特許文書の読み方(2)特許文書の読み方(前編)

 

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チーム角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会最優秀賞)です。

 

前回と今回は、「特許文書の読み方」について説明をしています。

 

前回は、①特許文書を読むことについて述べました。

 

今回は、②特許文書の読み方(前編)として、特許調査を例として、調査の目的を意識して“読む”こと、文書の構造を意識して先を見通して“読む”こと、“読む”順番の一例について述べます。

 

 

(1)調査の目的を意識して“読む”

特許調査において、どのように特許文書を“読む”ことが必要でしょうか。

まず、特許調査を行う場面を考えてみましょう。

以下の図に、製品開発の流れと特許調査についてまとめました。

 

 

詳細は、別の記事で解説していますが、特許調査を行う場面ごとに、調査の種類が異なり、調査の目的とするところも変わってきます。

 

つまり、特許調査の種類に応じた目的に即して、特許文書を“読む”ことが求められます。

 

特許請求の範囲を“読む”必要がある侵害予防調査を行っているのに、特許請求の範囲を読まないで、図面だけ読んでしまうと、第三者の特許権を侵害しているか否かを調査するという侵害予防調査の目的を達成できないことになってしまいます。

 

 

特許調査はあくまでも“手段”であり、調査それ自体は“目的”ではありません。

 

特許調査を行い、得られた示唆に基づいて、解決しなければならない課題を解決すべく、行動が必要となります。

 

例えば、無効資料調査を行う場合には、その調査結果に基づいて、情報提供、異議申立、無効審判、侵害訴訟、無効鑑定などの無効化に関連する業務を行うことになります。

 

そうすると、単に、無効化の対象となる特許の構成要件を闇雲に集めるだけではなく、進歩性における動機づけ、記載要件、技術常識を示す資料など、主張する無効論のロジック、属否論との関係などを考慮して、何を探すべきか主張したい事項から逆算して特許文書を読む必要があります。

 

(2)文書の構造を意識して先を見通して“読む”

ヒットした文献をスクリーニングする場合において、調査の目的を意識して特許文書を“読む”ときに、文書の冒頭から末尾までを一言一句、全てを網羅的に読むことをしていては、いくら時間があっても足りません。

 

特許文書は構造化文書ですので、文書の構造を把握して、全体の構成を理解するしつつ、“読む”ことの目的は何であるのか、調査の目的を意識して“読む”ことが前提となります。そして、何を知りたいのか、知りたい情報は何なのかを考えて、それは文書のどこに記載されているのかを想定しつつ、公報のどの箇所を“読む”のか、優先順位を付けて読むことになります。

 

 出典:2023年度知的財産権制度入門テキスト、21頁

 

なお、ここで言う“読む”とは、人間が自分の目で読むことだけではなく、コンピュータ上の支援システム、生成AIなどの支援ツールなどを活用して“読む”ことも含みます。

 

以下に示すように、一般的な明細書では、全体を示してから、個別の記載があるように、大きな概念から、個別の具体的な構成へと大から小へ段階的に記載がされており、先を見通して“読む”ということがポイントとなります。

 

 

(3)“読む”順番の一例

ある特許を例に“読む”順番の一例を示します。

 

発明の名称、要約から何が記載されているのか、前提となる、大枠を把握します。例えば、食事道具セットという発明の名称を見て、接着剤組成物の発明が明細書中に記載されているということは想定しにくいかと思います。

 

 

そして、図面や特許請求の範囲の記載から、具体的な内容、特徴となる構成を把握します。

 

そして、調査の目的から考えて、関連性が高いと思われる場合には、明細書、図面から詳細な内容を把握します。

 

そして、明細書における重要な個所を探し、調査の目的に関連する箇所を精読することになります。

 

この流れのように、徐々に解像度を上げて、先を見通して特許文書を“読む”ことが、特許調査の目的を達成するために有効であると思います。

 

次回は、③特許文書の読み方(中編)として、5W2Hを意識して“読む”こと、先行技術調査における公報の読み方、侵害予防調査における公報の読み方について述べようと思います。

 

 

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角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)

  note

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