侵害予防調査について ⑨特許権侵害の判断方法

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チーム角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会最優秀賞)です。

 

連載として侵害予防調査について説明をしています。

 

前回は侵害予防調査の仮想事例について機能性表示食品を題材として述べました。

 

今回は、特許権侵害の判断方法について説明をします。

 

 

特許権の侵害とは

特許権の侵害について、特許法には関連する条文が複数存在しますが、基本的な条文を抜粋して、以下に例示します。

 

 

 

特許権の侵害とは、権限なき第三者が業として特許発明を実施(特許法第2条第3項)することです。

 

また、特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有します(特許法第68条)。

 

そして、特許発明の権利範囲である特許発明の技術的範囲は、特許請求の範囲に基づいて定められます(特許法第70条)。

 

発明のカテゴリー(物の発明、方法の発明、物を生産する方法の発明)によって実施行為は異なりますし、権利範囲(発明の技術的範囲)の確定・解釈は条文のみならず、多くの裁判例もあり、非常に高度なスキルが要求されます。

さらに、侵害の有無を判断するには、文言侵害のみならず、間接侵害や均等論、利用・抵触関係、出願経過の参酌、裁判例やその動向の理解も必要であり、非常に高難度ですので、通常のサーチャー(調査担当者)の手に負えるものではないと言っても過言ではないでしょう。

 

一般的に調査担当者と検討者が異なることが多いですが、調査の設計段階から、知財担当者(依頼者)と、調査担当者(サーチャー)と、検討者(弁理士など)とが協働して(チームを組んで)、侵害予防調査を実行することが、調査精度や最終的な判断の正確性の観点から好ましいでしょう。

 

私は調査担当者と検討者を兼ねて業務を行っており、その有用性・効果を実感しています。

 

 

特許権侵害の判断方法~オールエレメントルール~

特許権侵害の判断方法、つまり、第三者が実施している物や方法が、特許発明に該当するか否かは、特許請求の範囲の記載に基づいて判断されます。

 

第三者が実施している対象物(以下、「イ号」という)が、各請求項が備える構成要件を「全て」充足する場合は、直接侵害となります。

 
イ号が構成要件の一部であっても充足しない場合は、原則として特許権の侵害にはなりません(文言非侵害)。

 

例えば、ある請求項に記載された特許発明が構成要件AとBとCの3つの要件を備えている場合、イ号が構成要件AとBとCに該当する構成を備えていれば特許権の侵害となりますが、構成要件AとBしか備えていなければ、原則として特許権の侵害(直接侵害)とはなりません。

 
後述しますが、イ号が構成要件AとBとCの3つの要件に該当する構成を備えている限りにおいては、請求項に記載の無いDを更に備えていても特許権の侵害となります。

 

このような、第三者の実施行為(イ号)が、特許請求の範囲の請求項が備える全ての構成要件の充足・非充足をもって特許侵害(直接侵害)の成否を判断する考え方は、権利一体の原則(オールエレメントルール)と呼ばれています。

 

 

具体的には、以下の手順で特許権侵害の成否を判断します。

 

①まず、特許請求の範囲(請求項)に記載された発明を各構成要件(A、B、C)に分節(分説)します。

②次に、対象物となるイ号製品(侵害疑義製品)を、①の各構成要件に対応する要素を抽出します(a1、b1、c1)。

③上記①の構成要件と、②の構成を対比します(A、B、Cそれぞれを、a1、b1、c1と対比)。

④対比の結果、全ての構成が一致する(相違がない)場合(A=a1、B=b1、C=c1)には、文言侵害と判断されます。

⑤対比の結果、一部の構成で異なる部分がある場合(A=a2、B≠b2、C=c2)には、原則として、非侵害(文言非侵害)となりますが、直接侵害を誘発する可能性が高い行為は、「間接侵害」となる場合があるため注意が必要です。

 

また、次回に説明をしますが、均等論という考え方があり、文言非侵害であっても、例外的に特許権の侵害となる場合があります。

 
オールエレメントルールに従うと、構成要件の数が多くなれば、権利範囲が狭くなることになり、構成要件の数が少なければ、権利範囲が広くなります。

 

以上のオールエレメントルールをまとめると、以下の図のようになります。
 

実施品がA+B+Cの全てを備えている場合には侵害となり、A、B、Cのうち1つでも欠いている場合には、その他構成を備えていたとしても、基本的には非侵害になります。

 

 

次回は、「検索式作成の基本とありがちな「勘違い」」について述べようと思います。

 

角渕先生からのお知らせ

日本テレビのドラマ「それってパクリじゃないですか?」の第3話で芳根京子さんが演じる知財部員が読んでいた、私が侵害予防調査について執筆した書籍、「改訂版 侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ~特許調査のセオリー~」が、一般財団法人経済産業調査会から発行されています。

詳細はこちらからご確認ください。

 

角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)

  note

秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/