ラオスの特許の保護・留意点(CPGで早期権利化を!)

 

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの石川 勇介(日本弁理士、元ジェトロ・バンコク事務所)です。

「ラオス」は、いわゆる陸のアセアン(タイ、ベトナム、ラオス、カンボジア、ミャンマー)に属し、カンボジア、ミャンマーとともに後発開発途上国(開発途上国の中でも特に開発が遅れている国)に位置付けられています。

 

ラオスは、外港を持たない内陸国という不利な立地条件を有するものの、中国、タイ、ベトナム、カンボジア、ミャンマーと国境を接しており、物流システムの整備・改善が進むことで、これら近隣諸国をつなぐ「メコン地域の物流ハブ」となり得るポテンシャルを秘めています。

 

直近では、ラオスの首都「ビエンチャン」と中国の「雲南省昆明」を結ぶ「中国・ラオス鉄道」が2021年12月に開通し、ラオスにとって悲願の長距離鉄道が整備されました。ただし、債務返済が困難となって中国にインフラを明け渡すという「債務の罠」に陥る可能性が懸念されています。

 

他方で、知財の法整備は順調に進んでおり、ラオスは既に特許協力条約(PCT)、マドリッド・プロトコルに加盟しています。直近では2018年に「改正知的財産法」が施行され、また著作権・商標権・意匠権侵害品における税関差止の実効性を高めるべく、2022年に「税関による知財保護措置に関するガイドライン」が施行されています。

 

今回は、東南アジアのうち、前回の「カンボジア」に続き、皆様にはあまり馴染みが薄いと思われる「ラオス」の特許に焦点を当てて、(1)ラオスへの特許(意匠、商標)出願状況、(2)ラオスで特許を得る方法、(3)ラオスで特許出願するにあたっての留意点について説明したいと思います。上記(3)の留意点では、主として日本の特許制度と異なる点をご説明したいと思います。

 

  

1.特許(意匠、商標)の出願状況

まずは、ラオスでの特許・実用新案の出願件数について確認してみましょう。

下記の棒グラフは、「特許・実用新案の年別出願件数(2014年~2018年)」を示しており、また「出願ルート別(パリルート、PCTルート、国内出願)」の出願件数を示しています。

(なお、ラオスでは特許と実用新案を区別して集計しておらず、それぞれの件数については不明です。)

 

「ラオスの特許・実用新案の出願状況」

 

 

「特許・実用新案の出願件数」について毎年50~100件程度で推移しており、他のアセアン諸国と比較すると圧倒的に少ない件数となっています(タイ:8172件、ベトナム:7520件、インドネシア:11481件(2019年の特許出願件数))。日系企業からは、毎年10~15件程度の出願がなされているようです。

 
また、「PCTルート」の出願件数が半数以上を占めています。これは、ラオスでは特許出願日から90日以内に明細書の翻訳文(ラオス語)を提出する必要があって、翻訳文の提出期限を遅らせるためと考えられます(国内移行期限が優先日から30カ月以内であり、翻訳文提出まで余裕を持たせることができます)。

 

なお、特許・実用新案の「登録件数」は毎年10件程度と聞いています。

 

ラオスでは自国で実体審査が行われていません。ラオスで特許出願の権利化を図るためには、日本の出願人はCPG(特許の付与円滑化に関する協力)を利用することを強くお勧めします。詳細は後述します。

 

続いて、下記の棒グラフは、「意匠の年別出願件数(2014年~2018年)」、「意匠の国籍別の登録件数」(2014年~2018年までの合計)を示したものになります(国籍別の出願件数については統計情報がないようです)。

 

「ラオスの意匠の出願状況」

 

 

上記の棒グラフによれば、「意匠の出願件数」について毎年30~70件程度で推移しています。なお、ラオスでは未だ「意匠の国際登録に関するハーグ協定」には加盟していません。

 

 

「ラオスの意匠の国籍別登録件数」
(2014年から2018年まで)

 

 

上記の棒グラフは、意匠の国籍別の登録件数(2014年~2018年までの合計)を示したものになります。ラオスによる自国出願のほか、ラオスと経済的に結びつきが強い日本、タイ、そして中国による出願が大半を占めています。

 
中国では、意匠出願のほか、特許出願、商標出願ともに国別ランキングで上位となっています(HUAWEI TECHNOLOGIESなど)。商標出願においては、アメリカが最も多く出願しています(APPLE、JOHNSON&JOHNSONなど)。

 

ご参考として「商標」については毎年3000~4000件程度出願されており、緩やかに出願件数を伸ばしています。

 

 

