こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会最優秀賞)です。
連載として侵害予防調査について説明をしています。
前回は間接侵害について述べました。
今回は、「古い技術を調査して代替」することについて説明をします。
知財に対する意識の高まりとともに、リスクを恐れ過ぎるあまり、対象となる「実施行為」(技術A)が古く単純な技術である場合であったとしても、侵害予防調査を行うことが求められるというケースが増えています。
単純な技術であればあるほど、母集団を絞り込むことが困難となり、調査コストも高くなってしまうでしょう。
技術Aが自由実施技術である可能性が高い場合、対象となる「実施行為」と同一の技術Aを開示する20年以上前に公知となっている文献aを探すことで、侵害予防調査の代替とすることができる場合があります(公知技術、自由実施技術であることの証明)。
下図に示すように、技術Aを開示する20年以上前の文献aが見つかった場合、①権利化されていたとしても特許権A1は存続期間が満了していますし、②文献aの出願よりも後の技術Aに関する出願A2は、文献aが既に公知となっており、権利化することはできません。
以下、仮想事例に基づいて検討をしてみましょう。
インターネットショッピング(電子商取引)で、購入履歴に基づいて商品の推薦(提示)を行う技術を対象とします。
(1)予備検索と分類の検討
①予備検索を、要約・請求の範囲・名称=購入履歴*商品*提示として実行した結果、約200件がヒットしました。
②データベースのランキング機能を利用して、特許分類(FI)の検討を行い、キーワードの検討も併せて行います。
以下の図に示すように、「インターネットショッピング(電子商取引)」、「購入履歴」、「商品の提示(推薦)」という3つの構成(観点)で絞り込む簡易的な検索式を作成し、生存分のみに限定すると、約400件がヒットしました。
(2)構成要件毎に分類とテキストを検討
次に、構成毎に分類とテキスト(キーワード)を検討して、以下の図に示すように、マトリクス形式でまとめました。
具体的には、予備検索から拡張した約400件の母集団についてランキング機能を用いて上位となった特許分類や、近しい文献に付与されている分類を見ることで、類義語・同義語、Fタームを選定しました。
(3)検索式の作成
得られた情報を基に、検索式を作成しました。
各小集合は、「インターネットショッピング(電子商取引)」、「購入履歴」、「商品の提示(推薦)」という3つの観点を掛け合わせることで作成されています。ヒット件数は、生存中のものに限定して約1200件でした。
(4)古い技術を調査して代替する例
仮想事例において、ヒアリングを行う中で、実施予定の技術が、「どの既購入商品と類似するのかという情報とともに商品を提示」するという、極めて一般的な技術であり、その他の構成(サービスの仕様)において特に特徴がない場合、上記のように1000件以上の集合のスクリーニングを行う代わりに、「実施予定の技術」を探すことで代替することも、コストパフォーマンスとの兼ね合いで十分想定されるでしょう。
以下の図に示すように、20年よりも前(検索式では25年よりも前とした)に公開された文献に限定をして、検索式を入力してヒットした約20件の集合から、実施予定の技術と同じ内容を開示する文献(特開平7-56929)が見つかった(なお、近傍検索で対象となる文献を狙って抽出することも可能である)。
つまり、「どの既購入商品と類似するのかという情報とともに商品を提示」というサービス(実施予定の技術)は、公知技術、自由実施技術であることの証明がされたので、このサービスに関する技術を単純に実施するだけであれば基本的には侵害のリスクがないことが示されたと言えます。
次回は、「意匠権もチェック」することについて述べようと思います。
誰でも、J-PlatPatしか利用できない環境であっても、フレームワーク(型)を用いてルーティーンで迷わず、調査する方法を、コツ、ノウハウを具体例を挙げて解説・伝授する「侵害予防調査と無効資料調査のコツ」と題する有料セミナーを4/19(金)10時~16時に開催します。
このセミナーの内容は知財実務情報Lab.でしか聞けない内容となっています。
詳細はこちらからご確認ください。