こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会最優秀賞)です。
前回までは連載として侵害予防調査について説明をしてきました。
今回と次回は、「特許文書の読み方」について、特許調査を例として説明をします。
今回は、①特許文書を読むことについて述べます。
(1)特許文書とは?
まず、“特許文書”とは何でしょうか。
特許を読むというときに、読む対象となるのは、いわゆる“特許公報”でしょう。
“特許公報”には、いくつか種類があります(参考)。 主な“特許公報”としては、公開特許公報(公開公報)、特許掲載公報(登録公報)があります(特許法)。
以下の図に特許制度の目的を示すように、発明の保護(権利者)の側面から登録公報(特許掲載公報)が発行され、発明の利用(第三者)の側面から公開公報(公開特許公報)が発行されています。
“特許公報”は、発明の保護の側面から見ると権利書面(登録公報)としての役割を持ち、発明の利用の側面から見ると技術書面(公開公報)としての役割を持っています。
出典:大阪工業大学HP
“特許公報”を読む際には、権利書面として読むのか、技術書面として読むのか、その目的に応じて読み方は変わってくるでしょう。
また、同じ出願に関するものでも登録公報と公開公報のどちらを読むのかも変わってくるでしょう。
(2)特許情報について
特許文書、具体的には公開公報(公開特許公報)と登録公報(特許掲載公報)には、どのような特許情報が含まれているでしょうか。
公開公報(公開特許公報)と登録公報(特許掲載公報)の例を以下に示します。
中央の上方に、公開公報では(12)公開特許公報(A)と記載があり、登録公報では(12)特許公報(B2)と記載があります。
(12)は文献種類別の簡潔な言語表示を示すINIDコードです。
また、特許庁、特許情報の利用の表2「現行の日米欧・WO公報の主な種別コード」にあるように、(A)は公開特許または公表特許、(B2)は公告特許または登録特許であることを示しています。
特許文書は、情報やデータが特定の構造や規則に基づいて整理され、一定のフォーマットや形式で記述された構造化文書です。
先ほどの(12)の文献種別以外にも、特許文書には書誌的事項が「INIDコード(Internationally agreed Numbers for the Identification of Data=書誌的事項の識別記号の略」と呼ばれる識別記号と共に記載されています。
なお、「INIDコード」の詳細は、[INPIT](独)工業所有権情報・研修館のHPにあるINIDコード一覧表を参照することができます。
特許文書は、構造化文書であるので、一定のフォーマットで何が記載されているか決まっており、特許文書に含まれる特許情報は、以下の図に示すように技術情報、権利情報、書誌情報の3つに大別することができます。
技術情報を知りたいときには、技術書面としての公開公報を、技術の内容が記載されている要約書、図面、明細書を中心に読むことになります。
権利情報を知りたいときには、権利書面としての登録公報を、権利の内容が記載されている特許請求の範囲を、明細書の記載も参酌しながら読むことになります。
書誌情報を知りたいときには、目的とする情報に応じて公開公報や登録公報の書誌的事項を読む(分析・解析する)ことになるでしょう。
(3)特許文書を“読む”とは
それでは、特許文書を“読む”とは何でしょうか。
デジタル大辞泉で“読む”について調べてみた結果を以下に示します。
“読む”と一言で言っても、色々な意味があることがわかります。 小説を“読む”、メールを“読む”、特許文書を“読む”、“読む”にも様々ありますが、これらの“読む”は、同じ意味でしょうか。
1000件の特許をノイズ落としするために“読む”、本件特許発明と主引用発明を対比するために“読む”、侵害鑑定のために1件の特許を“読む”、特許文書を読む場合においても、“読む”の質的な意味は大きく異なるでしょう。
特許文書を“読む”際には、特許文書を“読む”目的に応じて、特許文書の構成を意識しながら読むことが大切になってきます。
以下に明細書等の構成を示します。
この明細書等の構成を意識しながら、どのような目的で“読む”のかに応じて特許文書を“読む”ことが求められるでしょう。
次回は、②特許文書の読み方について述べようと思います。
(参考文献)
3)ライトハウス国際特許事務所、5分でわかる特許明細書を読むコツ
4)TechnoProducer HP、企業の技術を深く知るための「特許の請求項」の読み方
侵害予防調査に関する基本的事項、考え方とポイント、検索式の作成における留意点、仮想事例について執筆した論文、「侵害予防調査についての一考察」が日本弁理士会のパテント誌2024年2月号に掲載されています。
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