
こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会最優秀賞)です。
連載として侵害予防調査について説明をしています。
前回は特許権侵害の判断方法について述べました。
今回は、オールエレメントルールの具体例について説明をします。
本件特許発明
この記事では、摩擦体(消しゴム)で熱変色性インキの筆跡を擦過することで、筆跡を消すことができるボールペンを具体的な製品の例として、特許権侵害の成否を判断することにします。

① まず、本件特許発明(上図は参考)について、特許請求の範囲(請求項1)に記載された発明を各構成要件(A、B、C、D)に分節(分説)します。
A:軸筒と、
B:先端にペン先を有し、樹脂製のインキ収容管内に熱変色性インキを収容するレフィル(※替え芯のこと)と、を備え、
C:前記軸筒の後端に前記熱変色性インキによる筆跡を擦過する摩擦体が装着された
D:熱変色性筆記具。
製品1(一部構成要件を備えない場合)
② 次に、対象物となる製品1(a1+b1+d1)を、①の各構成要件に対応するよう分説します。
a1:軸筒と、
b1:先端にペン先を有し、樹脂製のインキ収容管内に熱変色性インキを収容するレフィルと、を備え、
c1:×(摩擦体は無い)
d1:熱変色性ボールペン。
③ 上記①の構成要件A、B、C、Dと、②の構成a1、b1、d1を対比しましょう。
A=a1であり、B=b1であり、D=d1(ボールペンは、筆記具の下位概念であり、筆記具に相当する)ですが、摩擦体が製品1には無いためC≠c1となります。
④ 対比の結果、C≠c1であり、構成が全てで一致していないため、基本的には、文言非侵害と判断されます。

製品1についての検討(非侵害)
製品2(追加の構成を備える場合)
次に、製品2(a2+b2+c2+d2+e2+f2)について検討をしましょう。
a2:軸筒と、
b2:先端にペン先を有し、樹脂製のインキ収容管内に熱変色性インキを収容するレフィルと、を備え、
c2:前記軸筒の後端に前記熱変色性インキによる筆跡を擦過する摩擦体が装着され、
e2:更に、クリップと、
f2:柔軟な素材で形成された握り部を備える
d2:熱変色性ボールペン。
①の各構成要件(A=a2、B=b2、C=c2、D=c2)を備えており、更に、クリップe2や、柔軟な素材で形成された握り部f2も備えている場合であっても、A~Dの全ての構成が一致する(相違がない)ため、文言侵害と判断されます。

製品2についての検討(非侵害)
製品3(下位概念の構成を備える場合)
また、製品3(a3+b3+c3+d3)として、以下の場合を考えてみましょう。
a3:赤色の軸筒と、
b3:先端にペン先を有し、樹脂製のインキ収容管内に赤色の熱変色性インキを収容するレフィルと、を備え、
c3:前記軸筒の後端に前記熱変色性インキによる筆跡を擦過する摩擦体が装着された
d3:熱変色性ボールペン。
この場合、上記①の構成要件A、B、C、Dと対比すると、製品3が、赤色との限定があるものの(a3とb3)、当該限定があってもA=a3、B=b3であることには変わりありません。
具体的には、赤色との限定が付されていても下位概念であるため、構成要件AとBを充足しますので、侵害となります(文言侵害)。

製品4(均等論を検討すべき場合)
さらに、以下のような製品4(a4+b4’+c4+d4)の場合はどうなるでしょうか。
a4:軸筒と、
b4’:先端にペン先を有し、金属製のインキ収容管内に熱変色性インキを収容するレフィルと、を備え、
c4:前記軸筒の後端に前記熱変色性インキによる筆跡を擦過する摩擦体が装着された
d4:熱変色性ボールペン。
これを上記①の構成要件A、B、C、Dと対比すると、A=a4、B≠b4’(但し、B≒b4’)、C=c4、D=d4で、レフィルのインキ収容管の材質が構成Bでは樹脂製であるのに対して、製品4の構成b4’では金属製であり相違するため、原則としては侵害とはならないでしょう(文言非侵害)。

但し、この場合には、製品4においてインキ収容管の材質を金属製とすることに関して、均等論が適用される可能性があるかについて検討すべき事案です。
均等侵害の判断に際しては、以下の5つの要件を充足するか検討します。具体的には、
(第1要件:非本質的部分)樹脂製と金属製の差異が本質的な相違点ではなく、
(第2要件:置換可能性)金属製としても樹脂製の場合と同じような作用効果を奏し、
(第3要件:置換容易性)製品4の製造時点において当業者がインキ収容管の材質を金属製に置き換えることが容易に想到できたものであり、
(第4要件:非公知技術、容易推考困難性)製品4が公知技術方容易に推考できたものでなく、
(第5要件:意識的除外等特段の事情)インキ収容管を金属製とする製品4が出願経過において意識的に除外されたものではないかについて、検討をして、5つの要件をすべて充足する場合には、製品4は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解されることになります(均等侵害)。
次回は、「検索式作成の基本とありがちな「勘違い」」について述べようと思います。
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