特許分類とキーワードについて ~ 特許分類の必要性 ~

 

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会2017最優秀賞)です。

 

今回は、特許調査において検索キーとして用いられる「特許分類」と「キーワード」について、特に「特許分類」の必要性について、述べたいと思います。

 

特許調査で入力する検索式を作成するときにポイントとなるのが、特許分類やキーワードの選定です。

 
後述しますように、特許分類を用いる場合とキーワードを用いる場合の長所・短所を正しく理解して、バランスよく適切に使い分けることが必要です。

 

  

  

皆さんが日常生活で調べたいものがあるときは、Googleなどの検索エンジンを用いて、目的のキーワードを入力して検索をすると思います。

 

例えば、口元を覆う「マスク」に関する「特許」を調べたいとします。

 
これを、Googoleを用いて検索する(ググる)と、文字通り「マスク」の「特許」についての記事やニュースがヒットします。

 

 

 

「マスク」の記事やニュースではなく、「特許」文献を調査するために、Google Patentsで「マスク」と検索をしてみましょう。

 

 

 

 

検索の結果、日本などの特許文献がヒットしました。しかし、上位に表示された技術の内容は、有機半導体素子の製造に用いられる、蒸着「マスク」であり、検索の目的とするものではありません。

 

このような時に、目的となる技術に的を絞って検索をするために、FI、Fターム、IPCなどの特許分類が存在しているのです。

 

例えば、J-PlatPat等の特許検索データベースで、「マスク」について調査を行う場合を想定しましょう。

 
キーワードで「マスク」と検索をする場合には、文言上、「マスク」に該当する、①衛生マスク、②防煙・防毒マスク、③防塵マスク、④顔面マスク、⑤呼吸マスク、⑥正体を隠すためのマスク、⑦フォトマスクが全てヒットしてしまいます。

 
これに対して、特許分類(FI)を用いることで、①~⑦の技術のうち必要なものを特定して検索することが可能となります。

 

 

 

IPC(International Patent Classification)は、世界各国が共通に使用できる特許分類として作成されたもので、第一の目的は、新規性や進歩性を評価するために、世界各国で特許文献を共通に検索するためのサーチツールを確立することです。また、IPCは、特許文献に記載の技術へのアクセスを容易にするツールとなること、特許情報を利用者に普及させる基礎になること、ある技術分野の現状を調査するための基礎となること、そして、種々の分野における技術の発展を評価できる統計を作成するための基礎となることも目的としています。

 

FI(File Index)は、国際特許分類(IPC)を細分化した日本国特許庁独自の特許文献の分類で、発明の技術主題(請求項)に付与され、単観点となっています。IPCの利用に際して、日本の技術事情、例えば、諸外国に比べて一段と進んでいる技術の存在あるいは日本特有の技術の存在により、IPCの展開をそのまま使用すると多量の特許文献が集中し、検索などに不都合が生じる場合があります。そこで、このような場合に対応するために、日本では、IPCをベースとしてIPCに展開記号及び/または分冊識別記号を付加する形で日本独自に細展開したFIを使用されています。

 

Fターム(File Forming Term)は、文献量の著しい増大及び技術の複合化、融合化、製品の多様化に対応し、特許審査のための先行技術調査(サーチ)を迅速に行うために機械検索用に開発された検索インデックスのことです。FIを所定技術分野毎に種々の技術観点から細区分したものがFタームであり、多観点での解析、付与が可能であることが特徴です。Fタームは、特許情報(特許公報類)中に記載されている技術的事項を把握した上で、種々の技術観点(目的、用途、構造、材料、製法、処理操作方法、制御手段等)を付したFタームリストに照らして文献ごとに付与されています。

 

 

 

特許分類の長所としては、一般に検索漏れが少なく、類義語や言語化しにくい幾何学的特徴を拾うことが可能であり、分類付与が正確であればノイズが少なく、テキストデータがないような古い文献も検索することができることが挙げられます。

 

特許分類の短所としては、分類付与の漏れ・ミスがある場合、適切な文献がヒットしない可能性があることや、分類の知識や改廃を理解しなければいけないこと、最新技術について分類が整備されていないことなどが挙げられます。

 

 

 

 

キーワード(テキスト)検索の長所としては、直感的で分かり易く、用語や物質名に特徴がある場合に有効であり、適切な特許分類がない場合にも柔軟に対応できることが挙げられます。

 

キーワード(テキスト)検索の短所としては、類義語や同義語を網羅しなければ検索漏れが生じる可能性があること、ノイズが多くなる傾向があること、適切なキーワードがないと使えないこと、テキストデータ化されていない古い文献がヒットしないこと、分野によって、同じキーワードでも意味が異なってしまうことなどが挙げられます。

 

キーワード検索は絶対に行ってはいけないとか、特許分類を用いた検索のみしか許されないといった極端な考え方ではなく、特許分類とキーワードのそれぞれの特性(長所・短所)を理解した上で、調査の目的、使用可能なコスト、検索対象や技術分野に応じて、柔軟かつ適切に使いこなすことが大切となります。

 

このあたりの「実務」における実践的なノウハウ、検索式を組み立て方は、冒頭の「お知らせ」にある6/30(木)のオンラインセミナーで説明をしたいと思います。

 

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角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)

  note

秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/