侵害予防調査について ⑤侵害予防調査のポイント(前編)

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チーム角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会最優秀賞)です。

連載として侵害予防調査について説明をしています。

 

前回は「侵害予防調査の考え方」について述べました。

 

今回は、「侵害予防調査のポイント(前編)」について説明をします。

 

 

侵害予防調査では、余裕を持って段階的に調査を実行すること、優先度とリスクのバランスをとった調査観点と調査範囲の設定がポイントとなります。

 

以下の図に侵害予防調査のフローとポイントを示します。

 

 

この流れを意識した上で、(1)依頼者からのヒアリング、(2)開発初期からの段階的な調査、(3)調査の観点と優先度について述べます。

 

1.依頼者からのヒアリング

侵害予防調査のスタートは依頼者からのヒアリングです。

 

実施行為の特定や権利範囲の想定の基礎となるため、調査の成否・結果はヒアリングで全てが決まると言っても過言ではないでしょう。

 
ヒアリングでは、①技術的な観点、②事業的な観点、③調査的な観点、④事務的な観点に着目をして鍵となる事項をインタビューします。

 

①技術的な観点からは、自社の実施予定の技術(対象製品等)が、どのような立ち位置(新製品か改良製品か)なのか、特徴的な部分は何であるのか(物か、方法か、物の製造方法か)、製品等の具体的な設計・仕様はいかなるものであるのかをヒアリングします。

 
②事業的な観点からは、実施国(製造国、販売国)は何処であるのか、実施行為と併せて確認を行います。発明のカテゴリーごとに、侵害となる実施行為が異なるので注意をする必要があるでしょう。また、事業のステージと、現在および将来の事業規模を確認し、スケジュールやコストの検討に反映をさせます。

 
③調査的な観点からは、侵害のリスクと対応の可否(代替技術の有無、撤退のコストなど)、想定される権利範囲(技術のレベル感や技術の流れ)、競合企業の情報、関連する公報の情報、技術常識に関する情報をヒアリングします。

 
④事務的な観点からは、依頼者(知財部門、事業部門、研究開発部門)が望む調査方針、調査スケジュール、調査コスト等をヒアリングします。調査のコストについては、事業的な観点などに基づいて、費用対効果を最適化するとよいでしょう。 

 

 

2.開発初期からの段階的な調査

懸案となる特許権が見つかった場合の対応としては、設計変更、無効資料調査、ライセンス・特許権譲渡交渉、製品等の販売中止等が想定されますが、対応の決定には経営判断が必要となるのが普通です。

 

したがって、製品等のリリース前において、少なくとも製品等の開発初期段階と、製造直前や仕様等が固まった段階の2段階で調査を行うことが望ましいでしょう。

 

 

 

製品等の開発の初期段階において、製品等のコアとなる重要な技術については、早期に予備的な調査を行っておき、ある程度開発が進み仕様が固まってきた段階で周辺技術も含めて徹底的に調査を行う段階的な対応をとることが調査内容的にもコスト的にも有効となるでしょう。

 

3.調査の観点と優先度

侵害予防調査では、懸案となる調査範囲の全てを網羅的に調査し尽くすことは非現実的ですり、実質的に不可能です。したがって、様々な観点から優先度を総合的に判断し、費用対効果を意識しつつ調査を行う必要があるでしょう。

 
優先度を決める観点としては、事業性(基幹事業か否か)、技術水準(新規技術か否か)、特定容易性(外観等や分析から特定が容易か否か)、対応性(変更可能か否か)、認知性(公に大規模な宣伝を行うか否か)等が例として挙げられます。

 

 

製品等のセールスポイントとなる部分、侵害検出の容易な部分を重点的に調査するとよいでしょう。侵害予防調査は、基本的には、将来に向かって行う調査であるため、長期的な視点に立って検討を行うことが重要です。

 

例えば、消すことができるボールペンであれば、調査の観点について、機能として「書く機能」、「消す機能」が想定されるでしょう。

 
「書く機能」としては、透明になるインクがポイントであり、透明になるメカニズム(温度変化で色が変化、化学物質の反応で色が変化等)、使用する材料(主成分は何か、いかなる化学物質であるのか、添加剤にポイントがあるのか、それとも配合の組み合わせに特徴があるのか等)、材料の形態がカプセル化されたものである点に特徴がある等、存在し得る権利を想定することができます。

 
また、「消す機能」としても同様に、消しゴムの材料や形状、収納の機構、筆記具における配置、組付け方法(製造方法)について権利が存在し得ることが想定できるでしょう。 

 

 

 

さらに、消すことができるボールペンに限定することなく、筆記具としてのデザイン(外観)や、内部の機械的構造に特徴があるときには、機能を離れて、意匠的観点、構造的な観点で調査を行う必要もあるかもしれません。

 

このような調査観点についての様々な想定は、経験や勘が物を言い、机上の空論ではなく、技術に対する深い理解が重要であり、技術の進歩の流れや技術常識の把握を通じて、調査観点毎にリスク・優先度を適切に設定することが求められるでしょう。

 

調査観点を洗い出す際の検討事項として、リスクの高さ、設計変更できる構成であるか否か、あらゆる権利を想定する必要があり、存続中の権利として、いかなる権利が存在しているのか、予備検索を行ってレベル感や技術の流れを確認することも効果的です。

 

次回は、「侵害予防調査のポイント(中編)」について述べようと思います。

 

角渕先生からのお知らせ

日本テレビのドラマ「それってパクリじゃないですか?」の第3話で芳根京子さんが演じる知財部員が読んでいた、私が侵害予防調査について執筆した書籍、「改訂版 侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ~特許調査のセオリー~」が、一般財団法人経済産業調査会から発行されています。詳細はこちらからご確認ください。

 

角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)

  note

秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/