侵害予防調査について ④侵害予防調査の考え方

こんにちは、知財実務情報Lab.専門家チーム角渕由英(弁理士・博士(理学)、特許検索競技大会最優秀賞)です。

 

連載として侵害予防調査について説明をしています。

前回は「侵害予防調査が難しい理由」について述べました。

今回は、「侵害予防調査の考え方」について説明をします。

 

  

侵害予防調査では、将来起こり得る特許権等の侵害訴訟を想定します。

以下の図は、侵害のリスクと適切な調査範囲の設定を示したものです。

 

 

 

 

仮想的な被告である自社の「実施行為」と、仮想的な原告である権利者(出願人)が保有する「権利範囲」を想定します。

リスクの想定から検索式の作成までの流れを以下に示します。

 

(1)リスクの事前想定

まず、リスクを想定します。

 

ある製品・サービスについて、どのような観点でいかなる権利が存在し得るのか、又は存在しないのかについて、技術常識・技術の流れに基づいて、存続期間や存在し得る特許権等の権利範囲・プレイヤーを想定します。

 

このとき、事前に想定していないリスクを偶然カバーするような結果は得られない点に留意が必要とります。

 

想定していないリスクについて、観点として検索式に反映することは不可能ですし、想定していない権利が母集団に含まれること基本的にはないでしょう。

 

なお、リスクとなり得る権利を偶然発見できたとしても、他の権利の存在を正確に把握したことにはならず、調査の「信頼性」は担保されません。

 

このように、リスクの想定が侵害予防調査の成否のカギを握っていると言っても過言ではありません。

 

 

(2)自社の「実施行為」の特定

次に、自社の「実施行為」を特定します。

 

ある程度の具体性をもって自社の実施行為を特定しない限り、リスクとなり得る他社(他者)の「権利範囲」を想定することはできないないでしょう。

 

他社の「権利範囲」を想定できないということは、調査対象が定まらないことに他なりません。

 

調査対象が定まらなければ、意味のある検索式を作成することができないため、侵害予防調査を行うことは不可能となります。

 

このとき、自由実施技術(パブリック・ドメイン)を把握した上で、何を実施しないのか、何を調査対象としないのかも併せて明確にすることが重要となります。

 

 

(3)他社の「権利範囲」の想定

発明の技術的範囲は一般的に抽象的に記載されていますが、いかなる権利範囲が存在し得るのかを想定して検索式を作成する必要があります。

 

想定しない権利範囲を網羅的にカバーすることは不可能です。

 

このとき、予備検索を行って、技術の流れや技術水準・技術常識を把握することで、いかなる技術水準の権利が、どの年代に存在し得るのか、マクロな視点から大局的に理解をすることも重要となるでしょう。

 

 

(4)検索式の作成とスクリーニング

そして、特定した自社の「実施行為」を含み得る(内包し得る)、想定した「権利範囲」を、漏れなく網羅的であることを意識して(再現率重視)、検索式に反映(翻訳)します。

 

スクリーニングに際しては、侵害を主張する権利者の立場で請求項を読む(権利範囲を理解する)ことが求められます。

 

権利者は、文言を広く解釈して、広く権利範囲を主張しますので、自社に都合の良いようにクレームの文言を解釈しては決してなりません。

 

また、公開公報や未移行のPCT出願など、権利として確定していないものは、経過をウォッチングしなければならず、定期的に調査をアップデートするようにすることが必要となります。

 

 

次回は、「侵害予防調査のポイント(前編)」について述べようと思います。

 

角渕先生からのお知らせ

日本テレビのドラマ「それってパクリじゃないですか?」の第3話で芳根京子さんが演じる知財部員が読んでいた、私が侵害予防調査について執筆した書籍、「改訂版 侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ~特許調査のセオリー~」が、一般財団法人経済産業調査会から発行されています。詳細はこちらからご確認ください。

 

 

角渕 由英(弁理士・博士(理学))

専門分野:特許調査、特許権利化実務(化学/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)

  note

秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/