進歩性主張のために複数の反論を組み合わせるべきか?

 

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田中 研二(弁理士)です。

進歩性欠如の拒絶理由に対する反論には様々な種類があります。筆者は、大きく以下の5パターンに類型化して理解しています。

 

(1) 審査官の事実認定が誤りである
(2) 相違点に係る構成を採用することが設計事項ではない
(3) 引用発明から本願発明に想到する動機づけがない
(4) 引用発明から本願発明に想到することに阻害要因がある
(5) 本願発明が予測不可能な有利な効果を奏する

    

 

筆者が以前発表した進歩性の反論事例の統計分析では、分析対象の716件(進歩性欠如に対して意見書のみで反論した案件)のうち、(1)と(5)は7割弱で主張されており、(3)は約4割で主張されていました。

 

  

実務上は、上記(1)~(5)のうち一種類だけの反論で勝負することもあれば、複数の論点について主張を展開することもあります。

 

しかし、これに関連して、筆者は以前から気になることがありました。

 

進歩性の主張では、いろんな観点で反論した方が説得力が増すのか?

それとも、審査官に一番見てほしい論点に絞った方がよいのか?

 

今回は、進歩性を主張するためには複数の論点を組み合わせた方がいいのかどうかを、上記の統計分析データから調べてみました。

  

いくつの論点を主張することが多いのか?

まず、分析対象716件のうち、複数の論点で反論されていたものは384件(54%)でした。

単独の論点で反論しているものと、複数論点で反論しているものとで、だいたい半々くらいのようです。

具体的な集計結果は、以下のグラフのとおりです。

 

この結果から、一つまたは二つの論点に絞って反論しているケースが大半で、ほとんどの場合で反論は多くても三種類であることがわかります。

なお、「論点0つ」は上記の論点(1)~(5)に分類できなかった案件を意味します。

 

 

相性のよい組合せはあるのか?

次に、複数の論点で反論している384件で、どのような反論の組合せが多いのかを調べてみました。

 

 

最も多い「事実認定+効果」の組合せでは、審査官による引用発明の認定の誤りを指摘するのに加えて、再認定した引用発明では本願発明の効果が実現できないことも主張しているケースが多く見られました。

この組合せは、特に機械・構造系の技術分野で多く主張されていました。

 

次に多い「動機づけ+効果」の組合せは、化学・バイオ分野で多く使われており、実験から見出した有利な効果を主張するとともに、引用文献には当該効果やそれによって解決される課題が記載されていないことから引用発明において本願発明の構成を採用する動機づけがないことも主張するケースが多く見られました。

 

三番目に多い「事実認定+動機づけ」の組合せは、技術分野を問わず広く使われていました。

事実認定についての反論と動機づけ欠如の反論とを独立に主張しているものも多かった一方、引用発明を目的・課題から再認定することで動機づけの欠如の反論に繋げているケースも見られました。

 

 

論点組合せについての統計分析

それでは、たくさん論点を挙げて反論するほど特許されやすくなるのでしょうか?

 

その答えは、統計的には「NO」です。

 

統計的な傾向を調べるために、対象案件のうち、意見書で反論した結果「特許査定された案件」および「拒絶査定された案件」のそれぞれにおいて、(i) 一つの論点が主張された件数と割合、(ii) 二つの論点が主張された件数と割合、(iii) 三つの論点が主張された件数と割合を集計しました(案件数が少ない論点数0、4、5は割愛しているので、案件数の和は全案件数と一致しません)。

 

 

ここからカイ二乗検定と呼ばれる手法を行い、特許査定案件と拒絶査定案件との間で統計的に有意な差が認められれば、「論点をいくつ主張するか?」と「特許されやすいか?」との間に統計的な相関があるといえます。

 
しかしながら、下記グラフに示すように、特許査定案件と拒絶査定案件とで割合は同程度であり、有意な差が認められないことから、「論点の数」は「反論の通りやすさ」に影響しなさそうです。

 

 

 

まとめ

というわけで、小手先で論点を絞ったり増やしたりしても意味はなく、反論すべき点を正面からきっちり反論するのがいいよという、あまり面白みのない結論になってしまいましたw

とはいえ、長年気になっていた疑問が解決したのでスッキリ。

 

読者の皆様も、もし気になる疑問があればお知らせください!

筆者の手元のデータで調べられそうであれば調査してみます。

 

 

田中 研二(弁理士)

専門分野:特許権利化(主に機械系、材料系)、訴訟