特許調査の基本的な流れ ~予備検索から本検索への拡張~

 

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会2017最優秀賞)です。

今回は、特許調査の基本的な流れである、予備検索から本検索への流れについて述べたいと思います。

 

技術が多様化した現在、どんなに優秀なサーチャーであっても、いかなる分野にも精通しているというようなことはありません。特許調査を行う場合には、通常、本検索を実施する前に特許分類や関連技術・技術常識を把握することを目的とした「予備検索」を行うことになります。

 

 

効率的で漏れのない検索式を作成するためには、適切な特許分類(FI、Fターム、IPC、CPC等)とキーワード(テキスト)の選定が必要不可欠です。しかし、ある発明について特許分類やキーワードの類義語を直ぐに閃くことは、その分野における知識が豊富な専門サーチャーでない限り困難だと思います。そこで、技術のレベル感を把握し、適切な特許分類とキーワードを選定し、最適な検索式を作成するための下調べとして「予備検索」を行います。

  

まず、調査対象となる発明を正確に理解し、その発明の本質は何であるのかを表現することからスタートします。仮に、発明の本質を正確に理解しない場合、意味のある調査を行うことはできません。そして、以下の図に示すように、発明のポイント(本質)を一文(ワンセンテンス、20字~多くても50字程度が良い)で表現し、それを検索式に置き換えることで予備検索を行います。

 

 

予備検索の段階では、キーワードを用いる場合、検索のフィールド(検索の対象とする範囲)は、発明のポイントが的確かつ簡潔に記載されている要約、請求項、名称を中心とすると効果的です。重要な事柄は要約、請求項、名称に記載されていることが基本ですので、本質をとらえた質の高い集合を作成して、情報を選抜するイメージとなります。

 
このとき、特定のキーワードが近接して記載されている資料をピンポイントで検索するために、近接演算子(近傍演算子)や概念検索を用いることも有効でしょう。

 

発明のポイント(本質)は、調査のメインターゲットをカバーするものですので、このような予備検索を行うことで、ノイズが少なく適切な情報のみを抽出することが可能となります。

 

虫の目で数本の木(本質的な集合)を見ることで周囲の森(集合の周囲全体)を伺い知ることが可能となりますし、鳥の目で森(全体)を俯瞰して抜け漏れなく網羅的に情報を収集する際に森(調査範囲)の外縁を的確かつ効率的に把握することが可能となります。

  

予備検索では、ヒット件数が数十~100件以内と多くなりすぎないように留意をし、付与されている特許分類の確認と、キーワードの選定(類義語の確認)を行います。このとき、検索データベースのランキング機能などを活用して、頻出する特許分類を見出して、特許分類表(パテントマップガイダンスや分類対照ツールなど)を参照して定義の確認を行った上で、適切な特許分類が存在すれば、その分類を優先的に用いることが好ましいでしょう。

 

予備検索で適切な特許分類とキーワードを選定した後に本検索へと移行します。無効資料調査では、本質である新規性を否定可能な文献を中心として進歩性を否定可能な文献の組み合わせに広げたり、同一分野から関連・周辺分野に検索範囲を広げたりするイメージです。また、侵害予防調査では、調査対象(イ号製品等)が強く関連する高リスクの領域から、低リスクの領域へ広げるイメージとなります。

 

 

本検索では、発明の観点毎に同一の観点はOR演算(「+」)で足し合わせ、異なる観点はAND演算(「×」や「*」)で掛け合わせることが基本となります。

 
AND、OR、NOTは、ブール演算子(Boolean operator)と呼ばれ、これらの演算子を用いた検索をブール検索(ブーリアン検索、Boolean search)といいます。

 

AND演算(論理積、A AND B)は、入力した検索語をすべて含むものを検索するために用いられ、OR演算(論理和、A OR B)は、入力した検索語のいずれかを含むものを検索するために用いられ、NOT演算(論理差、A NOT B)は、特定の検索語を除くものを検索するために用いられます。NOT演算は特定の出願人を除く場合や、既に見た集合を除く場合など、検索式に使うときには慎重に検討すべきです。なお、論理演算の優先順位は、「()」を用いることで指定することが可能です。

 

検索式を作成するときには、観点A(下位概念A、A、A)、観点B(下位概念B、B)、観点C(下位概念C、C、C、C)の3つの観点がある場合には、同一の観点はOR演算で足し合わせ、異なる観点はAND演算で掛け合わせます。具体的には、(A+A+A)×(B+B)×(C+C+C+C)のように検索式を作成することになります。

 

 

つまり、集合をベン図(Venn diagram、複数の集合の関係や、集合の範囲を視覚的に図式化した図であり、集合図や論理図とも呼ばれる。)で表現できるように検索式を作成するのです。ベン図上で集合を表現できないような検索式、つまり、説明をできない検索式は、何を探しているのか明確ではなく、不要なノイズを含む可能性が高く好ましくないため、作成をしてはなりません。

 

進歩性を考慮する場合には、観点Aと観点Bの掛け合わせ、観点Bと観点Cの掛け合わせ、観点Aと観点Cの掛け合わせなど、想定される文献の記載内容を考慮して、複数の観点の組み合わせを考慮して検索式を調整します(つまり、検索範囲を調整)。このとき、ヒット件数に応じ、各観点で用いる特許分類やキーワードを適宜調整したり、取捨選択したりすることでノイズを低減すると良いでしょう。

  

角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)

  note

秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/