得できるため、会社での勤務終了後に、大学の研究室に行き、論文を執筆して、博士号を取得することもできました

 

登録調査機関(研修期間を除いて4年間)では、医療機器、医薬製剤、有機化学、アミューズメントなどの複数の分野で約1000件の調査を担当し、サーチの手法はもちろん、多くの審査官の思考や拒絶理由の論理構築の手法などを学ぶことができました。

 

このサーチャーとしての経験は、その後の弁理士としての業務においても非常に役立っており、難解な案件や、新しい技術、調査業務、多くの文献のスクリーニングにも抵抗感なく対応できています。

 

普段は明細書を書いてる弁理士が特許調査を学ぼうとすると、多くの障害があり、調査に苦手意識を抱きがちなのですが、特許調査を入り口として知財業界に入ることで調査を苦とすることなく、逆に調査を武器として、弁理士業務に活用できるというメリットがあると思います。

 

③弁理士(2016年~現在)

登録調査機関のサーチャーとして4年半勤務しましたが、弁理士としては未経験であり、事務所に入るときには、弁理士として未経験扱いとなることから、収入がかなり減少することになりました。それでも、弁理士になりたいという当初の気持ちに変化は無く、躊躇うことなく弁理士になりました。

 

私の所属する組織では、特許事務所調査会社の2つ部門が連携をして業務を行っており、それまでの先行技術調査と比較的親和性の高い、無効資料調査を担当しながら明細書の作成をすることになりました。

 

登録調査機関では、先行技術調査しかしておらず、侵害予防調査や無効資料調査の経験が無かったため、特許調査のスキルを磨くために、特許検索競技大会に参加をすることにしました。この催しは、大会と名付けられていることで敷居が高いように感じてしまいますが、特許調査の基本を体系立てて学ぶことができ、今では問題を作成する実行委員会側になりましたが、非常に有効なスキルアップの機会であると言えます。

 

2回目の参加で幸運にも特許検索競技大会2017で最優秀賞を受賞できたことで、弁理士×調査というイメージが定着をして、多くのチャレンジングな仕事を依頼頂けるようになりました。

 

明細書を書く際に、適切な課題の設定、先行技術と差別化できる構成(構成要件)は何かを検討するには、先行技術を調査することが必要不可欠です。発明は、従来技術との関係で理解される必要があります。発明は、従来技術の問題点を解決するためになされるものであるからです。従来技術を知るためには、特許を含む文献調査を行えばよいのです。発明の発掘やヒアリングにおいて、リアルタイムで先行技術調査をして、従来技術を明確にした上で、発明を理解してブラッシュアップしていくことは非常に有用です。

 

異議申立や無効審判で特許を無効化しようとするとき、仮説を持って自ら調査をしながら、無効論のロジックを、徐々に精度を高めながら構築していくことは非常に有効です。

侵害予防調査では、対象となる製品等の認定、調査観点の設定には、調査スキルに加えて、弁理士としての発明発掘力やクレームドラフティングの能力が活きてきます。

まとめ

以上が、私の博士課程から知財業界におけるキャリアですが、特許調査(サーチャー)の仕事は、知財業界の入口として、明細書作成よりもハードルが低く、その後の弁理士としての業務でも役立つため、とてもよいと言えます。

また、知財業界において、「調査スキル」は武器になります。弁理士だから調査をしなくても良いとして敬遠してしまうことは非常にもったいなく、調査を理解して、積極的に調査業務に関与することが望ましいです。技術の理解×調査能力×法的な知見が組み合わさることで、可能性は無限大となります。

今回は、私のキャリアについてご紹介しました。弁理士のキャリアップの一例として、今後、弁理士として活躍したい方の参考になれば幸いです。

 

角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)