侵害予防調査について③侵害予防調査が難しい理由

 

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会最優秀賞)です。

 

連載として侵害予防調査について説明をしています。

 

前回は「侵害予防調査の課題・目的と6W2H」について述べました。

 

今回は、「侵害予防調査が難しい理由」について説明をします。

 

 

侵害予防調査は、特許調査の中でも特に難しく、苦手に感じたり、サーチャーであったとしても、調査を設計することや検索式を作成することができないといったりする方が多いように見受けられます。

 

調査に詳しくない弁理士だと侵害予防調査それ自体を調査会社に丸投げしてしまうこともあるかもしれません。

 

侵害予防調査について理解をすることで、調査を設計することができ、調査の妥当性を評価できるようになることが大切だと思います。

 

近い発明や技術の有無を確認する出願前調査や先行技術調査に対して、侵害予防調査では、調査対象の特定における自由度が非常に高く、自社のサービス等に関する想定される権利を全て漏れなく見つける必要があります。

 

このとき、自社のサービスやビジネスモデル等を理解し、存在し得る特許権を想定して検索式を作成することが求められます。

 

 

 

 

また、技術分類ごとに付与される特許分類やキーワードの選定等、調査手法に関しても高度な知識が必要となります。

 
その中でも対象となる「実施行為」の設定(特定)と、抽象的である「調査対象」の想定が侵害予防調査を難しくしているのではないでしょうか。

 

出願前調査と侵害予防調査の比較をした下図を参照しながら、侵害予防調査の特徴について他の特許調査(出願前調査)と比較して説明をします(参考文献)。

 

 

 

 

一般に、出願前調査(新規性調査、先行技術調査)では、調査対象がある程度明確となっています。

 

つまり、調査対象となる請求項や発明を具体的に想定することが可能です。

 

そして、調査対象となる発明の概念(技術的思想)に含まれるか類似する実施例(具体的、客観的な技術)を開示する先行技術があるか否かを調査すればよいでしょう。

 

具体例、つまり外縁の探索ですので比較的容易であると言えます。

 

 

これに対し、侵害予防調査では、前提となる自己の「実施行為」、具体的には、製造・販売しようとする対象製品、提供しようとしているサービスの特定や定義を行うことが困難であることが多いです。

 
年々、技術は高度化しており、他分野にまたがる横断的な技術も増えているためです。

 

通常、1つの製品等は多数の技術を含んでいます。

 

つまり、何を調査対象(観点)とするのか、何を調査対象としないのか、取捨選択の判断も重要となるのですが、この取捨選択が非常に難しく、多くの観点を取り入れると際限がなく調査が発散してしまいます。

 

また、侵害予防調査では、「調査対象」が抽象的であるという特徴があります。

 

発明の技術的範囲を画定する特許請求の範囲には、技術的思想が広く、抽象的かつ概念的に表現されています。

 

発明は、特許請求の範囲において一定の広がりを持つよう抽象的かつ概念的に記載されているのです。

 

このような実体のない抽象的な特許請求の範囲の記載を想定して、検索式に具体化(翻訳)するという作業が必要となります。

 

弁理士が普段から行っている発明を理解して、特徴的構成(発明の本質)を抽出しクレームドラフティング(クレームの作成)を行う際のテクニック、上位概念化・抽象化は、侵害予防調査において、対象製品等を理解して、特徴的な実施行為を抽出し検索式を作成する際の考え方、上位概念化・抽象化にある側面で類似すると私は感じています。

 

つまり、侵害予防調査のスキルを向上のために、発明の抽出、クレームの作成業務を行い、発明品からクレーム(発明)を生み出す過程を経験することが望ましいでしょう。

 

そして、侵害予防調査を行ったとしても、リスクを0%にすることは不可能です。

 
侵害予防調査は、過去に公開されている情報に基づいて行われるため、出願はされているが、未公開の文献はいくら検索をしても当然ヒットしませんし、また、全ての実施行為について想定し得る特許権を網羅的に調査し尽くすことには、膨大な費用と時間が必要となるため、コスト面(時間と費用)を考慮すると、現実的には不可能であるからです。

 

つまり、実施行為および調査範囲について、誰もが納得できる落とし所を設定することは非常に難しく、実質的に不可能と言えるでしょう。

 
しかし、特許侵害のリスクを恐れていたら、いかなる事業も進めることはできなくなってしまいます。

 
事前にリスクを最大限想定し、費用対効果も考慮して、調査の精度を可能な限り高めることが重要となるのです。

 
なお、当然ではありますが、調査漏れや、見落としは許されないでしょう。

 

次回は、「侵害予防調査の考え方」について述べようと思います。

 

 

角渕先生からのお知らせ

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角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)

  note

秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/