侵害予防調査について①定義と侵害のリスク

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チームの角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会2017最優秀賞)です。

 

これまでに特許調査の基本的事項などについて説明をしてきました。

今回からは、侵害予防調査について述べたいと思います。

 

侵害予防調査は、需要が高い半面、どのように調査を行えばよいか悩むことも多く、難しいという印象を抱いている方も多いのではないでしょうか。

まず、侵害予防調査の定義について説明をした後に、侵害のリスクについて説明します。

 

  

侵害予防調査とは

特許調査には、大別すると、技術動向調査、侵害予防調査、先行技術調査、無効資料調査の4つがあります。

 

 

 

侵害予防調査は、「他社の知財を確認して、自社の製品やサービス等(以下、「製品等」と言う)が他社の知財を侵害していないかを確認する」ための調査です。

 

侵害予防調査は、FTO(Freedom to operate)調査、侵害防止調査、クリアランス調査、抵触調査、侵害調査、権利調査やパテントクリアランスとも呼ばれます。

 

侵害予防調査は、研究開発の初期の段階や製品・サービス等の改良を行う前に行われることが多いでしょう。

 

 

 

 

侵害予防調査では、技術の内容と、その流れを正確に理解した上で、対象製品等(いわゆる「イ号」、仮想的な被告製品等)が備える数多くの調査観点を的確に把握して、何を調査対象とし、何を調査対象としないかを決めることが前提となります。

 

そして、調査観点の優先度に基づき、費やすことのできるコストに応じて適切な調査範囲を設定することで、膨大な件数の特許から漏れなく効率的にリスクとなる特許を抽出し、リスクを最小限にする行動をとります。

 

 

侵害リスク

特許権を侵害してしまった場合のリスクとはどのようなものでしょう。

 

  

 

特許権を侵害してしまった場合、差止請求(特許法100条1項)や損害賠償請求(民法709条)等の請求がなされるという法的なリスクが生じます。

 

例えば、差止請求訴訟で認容判決が出た場合には、製品の販売停止や、サービスの提供中止等を履行しなければならなくなってしまいます。

 

また、損害賠償請求訴訟で認容判決が出た場合相応の金銭を支払わなければならず、和解金が多額となるケースもあり、事業に大きな影響を及ぼすことになります。

 

ライセンス料については、日本国内の特許権ライセンス料率は業界によって異なるが、平均すると正味販売高に対して3.7%であると報告されています

 

また、特許法102条3項の損害額の認定または不当利得返還請求における不当利得額が判断された平成31年・令和元年の裁判例では、認定された実施料率は、1.5~7%であるという報告もあります。

 

また、時代の流れや各国の政策、市場を海外へと展開する企業が増え、米中の貿易戦争、M&Aの活発化、パテントトロール・特許不実施主体(NPE:Non-Practicing Entity)の存在等、権利取得にとどまることなく権利活用が求められるプロパンテントの時代、特許権等の知的財産権に関するリスクが大きくなっています。

 

さらに、コンプライアンスの問題も看過できるものではなく、製品・サービスの提供がストップしてしまうことは関連各所に与える影響が甚大なものとなる可能性が有り、訴訟が提起されることで株価が暴落したり、消費者や取引先からの信用が失墜(毀損)したりするというリスクもあります。

 

そして、近年では、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を介した情報の爆発的な拡散も大きなリスクと言えるでしょう。

 

訴訟が提起された段階で、判決が出ておらず、誰も具体的な内容を正確に理解できていないにもかかわらず、大きなニュースになって炎上することもあります。

 

したがって、事業の安定的な継続のために、知財に関するリスクを可能な限り除去・低減することが必要となります。

 

次回は、侵害予防調査の課題・目的と6W2Hについて述べようと思います。

 

 

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角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)

  note

秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/