特許調査の書籍紹介

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会2017最優秀賞)です。

 

これまでに、予備検索から始まる特許調査の基本的な流れから検索式の組み立て方まで調査の王道ともいえる基本を述べてきました。

特許調査の基本的な事項から応用まで、自分で学びたい方も多いかと思います。

 

今回は特許調査についての書籍を9冊紹介します。

三大基本書、実践的書籍、論点に特化した書籍について各3冊となります。

 

1.三大基本書

(1)特許情報調査と検索テクニック入門 改訂版

(2)特許調査入門 第三版

(3)技術者・研究者のための 特許検索データベース活用術 第2版

2.実践的書籍

(4)できるサーチャーになるための 特許調査の知識と活用ノウハウ

(5)特許調査の研究と演習 調査の実際が体系的に学べる初めての教科書

(6)これだけは知っておきたい特許審査の実務(千本潤介)

3.論点に特化した書籍

(7)特許調査の実践と技術50-特許調査における桐山流発想法-

(8)技術者のためのアイデア発想支援 特許情報を概念検索で使いこなす

(9)改訂版 侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ

 

  

1.三大基本書

 

(1)特許情報調査と検索テクニック入門 改訂版

イーパテントの野崎篤志さんの通称「青本」です。

情報調査の基本から始まり、特許情報調査に関する基本・応用が網羅的かつ簡潔的にまとめられています。

 

 序章  特許情報調査に求められる知識・スキル

 第1章 良い検索式・母集団とは?

 第2章 特許情報調査のための基礎知識

 第3章 特許情報調査に用いるデータベース・ツール

 第4章 番号からの特許情報調査

 第5章 企業名・発明者からの特許情報調査

 第6章 関連性マトリックスと特許検索マトリックスの活用方法

 第7章 特定テーマに基づいた特許情報調査

 第8章 後方の読み方と調査結果のまとめ方

 第9章 特許情報調査スキルを磨くために

 

特許検索式作成テクニックの形式知化を目指しており、「手法」や「道具」を手に入れつつ、その奥にある考え方を身に付けることができます。

第1章~第5章、第8章、第9章では、特許情報調査に必要な基礎知識や基本的事項等が説明されています。

第6章「関連性マトリックスと特許検索マトリックスの利用方法」は、検索式作成の基本かつ王道であり、全てのサーチャーが身に着けるべきスキルが形式知化されています。

第7章「特定テーマに基づいた特許情報調査」では、ドローン、安全ライター、全個体電池、セルフレジ、ロボット掃除機、機械学習が検索式作成事例として取り上げられており、検索式作成における思考がとても参考となります。

巻末の引用文献・参考文献についても、関連する文献が、ほぼ網羅的にまとまっており、非常に参考になるでしょう。

初心者の入門書としては勿論、中上級者が読んでも気付きの多い不朽の名著であり、特許調査に関する書籍で読むべき本を一冊挙げるとすれば、迷うことなく本書を推薦します。

 

(2)特許調査入門 第三版

スマートワークスの酒井美里さんの入門書の第三版です。

「J-PlatPatをはじめとする特許データベースを活用して、より精度の高い、効率的な特許調査を行うための道しるべ」とのことです。

 

 第1章 データベースと特許情報調査の基礎

 第2章 特許調査の基本的なテクニック

 第3章 特許調査の精度上げと調査実務の要諦

 第4章 特許調査に役立つその他の情報源

 

酒井さんの初版でサーチャーという仕事があることを知りましたが第三版は集大成というべきクオリティとボリュームです。

圧倒的な質と量にも関わらず、酒井さんが語りかけてくるようで、読みやすい点に特徴があります。

基礎的な内容から始まり、調査をする際に知っておくべき知識が、網羅的かつ非常にわかりやすい説明で書かれています。

J-PlatPatの操作例を交えて以下の内容を学ぶことができます。

特許調査を始める前に読む、最初の一冊としてお薦めの一冊です。

 

