こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会2017最優秀賞)です。
今回は、特定登録調査機関制度と、早期審査制度を活用した権利化戦略について紹介します。
現在、日本特許庁の審査では、ファーストアクション(一次審査通知)までの期間は約10月です。
重要度が非常に高い出願や、新製品・新サービスのリリース前に権利化を行いたい場合などには、早期に審査結果を知りたいでしょうし、早期に権利化を図りたいかと思います。
(スーパー)早期審査を利用すると、ファーストアクションまでの期間を短縮することができ(早期審査で約2.7月、スーパー早期審査で平均0.8月)、早期に審査結果を知ることができます。
以下では、対象となる出願と手続きを簡単に紹介した上で、制度のメリット及びデメリット、制度の有効的な活用方法について具体的に述べます。
早期審査・スーパー早期審査の対象となる出願と手続き
早期審査の対象は、実施関連出願(2年以内に実施予定)、外国関連出願、中小企業等の出願などになります。
スーパー早期審査の対象は、出願審査の請求がなされている審査着手前の出願であって、以下の(1)及び(2)のいずれの要件も満たす特許出願です。
(1)「実施関連出願」かつ「外国関連出願」であること、又はベンチャー企業による出願であって「実施関連出願」であること
(2)スーパー早期審査の申請前4週間以降になされたすべての手続をオンライン手続とする出願であること
(スーパー)早期審査を利用した場合のメリット・デメリット
(スーパー)早期審査を利用した場合には、以下のようなメリットやデメリットが想定されます。
具体的な権利獲得戦略
特定登録調査機関制度と早期審査を有効的に活用した権利獲得戦略について、紹介します。
なお、本例は、あくまでも参考であり、本例に従って手続きを行った場合に権利化を保証するものではございません。
1.出願
特許庁に出願を行います。
2.特定登録調査機関の利用
特許庁に出願をした後であれば、特定登録調査機関制度を利用することができます。特定登録調査機関制度を利用すると、特許庁の審査官から先行技術調査手法の指導を受けた有資格者であるサーチャーによる高品質な調査報告書を受け取ることができます。
特定登録調査機関として登録され、かつ、活動をしている機関は3機関(技術トランスファーサービス、IPCC、AIRI)です。
3.特定登録調査機関の調査報告書の検討
特定登録調査機関の調査報告書に記載されている、先行技術文献の内容及び、本願との対比説明の内容を検討します。
4.対応策の検討
調査報告書の検討の結果に基づいて、対応策を検討します。補正が必要であるか否かの検討以外にも、内容を追加した新出願をするべきか、公開前に出願を取り下げるべきかなど幅広い検討を行うことが可能です。
5.早期審査請求
対応策を検討した上で、特定登録調査機関による調査報告書を添付して(審査請求書に調査報告書番号を記載して)早期審査請求を行います。上述したとおり、早期審査事情説明書の先行技術の開示や対比説明を、特定登録調査機関の調査報告書により代替することができます。このとき、審査請求料が約2割軽減されます。
1)出願審査請求
138,000円+(請求項の数×4,000円)
4)(特定登録調査機関が交付した調査報告書を提示した場合)
110,000円+(請求項の数×3,200円)
6.中間対応
約2.7月で審査官からファーストアクションがあります。
審査請求の際に適切な自発補正をした場合には、先行技術との差異が明確になっており、新規性・進歩性が認められて、そのままの内容で特許査定となり、中間対応が必要ない場合も想定されます。
7.特許査定
調査報告書に基づいた対応策の検討を行った上で審査請求を行っていると共に、審査官は特定登録調査機関の調査報告書を参考にするため、素早い権利化に繋がる可能性があります。
将来的に他社製品を権利範囲に含むようにするための分割出願を行って、出願を特許庁に継続させておくことも忘れてはなりません。
8.PPHを利用して、海外出願
特許査定になった場合には、PPH(特許審査ハイウェイ:Patent Prosecution Highway)を利用することにより、外国特許庁において簡易な手続で早期審査が受けられます。
以上をまとめますと、早期審査請求を行うに際し、「2.特定登録調査機関の利用」を行った場合には、「3.特定登録調査機関の調査報告書の検討」において、調査報告書の先行技術文献及び対比説明に基づいた出願内容の検討が可能であるため、「4.対応策の検討」における検討がより充実したものとなり、「5.早期審査請求」に必要となる早期審査事情説明書の先行技術の開示や対比説明を、特定登録調査機関の調査報告により代替することができます。
また、「3.特定登録調査機関の調査報告書の検討」で新規性・進歩性を否定する先行技術文献が抽出された場合には、「5.早期審査請求」を行う前の、「4.対応策の検討」の段階で、内容を補充した新出願や、出願の取下げ等の対応を取ることも可能となります。
このような権利獲得戦略を実行した場合には、通常の出願よりも多くの手間や費用が発生します。しかし、非常に重要な出願の場合には、このような戦略を検討する価値があるのといえるのではないでしょうか。
さらに、外国出願を行う場合には大きなコストが必要ですが、事前に日本国特許庁における審査を受けて、権利化の可能性を検討することで、不必要な海外出願コストの削減が可能となります。
重要な出願の権利化や、早期の権利化について、この記事が参考になれば幸いです。
角渕 由英(弁理士・博士(理学))
専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)
秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/