要素の組み合わせと、発明の捉え方

アイデアのつくり方

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田村良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)です。

 

アイデアをつくりだすための原理と方法について書かれた「アイデアのつくり方」という書籍があります。1965年に初版が刊行され、現在も読まれている、ジェームス・W・ヤング著の古典的名著です。50ページほどの本で手軽に読むことができますので、ご興味がありましたら、是非ご一読ください。

 

 

この「アイデアのつくり方」では、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と書かれています。

新しく生み出される無数の発明の中には、まったく新しい要素から成り立っているものも存在すると思いますが、そのような発明は、ごくごく一部でしょう。そうです。世の中の多くの発明は、既存の要素の新しい組み合わせから成り立っています。

 

今回は、発明は複数の要素の組み合わせであり、その組み合わせの仕方をコントロールすることにより、異なる複数の発明を捉えることができる、ということをお伝えしたいと思います。

 

 

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ここで、消しゴム付き鉛筆の発明について、考えてみたいと思います。鉛筆が公知で、消しゴムも公知であるような場合に、鉛筆の後端に消しゴムをもってくることを新しく発明したとします。この発明について、請求項を書くとすると、例えば、以下のようになるでしょうか。

 

【請求項A】
前端に鉛筆芯を備え、
後端に消しゴム部を備える、鉛筆。

  

この請求項について、もう少し上位概念で記載することはできるでしょうか。

 

「鉛筆」を上位概念化すると、シャープペンシルやボールペンなどを含む「筆記具」ととらえることができます。

 

一方で、組み合わせのもう一つの要素である「消しゴム」機能を上位概念化することはできるでしょうか。消しゴムを上位概念化すると、紙等の筆記対象物に対して所定の作用を及ぼすことのできる「機能部」として捉えることができそうです。例えば、消しゴムの代わりに、機能部として印鑑などを備える場合が考えられます。

 

このことから、上の請求項Aをより上位概念化すると、鉛筆だけでなくシャープペンシルやボールペンなどを含む筆記具本体の後端に、筆記対象物に対して所定の作用を及ぼすことのできる機能部を備える、新しい筆記具の発明と捉えることができます。これを請求項にすると、例えば、以下のようになります。

 

【請求項B】
前端に筆記対象物に筆記するための筆記部を備え、
後端に筆記対象物に対して所定の作用を及ぼすことのできる機能部を備える、筆記具。

 

 

ここで、もう1つ前提条件を追加してみたいと思います。

例えば、ボールペンの後端に印鑑がついているものが、先行技術として存在しているとします。このようなボールペンがすでに公知であれば、請求項Bに係る発明の新規性はありません。それでは、どのような請求項にすればよいでしょうか。

 

この場合、例えば、以下の2つの請求項が考えられます。

 

【請求項C-1】
前端に、鉛筆芯を備え、
後端に、筆記対象物に対して所定の作用を及ぼすことのできる機能部を備える、鉛筆。

 

【請求項C-2】
前端に、筆記対象物に筆記するための筆記部を備え、
後端に、筆記部により筆記対象物に対して筆記された筆記物を、筆記対象物から消去することのできる機能部を備える、筆記具。

 

請求項C-1は、鉛筆の発明で、鉛筆の後端に、筆記対象物に対して所定の作用を及ぼすことのできる機能をもたせたことを特徴とするものです。請求項Aと比べると、機能部が上位概念化されており、請求項Bと比べると、筆記部が下位概念化されています。

 

一方、請求項C-2は、筆記具の発明で、筆記具の後端に、筆記具により筆記した文字等(筆記物)を消去することのできる機能をもたせたことを特徴とするものです。請求項Aと比べると、筆記部が上位概念化されており、請求項Bと比べると、機能部が下位概念化されています。

 

いかがでしょうか。同じ実施の形態、同じ先行技術であっても、異なる2つの発明を捉えることができます。

 

これを一般化してみましょう。

発明特定事項aを上位概念化したものを、発明特定事項Aと定義し、
発明特定事項bを上位概念化したものを、発明特定事項Bと定義すると、

・発明(A+B)
・発明(a+B)
・発明(A+b)
・発明(a+b)

の4つの発明を捉えることができます。

 

仮に、出願時に、発明(A+B)が新規性を有さないものであることがわかっていて、発明(a+B)、発明(A+b)のいずれかが新規性を有するのであれば、そのいずれかで出願をすることができます。もちろん、発明(a+B)、発明(A+b)の両方が新規性を有する場合は、両方について、出願することもできるでしょう。

 

出願時に、発明(A+B)が新規性を有さないものであることに気づいておらず、審査時に、そのことが明らかになった場合でも、発明(a+B)、発明(A+b)の両方が新規性を有する場合は、両方の独立請求項を作成し、権利化を目指すことも考えられるでしょう。

 

もちろん、発明(a+B)、発明(A+b)の両方が新規性を有する場合であっても、そのどちらか1つを選んで権利化することもあるでしょう。進歩性をクリアーできるか、権利化をしたときに他社に対する優位性を発揮できるか、などの観点から、どの発明について権利化をするのかを選択することができます。

 

この考え方を応用すると、一方の要素をできるかぎり上位概念化して、他方の要素をしっかりと限定をして下位概念にして権利化する、といったようなことを意図的に行うことができます。

 

上の事例では、物の要素と、物の要素との組み合わせでしたが、組み合わせの種類は、これに限りません。技術分野と物の要素との組み合わせ、課題と物の要素との組み合わせなどをコントロールして、複数の発明を捉えることも可能となります。

例えば、同じ1つの技術をもとに、狭い技術分野にしか適用できないけれど、シンプルな物の構成からなる技術で権利化し、一方で、複雑な物の構成ではあるけれど、広い技術分野に適用できるような技術で権利化をする、ということも可能となります。

シンプルな物の構成で、一見、特許にすることは難しいと考えられるものであっても、狭い技術分野に絞って特許にすることができれば、この狭い技術分野に限られるかもしれませんが、強力な特許になる、ということもありえます。

 

発明の捉え方は、自由です。発明が、どのような要素の組み合わせから成り立っているかを把握し、その要素をどのようにコントロールすれば、望む権利が得られるかを検討していただくと、発想も広がり、選択肢を増やすことができるのではないかと、考えています。

 

田村 良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)

専門分野:特許の権利化実務(主に、化学、ソフトウェア)

  note

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