侵害予防調査について ⑫均等論について

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チーム角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会最優秀賞)です。

 

連載として侵害予防調査について説明をしています。

 

前回は検索式作成の基本とありがちな「勘違い」について述べました。

 

今回は、均等論について説明をします。

   

均等論とは、文言上はイ号製品(侵害疑義製品)が特許発明の技術的範囲に含まれない場合であっても、具体的には、特許請求の範囲に記載された構成要件の一部が、イ号製品において異なっていたとしても、特許発明と均等と評価できる場合には特許権の効力が及ぶとする論理です(ボールスプライン事件最高裁判決、平成6年(オ)第1083号)。

 

 

 

 

均等論の趣旨としては、「特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となるのであって、このような点を考慮すると、特許発明の実質的価値は第三者が特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして容易に想到することのできる技術に及び、第三者はこれを予期すべきものと解するのが相当である」(下線部は筆者による)ことが示されています。

 

オールエレメントルールに則れば、対象製品等(イ号製品)が、特許請求の範囲に記載されている構成要素を全て含む場合(構成A+B+C+Dを全て備える場合)、対象製品等は特許発明の技術的範囲に含まれ、特許権侵害(文言侵害)と判断されます。

 

一方、特許請求の範囲に記載された構成要件の一部に、対象製品等と異なる部分が存在する場合(構成Dが構成D’である場合)、対象製品等は特許権の範囲に含まれないことになります(文言非侵害)。

 

オールエレメントルールについて、具体例で示した場合も以前に解説しました。

 

このとき、対象製品等が、特許発明の技術的範囲に文言上含まれない場合であっても、5つの要件を満たせば、特許発明と均等であると判断され、特許発明の技術的範囲に含まれると判断されます(均等侵害)。

 

均等論は、ボールスプライン事件最高裁判決で、日本において初めて認められ、現在では、この判決を基準として実務が行われており、多くの事例において広く適用されています。

 

ボールスプライン事件の最高裁判決では、以下の通り判示されました。

 

「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等と異なる部分が存する場合であっても,

(1)右部分が特許発明の本質的部分ではなく,

(2)右部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって,

(3)右のように置き換えることに,当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり,

(4)対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく,かつ,

(5)対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは,右対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である。」

 

 

以上の5つの要件、具体的には、第1要件(非本質的部分)、第2要件(置換可能性)、第3要件(置換容易性)、第4要件(非公知技術、容易推考困難性)、第5要件(意識的除外等特段の事情)を満たせば、被告製品(イ号製品)は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属すると判断されます。

 

なお、物を生産する方法の発明(イ号方法)についても物の発明の場合と同様に判断されます(マキサカルシトール事件)。

 

マキサカルシトール事件では、本質的部分(第1要件)の認定について、特許発明の従来技術に対する貢献の程度に応じて、本質的部分の認定が変わる旨が判示されました(知財高裁判決)。

 

また、第5要件について、「出願人が、特許出願時に、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分につき、対象製品等に係る構成を容易に想到することができたにもかかわらず、それを特許請求の範囲に記載しなかった場合において、客観的、外形的にみて、対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していたといえるときは、対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなど特段の事情が存するというべきである」と判示されました(最高裁判決)。

 

 

 

ここで強調したいことは、均等侵害の判断は、第1要件や第5要件は勿論、その他の要件も含めて、スクリーニング対象となる公報の記載のみからでは判断することはできず、単に一部構成が異なるからと言って、非侵害であると判断することはできないということです。

 

マキサカルシトール事件について、本件特許発明は、出発物質を特定の試薬と反応させて中間体を製造し、その中間体を還元剤で処理して目的物質を製造するという化合物の製造方法でした。

 

本件特許権の特許請求の範囲には、出発物質等として「シス体」のビタミンD構造のものが記載されていました。

 

控訴人方法では、本件特許発明の試薬及び目的物質に係る構成要件を充足するが、出発物質及び中間体の炭素骨格が、シス体のビタミンD構造ではなく、その幾何異性体である「トランス体」のビタミンD構造であるという点で、本件特許発明の出発物質及び中間体に係る構成要件と相違していました。

 

「トランス体」については、そもそも明細書に記載されていなかったため裁判所は、「客観的,外形的にみて,上告人らの製造方法に係る構成が本件特許請求の範囲に記載された構成を代替すると認識しながらあえて本件特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示していた」という事情があるとはいえないとして、「特段の事情」の存在を否定して、均等侵害を認めました。

 

これらのことを総合しますと、均等論に限らず、特許権侵害の判断は、クレームの解釈に明るい弁理士や弁護士が判断すべき事項であり、スクリーニングを行う調査担当者が「自分はこう思う」と言って、勝手に主観的に判断をすることが無いよう留意しなければならないと言えるでしょう。

 

次回は、「間接侵害」について述べようと思います。

 

角渕先生からのお知らせ

日本テレビのドラマ「それってパクリじゃないですか?」の第3話で芳根京子さんが演じる知財部員が読んでいた、私が侵害予防調査について執筆した書籍、「改訂版 侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ~特許調査のセオリー~」が、一般財団法人経済産業調査会から発行されています。

詳細はこちらからご確認ください。

 

角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)

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