「技術的意義」って何?

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田中 研二(弁理士)です。

 

専門家チームの先生方に比べるとまだまだ未熟な身ですが、実務上の素朴な興味や疑問を調べてみたり、日々の実務から得たちょっとした学びを紹介したりしていきます。

 
少しでも皆様の参考になれば幸いです。

 

 

最初のテーマとして、特許実務でよく使われる「技術的意義」という概念を取り上げてみます。

 
この「技術的意義」という言葉、意外と多義的に使われており、特に実務初心者の方は混乱しがちなように思われます。というか実のところ、筆者もはっきりとした定義を持っているわけではありません。。

 

そこで今回は、「技術的意義」って何? という視点で審査基準や裁判例を調べて、筆者なりに定義を整理してみました。

 

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1.いきなり結論

勿体つけずに、まずは筆者の結論を述べます。

ただし、「技術的意義」という言葉は、「発明」の技術的意義を指す場合と、発明の構成要素である「発明特定事項」の技術的意義を指す場合とがあり、これらは意味合いや用いられる場面が異なるので、分けて記載してみます。

 

 

以下、このような結論に辿り着いた道筋を説明します。

 

 

2.「技術的意義」の定義

特許庁の審査基準には、「技術的意義」という記載は登場しません。

その代わり、「技術上の意義」および「技術的意味」という2つの言葉が記載されています。

 

 

(1)委任省令要件における「技術上の意義」

「技術上の意義」については、委任省令要件の説明において、以下のように記載されています(下線は筆者が付与)。

 

発明をするということは技術的思想を創作することであるから、出願時の技術水準に照らして発明がどのような技術上の意義を有するか(どのような技術的貢献をもたらしたか)を理解できるように、発明の詳細な説明に記載されることが重要である。そして、発明の技術上の意義が理解されるためには、どのような技術分野において、どのような未解決の課題があり、それをどのようにして解決したかという観点からの記載が発明の詳細な説明においてされることが、有用である。

(特許・実用新案審査基準 第II部 第2章 第2節 1.)

 

例えば、発明特定事項に数式又は数値を含む場合であって、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて、発明の課題とその数式又は数値による特定との実質的な関係を理解することができず、発明の課題の解決手段を理解できない場合には、発明の技術上の意義が不明であり、委任省令要件違反に該当する。

(特許・実用新案審査基準 第II部 第2章 第2節 2. (2) b)

 

このように、審査基準では、「技術上の意義」とは、その発明が先行技術に対してもたらした技術的貢献を指すものとされています。

また、発明の「技術上の意義」を理解するためには、その発明の技術分野、課題、および解決原理(作用)の説明が有用であるとされています。

さらに、数値限定発明を例とした後半の引用箇所からは、発明の技術上の意義を理解するためには、「発明の課題とその数式又は数値による特定との実質的な関係」(つまり、その数式や数値を採用したことによって課題を解決できる理由)が理解できる必要があると読み取れます。

 

 

(2)発明の単一性の要件における「技術上の意義」

発明の単一性の説明においても、「技術上の意義」という言葉が使われています(下線は筆者が付与)。

 

「特別な技術的特徴」とは、発明の先行技術に対する貢献(先行技術との対比において発明が有する技術上の意義)を明示する技術的特徴を意味する。

(特許・実用新案審査基準 第II部 第3章 3. (1))

 

例3:

[請求項1] 窒化ケイ素に炭化チタンを添加してなる導電性セラミックス。

[請求項2] 窒化ケイ素に窒化チタンを添加してなる導電性セラミックス。

(説明)
請求項1及び2に係る発明は、窒化ケイ素に添加する物質がそれぞれ、炭化チタン及び窒化チタンである点で、異なる技術的特徴を有する。ここで、請求項1及び2に係る発明が先行技術に対して解決した課題は、窒化ケイ素からなるセラミックスに導電性を付与することによって放電加工を可能にすることである。したがって、請求項1及び2に係る発明は、先行技術に対して解決した課題が一致又は重複しているから、先行技術との対比において発明が有する技術上の意義が共通しているものであり、対応する特別な技術的特徴を有する。

