こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会最優秀賞)です。
連載として侵害予防調査について説明をしています。
前回は「古い技術を調査して代替」することについて述べました。
今回は、「意匠権もチェック」することについて説明をします。
侵害予防調査は、特許や実用新案に限定されるものではありません。物品のデザインに特徴がある場合には、意匠権の調査も行う必要があります。
意匠調査の基本プロセスも特許調査と同じであり、検索条件の設定、スクリーニング、結果の検討を行うことになります。
具体的には、意匠に係る物品の特定と日本意匠分類の収集、分類の特定、閲覧・検討を行います1)。
近年、「デザイン経営」宣言が公表され、ブランド戦略におけるデザインの重要性が再認識されており、製品等の技術的特徴に関する特許調査と並行して、物品の外観に関する意匠調査を行うことが好ましい場合も増えてきています。
製品等のデザインが決定してから、懸案となる意匠権が見つかった場合、致命的な事態を招きかねないため、製品等のデザインが決定する前、デザインの候補を選抜する段階で調査を行うことが望まれます(製品等に付す商標の調査においても同様でしょう)。
日本における意匠調査では、日本意匠分類やDターム、意匠に係る物品などの各要素から検索条件を設定します2),3),4)。
日本意匠分類は、意匠審査における迅速・的確なサーチ、外部における先行意匠調査や意匠権調査を効率よく検索するために設けられていて、物品の用途に主眼をおき、必要に応じて機能等の概念を用いて分類が構成されています。
また、平成17年1月1日から施行した日本意匠分類には、日本意匠分類を形態等の特徴で更に細分化したDタームが用意されています。
日本意匠分類は、「物品の用途及び機能」に着目して(製品分野ごとに)付与されるアルファベットと数字からなる分類コードであり、1つの意匠に対して1つの分類コードが付与されます。
更に「形態」に着目する必要がある場合にはDタームを使います。
意匠の類否判断は、「物品の類否」と「形態の類否」によって行われ、「物品」と「形態」の両方が同一又は類似であるときに意匠が同一又は類似であると判断されます5)。
つまり、母集合として、調査対象と同一又は類似の物品をカバーするように検索条件を設定する必要があり、分類を意匠の類否判断における物品類否の検討と同様に、物品の機能と用途に着目して行わなければなりません。
意匠調査の難しい点は、調査結果の検討であり、意匠の類否判断の基本的な考え方は、「意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要しますが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠が、意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要である」という判断基準が採用されています6)。
調査担当者が主観的に似ているか否かを判断するのではなく、上記の判断基準・実務に習熟した上で、基本的構成態様と具体的構成態様に基づいて、調査対象と登録意匠の共通点、相違点を客観的に対比して検討をする必要があります7),8),9)。
実際に登録されている意匠の類比(先行意匠との対比)や、意匠権侵害訴訟における意匠の類比判断の事例を確認するとわかりますが、意匠の類否判断を適切に行うことは非常に難しく、経験や知識が必要となるので、最終的な判断は専門の弁理士による鑑定を得ることになるでしょう。
J-Patatで「箸」と「箸置き」に関する意匠を調査する例を示します。
意匠検索で、意匠に係る物品/物品名/原語物品名に「箸」を入力して検索をしてみましょう。
そうすると、「箸」に関する意匠がヒットします。
ヒットした箸の意匠に付与されている日本意匠分類「C6-12」が「はし」の分類であることがわかります。
同様に、「箸置き」の分類が「C5-533」であることもわかります。
意匠分類照会によって意匠分類を調べることも可能です。
キーワードに「箸 はし ハシ」と入力すると日本意匠分類、D-タームが表示されます。
以下に示すように、日本意匠分類/Dタームの欄に箸の分類「C6-12」と箸置きの分類「C5-533」を入力することで箸と箸置きの意匠を調査することができます。
箸又は箸置きのどちらか一方を調査したい場合には、「C6-12」又は「C5-533」の一方を入力することで、キーワード検索を行う場合とは異なり、箸と箸置きを互いに区別して調査することもできます。
(参考文献)
1)藤本昇「これでわかる意匠(デザイン)の戦略実務 改訂版」、発明推進協会、2020年12月藤本昇
2)恩田誠ら「日本における意匠調査のプロセスと留意点」知財管理、2019年3月号
3)野崎篤志「特許情報調査と検索テクニック入門 改訂版」第8章 コラム、発明推進協会、2019年12月
4)J-PlatPat・Graphic Image Park講習会テキスト【意匠編】、2021年5月
5)INPIT令和元年度 検索エキスパート研修「意匠」、意匠の類否判断と先行意匠調査(2019年12月)
6)平成9年(ネ)第404号、東京高裁平10年2月18日判決、自走式クレーン事件
7)INPIT令和元年度 検索エキスパート研修「意匠」、(事例研究)意匠の類比判断(2019年12月)
8)松井宏記、「意匠の類似~意匠法24条2項その後~」、関西特許情報センター振興会機関誌、No.22、p.11-28(2008年11月)
9)中川裕幸、「意匠の類似-我が国における判断手法と判断主体」、日本知財学会誌、Vol.8、No.1、p.24-31(2011年10月)
次回は、「属地主義と効率的なグローバル調査」について述べようと思います。
侵害予防調査に関する基本的事項、考え方とポイント、検索式の作成における留意点、仮想事例について執筆した論文、「侵害予防調査についての一考察」が日本弁理士会のパテント誌2024年2月号に掲載されています。
詳細はこちらからご確認ください。