(3)技術者・研究者のための 特許検索データベース活用術 第2版

サーチャーで弁理士でもある英究特許事務所の小島浩嗣さんの実用的な書籍です。

技術者や研究者がJ-PlatPatを活用して目的の特許を見つけ、技術の流れをつかめるように書かれた一冊です。

J-PlatPatによる調査・検索の基礎、検索の手順のフレームワークが記載されています。

そして、単に調査にとどまることなく、Excelによる特許情報の分析、特許マップの作成方法や、エクセルの関数やマクロを使った分析方法まで書かれています。

短時間でそれらしい特許を見つける検索技術など、すぐに役立つ活用術が満載です。

技術者や研究者の方に読んで頂きたい一冊ですが、知財部や特許事務所で働く方にも非常に役に立つ書籍です。

 

 第1章 特許情報を活用して一大発明を創生しよう!

 第2章 特許制度と特許文献の種類

 第3章 特許分類について

 第4章 J-PlatPatの使い方

 第5章 短時間で「それらしい特許」を見つけるために!

 第6章 特許文献情報を統計として活用するために!

 第7章 検索事例I(短時間で「それらしい特許」を見つける検索)

 第8章 検索事例II(特許文献情報を統計として活用するための検索/分析手法)

 以上、野崎さん、酒井さん、小島先生の3冊を基本書として紹介しました。

 いずれの書籍も基本から応用まで学ぶことができる名著です。

 実際に書籍を手に取ってみて、読みやすいなと感じた1冊を選んでみてはいかがでしょうか。

 

 

2.実践的書籍

 

(4)できるサーチャーになるための 特許調査の知識と活用ノウハウ

弁理士でもあるライズの東智朗さん、インフォストラテジー特許事務所の尼崎浩史さんの共著です。

特許調査を行うにあたって必要な知識が基礎編(第1章~第8章)と応用編(第9章以降)とに分けて説明されています。

 

(基礎編)

 第1章 法律・制度に関する知識

 第2章 特許調査の種類と考え方

 第3章 特許分類について

 第4章 特許分類検索について

 第5章 キーワード検索について

 第6章 J-PlatPatの機能について

 第7章 調査の流れ・実務的知識

 第8章 演習

(応用編)

 第9章 商用データベースに関する知識

 第10章 侵害調査

 第11章 応用知識・TIPS

 

単に調査にとどまることなく、法律・制度に関する知識、検索式作成のための特許分類・キーワードに関する知識、データベースに関する知識、調査観点、調査結果のまとめなど実践的なノウハウを学ぶことができます。

特に第10章の侵害調査の項目は調査観点の設定から検索式の作成、侵害の判断手法まで記載されており参考になります。

入門書で基本を身に付けた後に読むと非常に力がつく内容となっています。

  

(5)特許調査の研究と演習 調査の実際が体系的に学べる初めての教科書

工業所有権協力センターで勤務された経験のある二神さんが執筆された調査の実務を体験できる書籍となります。

本書のターゲットは、特許調査を専門で仕事とする人でしょう。

 

 第1章 特許調査と特許制度

 第2章 特許文献の知識

 第3章 特許分類と検索

 第4章 データベースと利用

 第5章 分類(Fターム)の付与

 第6章 特許調査の進め方

 第7章 報告書の作成

 第8章 先行技術調査

 

特許分類を用いた調査について非常に詳しく書かれており、ある程度実務を行った人が読むと一段上のレベルを目指すことができるような内容です。

新規性のみならず進歩性を考慮した調査を学ぶことができます。

第6章以降の実例がとても参考となります。

  

(6)これだけは知っておきたい特許審査の実務(千本潤介)

特許庁の審査官である千本さんが一橋大学に出向している際に執筆された書籍です。

特許審査の実務を短時間で効率よく学ぶことができます。

独立行政法人 工業所有権情報・研修館(INPIT)の調査業務実施者育成研修(法定研修)のエッセンスが凝集された良著です。

 