なお、この例で、窒化ケイ素からなるセラミックスに導電性を付与することによって放電加工を可能にすることが、本願出願時に未解決である課題とはいえない場合は、先行技術との対比において発明が有する技術上の意義が共通している、又は密接に関連しているとはいえない。したがって、請求項1及び2に係る発明は、対応する特別な技術的特徴を有しない。

(特許・実用新案審査基準 第II部 第3章 3. (4) a)

 

この「技術上の意義」も、委任省令要件の説明と同じ意味、つまり「その発明が先行技術に対してもたらした技術的貢献」という意味で使われています。そして、二つの発明の解決した課題が一致または重複していることをもって「発明が有する技術上の意義が共通している」と説明されています。

委任省令要件の説明も踏まえた上で、思い切ってざっくり言うと、

 

「発明の技術上の意義」
≒「未解決の課題がその発明によって解決されたこと」
≒「未解決の課題+その発明による課題解決原理」

 

と整理できます。

 

 

(3)明確性要件における「技術的意味」

一方、明確性の説明では「技術的意味」という言葉が使われており、以下のように定義されています(下線は筆者が付与)。

 

発明特定事項の技術的意味とは、発明特定事項が、請求項に係る発明において果たす働きや役割のことを意味する。このような働きや役割を理解するに当たっては、審査官は、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮する。

(特許・実用新案審査基準 第II部 第2章 第3節 2.2 (2) b)

 

このように、審査基準では「技術上の意義」という言葉が「発明」単位で用いられているのに対し、「技術的意味」という言葉は「発明特定事項」単位で用いられており、その意味するところも別物です。

 

「発明特定事項の技術的意味」
=「その発明特定事項が発明において果たす働きや役割」

 

 

(4)裁判例における「技術的意義」

ここまで審査基準の記載を見てきましたが、判決文でも「技術的意義」という言葉が頻繁に用いられています。

しかし、判決文における「技術的意義」との言葉は、「本件発明の技術的意義」のように「発明」単位で用いられる場合と、「●●という構成の技術的意義」のように「発明特定事項」単位で用いられる場合とがあります。

前者は、多くの場合、審査基準における「技術上の意義」とほぼ同じ意味で用いられており、明細書に記載された課題、作用(課題解決原理)、および効果を参酌して「本件発明の技術的意義」が認定されます。

一方、後者は、審査基準における「技術的意味」の定義や、文字どおり「その発明特定事項の技術的な意味内容」といった意味で用いられる場合もありますが、多くの場合、審査基準の「技術上の意義」と同様に「未解決の課題が、その発明特定事項によって解決されたこと」といった意味で用いられています。

たとえば、平成17年(行ケ)第10091号の判決文には、以下のように記載されています(下線は筆者が付与)。

 

相違点に係る本件発明1の構成は,本件接着剤,すなわち,「相対峙する回路電極を加熱,加圧によって,加圧方向の電極間を電気的に接続する加熱接着性接着剤」の接着後(硬化物)の弾性率が大きすぎると,信頼性試験の際,接続基板の熱膨張率差に基づく内部応力により,接続抵抗の増大,電気的導通の不良,接着剤の剥離の問題が生じ(上記ア,オ),他方,弾性率が小さすぎると,溶融粘度の上昇に起因する接着剤の排除性低下のために電気的導通の不良の問題が生じる(上記ウ,オ)ことから,これらの問題を解決し,実際に,信頼性試験において生じる内部応力を吸収し,信頼性試験後においても接続部での接続抵抗の増大や接着剤の剥離がなく,接続信頼性が向上するという効果を奏する(上記エ,オ)という点で,技術的意義を有するものであると理解される。

 

このように、「発明特定事項の技術的意義」は、「●●という構成は、技術的意義を有する」「●●という構成には、技術的意義がない」といった言い方をされることが多いので、

 

「発明特定事項の技術的意義」
≒「未解決の課題が、その発明特定事項によって解決されたこと」
≒「未解決の課題+その発明特定事項による課題解決原理」
≒「その発明特定事項を採用しなければならない理由」

 

と理解すると通りがよさそうです。

その発明特定事項が未解決の課題を解決するために不可欠な構成であれば、その発明特定事項を採用しなければ発明の課題を解決できないので、その発明特定事項には「技術的意義がある」ことになります。

