侵害予防調査について ⑧仮想事例:機能性表示食品

 

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チーム角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会最優秀賞)です。

 

連載として侵害予防調査について説明をしています。

 

前回は「侵害予防調査のポイント(後編)」として、(6)ヒアリングのTIPS、(7)スクリーニングのTIPS、(8)コストを抑えるための「工夫」について述べました。

 

今回は、侵害予防調査の仮想事例について機能性表示食品を題材として説明をします。

 

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対象となる機能性表示食品は、「手元のピント調節力を助ける機能」に、「ぼやけを緩和し、はっきり見るチカラを助ける機能」「光の刺激から目を守るとされる黄斑部の色素を増やす機能」が確認されているとしましょう。

 

機能性関与成分として、ルテイン、アスタキサンチン、シアニジン-3-グルコシドDHAが含有されています(※シアニジン-3-グルコシドは、ビルベリーエキス、黒大豆種皮エキス由来)。

 

表示される原材料名は、以下の通りであって、剤型ソフトカプセル剤でです。

 

食用油脂、DHA含有精製魚油、アスタキサンチン含有ヘマトコッカス藻エキス、黒大豆種皮エキス、ビルベリーエキス/加工デンプン、グリセリン、ゲル化剤(カラギナン)、ミツロウ、ルテイン・ゼアキサンチン含有マリーゴールド色素、酒石酸、リン酸ナトリウム、酸化防止剤(ビタミンE)

 

まず、懸案となる特許権として、どんな権利の存在を想定するでしょうか。

 

有効成分機能性表示(用途)有効成分同士の組み合わせ、有効成分とその他成分の組み合わせ、その他成分同士の組み合わせ、剤型、用法・用量、製造方法、パッケージ(包装材料)など、下調べや経験に基づけば、様々な権利が想定され得るでしょう。

 

なお、調査の背景や、製品等の詳細はケースバイケースですので、以下に示す検索式等はあくまでも一例に過ぎない点にご留意ください。

 

敢えて、検索式に改良・修正の余地を残してあるので検討をしてみて下さい。

  

まず、調査の優先度を決める観点から、各成分の重要度を高いものから順に成分A、成分B、成分Cとしました。

 

 

 

成分Aは、機能性表示に係る有効成分ですので、必須の成分となります。

 

成分Bは、特徴的なソフトカプセル剤という剤型を採用していることによる成分であって、カプセル内容物と有効成分の安定化に関する成分です。

 

成分Cは、その他成分としました。

 

検索式の作成においては、例えば、有効成分のうち2成分の組み合わせや、有効成分と他の成分の組み合わせ、他の成分の組み合わせ等から、コストや背景事情などを考慮して必用に応じて用途や剤型で絞り込みを行います。

 

予備検索やシソーラス辞典の活用により、各成分の特許分類を抽出し、同義語・類義語も検討します。

 

なお、化学物質については、上位概念・下位概念として、骨格や官能基(芳香族とベンゼン環、エタノールとアルコール、アミノ基など)、用途・機能(酸化防止剤、界面活性剤など)があります。

それ故に、上位概念のキーワードを用いると網羅性は上がりますが(再現率の向上)、ノイズは増えてしまいます(適合率の低下)。

上位概念とするか下位概念とするかは、何がどのレベルで公知であるか、自由実施技術や技術常識などを考慮して判断を行うことになります。

 

検索式①では、各有効成分用途、各成分を含有するソフトカプセル剤であるサプリメント、最重要のルテイン・ゼアキサンチン含有マリーゴールド色素に関する分類と用途、植物抽出物の用途及び剤型、ルテイン以外の有効成分の用途などの観点を掛け合わせて、各小集合を作成しました。

 

検索式②では、有効成分の組み合わせに着目して絞り込んだ上で、用途で限定をして、各小集合を作成しています。

 

 

 

検索でヒットした文献には、関連する特許である特許6419620号などが含まれている。

 

検索式は、リスクとコストに応じて適宜設定されるため、絶対的な正解はありません。

 

どのような権利が想定し得て、どの程度のレベル感で調査を行うか、ヒアリング時に確認とすり合わせを行い、検索式を作成すればよいでしょう。

 

次回は、「特許権侵害の判断方法」について述べようと思います。

 

 

角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)

  note

秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/