 第1章 基本編

-特許審査の概要を学ぶ

 第2章 事例検討偏

-実事例を用いて審査の流れを学ぶ

-実事例を用いて出願人として有効な補正の戦略を学ぶ

 第3章 発展編

-審査基準からは気が付きにくいこと、審査基準には書いていないことを学ぶ

 先行技術調査を行う上で必要な特許法や審査基準の知識を学びつつ、実事例の審査経過を参考に審査の流れを理解することができます。

 第3章では、審査基準には書いていない審査実務の上で重要な点が解説されており、非常に参考になるでしょう。

 特許の審査、先行技術調査について興味がある方の最初の一冊としてお薦めです。

 

 

3.論点に特化した書籍

 

(7)特許調査の実践と技術50-特許調査における桐山流発想法-

特許調査の大御所である桐山さんの名著です。

「特許調査における桐山流発想法」を中心とする特許調査をする際の心構えと考え方についての書籍であり、「特許情報調査の技術を習得するための基本姿勢として、一般的なビジネス手法をできるだけ特許調査の日常業務に応用する」ことをテーマとしています。

副題に「中堅サーチャー向けの心構えと考え方」と付されているように、初心者向けではありません。

基礎的なことを学んだあとに、殻を破りたい方、なんとなく調査をしてはいるけども根っことなる考え方が覚束ない方に読んでいただきたい名著です。

 

(8)技術者のためのアイデア発想支援 特許情報を概念検索で使いこなす

六車技術士事務所の六車さんの概念検索に特化した書籍です。

概念検索はもちろん、情報検索における基礎知識も学ぶことができます。

第5章にある検索チェックリストがとても役立ちます。

 

 第1章 特許情報によるアイデア発想支援

 第2章 アイデア発想法は役立つか?

 第3章 概念検索によるアイデア発想支援

 第4章 知識データベース・特許情報

 第5章 情報検索の方法

 第6章 概念検索とは何か

 第7章 概念検索の上手な利用法

 第8章 誤解される概念検索

 第9章 概念検索の役立つ仕事

 

AIを用いた特許調査における入力文書について考え方が参考になるのではないかと感じました。

概念検索に限らず、何事もメリット・デメリットを理解したうえでツールを使いこなすことが大切であることを実感させられます。

 

(9)改訂版 侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ

自著です。

2020年11月に初版が発行され、1年半後の2021年6月に改訂版が発行されました。

初版の執筆時に内容について思案したことを覚えています。

ここまでに紹介した8冊の書籍はもちろん、多くの素晴らしい先行技術文献としての調査系の書籍や論文がある中で新規性・進歩性がある内容を書きたいと思案して執筆されたのが、この書籍です。

本書では、出願権利化等の弁理士業務に加え、法的知見を活かして知財に関する調査も多く扱っている筆者の経験を踏まえ、特許調査に携わる方々を対象に、検索テクニック(戦術、タクティクス)に留まることなく、特許調査の基本となるセオリー(第1章)を中心とし、侵害予防調査(第2章)と無効資料調査(第3章)のノウハウ・考え方に的を絞っています。

 

 第1章 特許調査のセオリー

 第2章 侵害予防調査

 第3章 無効資料調査

 

初版の発行後、出願権利化業務、調査業務、特許権侵害訴訟や特許無効審判などの係争業務などの実務を通じ、筆者は、特許調査に対する考え方をアップデートしてきました。

改訂版でも初版の執筆方針を踏襲しつつ、弁理士としての筆者の経験に基づいて、より実務に即した実践的な内容を追加するとともに、初心者にとって役立つ基礎的な内容も補充させています。

これから特許調査を始める人は勿論、戦術としての検索テクニックやデータベースの使い方を一通り身につけたが、調査スキルが伸び悩んでいたり、調査設計・調査戦略をどのように立案すればよいか悩んでいたりする場合に本書は特に参考となるはずです。

今回は特許調査に関する書籍を紹介しました。

 

その他に知財実務や明細書など、知財関係の書籍をnoteにまとめてありますので参考にしてはいかがでしょうか。

 

 

角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)

  note

秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/