一方、その発明特定事項に起因する特段の技術的効果がない場合や、その発明特定事項が既に解決済みの課題に対応する場合には、必ずしもその発明特定事項を採用する必要はないので、その発明特定事項には「技術的意義がない」ことになります。

ここで、発明の技術的意義とは違って「その発明特定事項を採用しなければならない理由」という言い方も併記したのは、その発明特定事項単独で課題を解決する場合だけでなく、他の発明特定事項と協働して課題を解決する場合もあり得るためです。

そのような場合には、「発明特定事項の技術的意義」=「未解決の課題+その発明特定事項による課題解決原理」と考えるよりも、「発明特定事項の技術的意義」=「その発明特定事項を採用しなければならない理由」と考えた方が理解しやすいように思います。

 

(5)その他の用法

上記以外にも、「技術的意義」という言葉は、使う人によって微妙にニュアンスが変わります。

たとえば、

  • 効果が新規であること
  • いわゆる「顕著な効果」があること
  • 発明が新規性および進歩性を有すること

などが挙げられます。

しかしながら、審査基準と裁判所による「技術的意義」「技術上の意義」の用法は、概ね冒頭に示した定義に沿っているように思われます。

 

 

3.「技術的意義」と進歩性

次に、どのような場面で「技術的意義」が問題になるのかを考えてみましょう。

特許要件に関して「技術的意義」が最も問題になるのは、進歩性における「設計的事項」の判断です。

以下は、進歩性判断の妥当性が争点となった最近の裁判例(令和4(行ケ)10111)からの引用です(下線は筆者が付与)。

(ア)相違点1は、「縦フランジ部の下部から内側方向に延びる段差部」が、本件発明1においては、縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びる段差部であるのに対して、甲1発明1においては、縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス側方向に「やや下方に」延びる段差部であるというものである。甲1発明1のモールディングが取り付けられるドアパネルが、アウタパネルであることについては当事者間に争いがなく、甲1発明1の「昇降窓ガラス側方向」は、本件発明1の「内側方向」(車内側を指す。)と同じ方向を意味するものと認められるから、相違点1においては、段差部が「ほぼ水平」に延びるか「やや下方」に延びるかという点のみが問題となる。

 

(イ)そこで検討するに、本件明細書には、段差部が縦フランジ部の下部から内側方向に「ほぼ水平に」延びることの技術的意義についての記載はない。また、前記1(2)のとおり、本件発明は、端末の剛性に優れるベルトラインモールを提供するために、ドアフレームの表面に位置する部分は縦フランジ部を残して、水切りリップや引掛けフランジ部を切除できるようにし、モール本体部と縦フランジ部とで略C断面形状を形成しつつ断面剛性を確保したというものであり、ベルトラインモールの端末では、ドアフレームの表面に位置する部分は縦フランジ部を残して切除されるものであって、段差部も切除されるのであるから、段差部が「ほぼ水平に」に延びても「やや下方」に延びても、本件発明の作用効果に何ら影響するものではない。そうすると、段差部が「ほぼ水平に」延びるものとすることについて何らかの技術的意義があるとは認められない。

そして、甲1発明1においても、段差部が縦フランジ部の下部から昇降窓ガラス側方向(内側方向)に「やや下方に」延びることに何らかの技術的意義があるとは認められず、甲1発明1において「やや下方に」延びる段差部を「ほぼ水平に」延びるように構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないというべきである。

そうすると、甲2記載事項について検討するまでもなく、甲1発明1において段差部に設計的変更を加え、これを「ほぼ水平に」することは、当業者が容易に想到できたものと認めるのが相当である。

 

この事件では、本件発明1と主引用発明(甲1発明1)とが、『段差部が「ほぼ水平」に延びるか「やや下方」に延びるか』という点で相違すると認定されました。

 

そして、裁判所は、

(1)本件明細書には段差部が「ほぼ水平」に延びることの技術的意義についての記載がないこと

(2)本件発明において、段差部が「ほぼ水平に」に延びても「やや下方」に延びても、本件発明の作用効果には影響しないこと

の2点を根拠として、段差部が「ほぼ水平に」延びるものとすることに技術的意義があるとは認められない、と判断しています。

その結果、裁判所は、上記相違点1を克服することは当業者が適宜なし得る「設計的事項」にすぎない、と判断しています。

 

このように、引用発明との相違点に係る本件発明の構成(発明特定事項)に技術的意義があることは、「その構成を引用発明において採用することが設計的事項ではない」と主張する根拠になります。

逆に、明細書等や技術常識に照らして技術的意義があると認められない発明特定事項については、たとえ本件発明と引用発明との相違点であるとしても、設計的事項と判断されてしまいます。

 

これが、中間応答において「本願発明は、引用文献に記載されていない●●という構成によって、引用文献に記載されていない▲▲という効果を奏する」と主張すべきとされる理由の一つです。

 

つまり、

「●●という構成によって▲▲という効果が実現される」

→「未解決だった課題が解決される」

→「●●という構成には技術的意義がある」

→「引用発明において●●という構成を採用することは設計的事項ではない」

という理屈です。

 

なお、これはいわゆる「顕著な効果」の主張とは異なるものです。この2種類の主張を区別して理解することは、進歩性の実務では非常に重要ですので、いずれ別の記事で説明してみようと思います。

 

 

4.「技術的意義」と明確性

「技術的意義」は、クレームの記載が明確性要件を満たすか否かの判断基準としても用いられます。

 
たとえば、令和4年(行ケ)第10092号では、明確性要件について以下のように判示されました(下線は筆者が付与)。

 

被告は、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」という第2次補正後の請求項1、7及び8の文言によっては、「強さ」にどのようなパラメータが包含されるのかが具体的に特定できず、第三者に不測の不利益を生じると主張する(前記第3〔被告の主張〕2⑴イ)。

確かに、対戦ゲームには様々の形態があり得るものであり、技術常識に照らすと、ゲームの形態に応じて勝敗に影響する「強さ」についても種々のパラメータが想定されるものと認められる。

しかし、各形態のゲームにおいてどのような「強さ」のパラメータを設定するのが適当かは、当業者であれば適宜判断し得るものと推認され、ユーザの強さを基準として所定範囲内の強さを有する他のユーザを対戦相手として選択することにより、ユーザのゲームに対する興味の低下を防ぐという発明の技術的意義に照らせば、ある形態の対戦ゲームにおいて「強さ」にどのようなパラメータが含まれるかは、当業者であれば想定し得るものと推認される。そうすると、「強さ」が「攻撃力と防御力の合計値」に限定されていないとしても、第三者に不測の不利益をもたらすものとは認められない。

したがって、被告の上記主張は採用することができない。

 

この事件では、クレームの「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」との記載において、「強さ」にどのようなパラメータが包含されるのかが特定されていなかったことで、明確性要件違反となるかどうかが争われました。

裁判所は、「発明の技術的意義」を「ユーザの強さを基準として所定範囲内の強さを有する他のユーザを対戦相手として選択することにより、ユーザのゲームに対する興味の低下を防ぐ」ことと認定した上で、この発明の技術的意義に照らせば、「強さ」にどのようなパラメータが含まれるかは当業者であれば想定し得るので、明確性要件違反にはあたらないと判断しました。

 

 

5.「技術的意義」と新規事項の追加

「技術的意義」は、クレームの補正・訂正が新規事項の追加にあたるか否かの判断基準としても用いられます。

 

たとえば、上記の明確性に関して引用した事件(令和4年(行ケ)第10092号)では、補正前発明における「強さ」との記載を「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」に限定した補正が新規事項を追加するかどうかが争われました。

 

拒絶査定不服審判では、発明の課題などに照らして、本件発明における「強さ」は明細書に記載された「攻撃力及び防御力の合計値」のみであると認定し、それ以外の体力、俊敏さ、所持アイテム数など他の「強さ」も包含するように「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータである強さ」とする補正は新規事項を追加するものと判断しました。

これに対する裁判所の判断は以下のとおりです(下線は筆者が付与)。

 

対戦ゲームにおいて、強さに大差のある相手ではなく、ユーザに適した対戦相手を選択するという発明の技術的意義に鑑みれば、当初明細書等記載の「強さ」とは、ゲームにおけるユーザの強さを表す指標であって、ゲームの勝敗に影響を与えるパラメータであれば足りると解するのが相当であり、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」とすることは、発明の一実施形態としてあり得るとしても、技術常識上「強さ」に含まれる要素の中から、あえて体力、俊敏さ、所持アイテム数等を除外し、「強さ」を「攻撃力と防御力の合計値」に限定しなければならない理由は見出すことができない。言い換えれば、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定するか否かは、発明の技術的意義に照らして、そのようにしてもよいし、しなくてもよいという、任意の付加的な事項にすぎないと認められる。

そうすると、当初明細書等には、「強さ」の実施形態として、文言上は「攻撃力及び防御力の合計値」としか記載されていないとしても、発明の意義及び技術常識に鑑みると、第2次補正により、「強さ」を「攻撃力及び防御力の合計値」に限定せずに、「数値が高い程前記対戦ゲームを有利に進めることが可能な所定のパラメータ」と補正したことによって、さらに技術的事項が追加されたものとは認められず、第2次補正は、新たな技術的事項を導入するものとは認められない。そうすると、第2次補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものであると認められ、特許法17条の2第3項の規定に違反するものではないというべきである。

 

このように、裁判所は、発明の技術的意義に照らして、補正で特定された事項が「任意の付加的な事項」といえる場合には、新規事項の追加にはあたらないと判断しました。

 

 

6.「技術的意義」とクレーム解釈

ここまでは進歩性、明確性、新規事項追加といった特許要件について紹介してきましたが、「技術的意義」は、特許発明の技術的範囲を画定する場面、つまり特許発明のクレーム解釈の場面においても非常に重要です。

一般的に、侵害訴訟までもつれ込むケースでは、被疑侵害品は特許権の権利範囲に入るか入らないかギリギリのところに位置することが多いので、しばしばクレームの文言解釈が問題になります。

このような場合に、「技術的意義」がクレーム解釈の判断基準として使われます。

たとえば、令和3年(ネ)第10082号では、ミシン目または溝が設けられた「基材フィルム」に「シーラント層」が積層されていることが特定された本件発明について、その技術的範囲に「ミシン目加工が基材フィルムのみならずシーラント層にも及んでいるもの」が含まれるかどうかが争点となりました。

この点について、裁判所は以下のように判示しました(下線は筆者が付与)。

 

本件各発明は、取出口となるミシン目又は溝の加工が施された基材フィルムに、シーラントフィルム等を貼り合わせることにより、包装用積層フィルムを密封性のあるものとし、これを使用することにより、バージン性や開放性等を兼ね備えた包装袋とすることで、上記の各課題を解決しようとするものであるといえるところ、上記の密封性については、様々な内容物の品質の劣化や異物の混入等を防ぐことができる程度の密封性が想定されているというべきであり、このような本件各発明の技術的意義を考慮すると、本件各発明のシーラント層にミシン目又は溝の加工が及んだ場合には、上記の意味における密封性を確保することができず、発明の目的を達成することができなくなってしまうというべきである。

以上のとおり、本件明細書から読み取ることができる本件各発明の技術的意義からすれば、本件各発明のシーラント層は、ミシン目又は溝の加工が及んでいないものとみるのが相当である

 

つまり、裁判所は、まず、本件発明の技術的意義は、シーラント層などを設けて「様々な内容物の品質の劣化や異物の混入等を防ぐことができる程度の密封性」を実現することによって課題を解決する点にあると認定しました。そして、この技術的意義に照らして、ミシン目や溝の加工がシーラント層にまで及ぶような態様では上記の密封性を確保できず、発明の目的を達成できないとして、そのような態様を含まないようにクレームを解釈すべきであると判断しました。

このように、クレーム解釈が問題になる場合には、発明の技術的意義である「未解決の課題+その発明による課題解決原理」が適切に機能するようにクレームの文言が解釈されることが一般的です。

 

 

7.まとめ

以上見てきたように、「技術的意義」の概念は、特許要件の判断からクレーム解釈まで広く用いられ、特許実務上の最重要論点である「進歩性」と「クレーム解釈」の両方に大きく影響します。

このため、「技術的意義」という言葉が何を指すのかを理解しておくことはとても重要です。

なかなか理解が難しい概念ですが、本記事が皆さまの理解の一助となれば幸いです。

 

 

田中 研二(弁理士)

専門分野:特許権利化(主に機械系、材料系)、訴訟