2.ラオスで特許を得る方法

上述したように、ラオスで特許出願を権利化するときに、日本特許庁で対応特許が付与されている場合には、「CPGプログラム」を利用してラオスで早期に権利化を図ることをお勧めします(途上国・新興国におけるPPHに代わる審査協力プログラムです)。

 

CPG(特許の付与円滑化に関する協力)は、日本特許庁とラオス知的財産局との合意に基づき、日本で特許となった日本出願に対応するラオス出願について、出願人からの申請により、実質的に無審査でラオスでも特許が付与されるものです。

申請要件として、(i)ラオス特許出願と、優先日又は出願日のうち最先の日付が同一である対応日本特許出願が存在すること、(ii)対応日本特許出願が日本特許庁で特許査定されていること、(iii)日本で特許性があると判断された請求項と一致するように、ラオス特許出願の請求項が補正されていることを満たし、提出書類に不備がなければ、特許査定になります。

 

 

 

ラオスは、2016年に日本と「CPGプログラム」を開始したのち、シンガポール、中国、韓国と「再登録プロセス」を開始しています。ご参考に、「再登録プロセス」についても簡単にご説明します。

 

再登録プロセス」 ※シンガポール、中国、韓国ともに同様

申請要件として、(i)再登録申請が提出された時点でシンガポール特許が有効であること、(ii)シンガポール特許の出願日が2002年1月17日以降であること、(iii)ラオス知的財産法の不特許事由※に照らして特許可能であることを満たし、提出書類に不備がなければ、特許査定になります。

 

※知的財産法第21条(不特許事由):

以下のものは特許又は小特許を受けることができない。

1.自然界に存在する生命体又は生命体の部分を含む、既存の物の発見であるために新規ではない発明又は実用新案

2.単なる科学的原理若しくは理論、数学的アルゴリズム又は業務を行うか若しくはゲームを行うための一連の規則である発明の主題は、技術的解決手段を構成しない。ただし、当該主題は、発明又は実用新案の構成要素になり得る。

3.人間又は動物の診断、治療及び手術の方法

4.微生物以外の植物及び動物並びに植物又は動物の生産のための本質的に生物学的な方法:ただし、このような主題は、発明又は実用新案の構成要素になり得る。

 

 

3.ラオスで特許出願する上での留意点

次に、ラオスへの特許出願、権利化にあたって、主として日本の特許制度と異なる点(留意点)は以下の通りです。

 

「自国では特許の実体審査は行われていない」

⇒ラオスでは特許の実体審査は行われていないため、上記の「審査協力」を利用しない場合には、「他庁の審査結果待ち」の状態となります。また、ラオスに直接特許出願がなされた場合には、「他国の知財庁に審査依頼」をすることになります。

 

「医薬品はケースバイケースで保護される」

⇒ラオスでは、カンボジアのように不特許事由として医薬品を保護対象から除外することを規定しておりませんが、医薬品特許についてケースバイケースで評価されるようです。そのため、医薬品特許を取得することは難しいとされています。

 

「法改正により、出願公開・出願公開後の異議申立が新設された」

⇒2018年施行の改正知財法前には、「出願公開制度」が存在せず、特許出願が登録されないと(特許公報が発行されないと)、第三者が特許出願の内容を知ることができない状態でした。そのため、登録前の異議申立制度もありませんでした。

しかしながら、法改正により、出願日から19カ月目に出願公開されること、出願公開日から90日以内に第三者による異議申立てが可能であることが明文化されました(知財法第39条)。

なお、ラオスの特許出願制度について、新興国等知財データバンクHPにある「ラオスにおける特許出願制度の概要」が参考になります。

 

 

4.まとめ

以上、「ラオス」の特許について、(1)特許の出願状況、(2)特許を得る方法を説明するとともに、(3)特許出願する上での留意点についても触れました。

 

東南アジアにおいて「ラオス」は、隣国のタイとの結びつきが強く、貿易においてもタイとの輸出入が大半を占めています。そのため、「タイプラスワン」として日系企業を含む外資企業からの注目が高い国となっています。

 

中国が進めるユーラシア大陸全域を結ぶ経済圏構想「一帯一路」により、中国によるラオスへの影響力が拡大していること、また、中国との「債務の罠」による危険性が指摘されているものの、今後の成長が期待される国の一つとなっています。

 

以上、今回の知財情報がラオスの知財実務においてご参考になればと思います。

 

なお、ジェトロHPに「カンボジア・ラオス・ミャンマー における知財統計情報の調査2020」、新興国等知財データバンクHPに「ラオスにおける意匠出願制度概要」、「ラオスにおける商標出願制度概要」、「ラオスにおける実用新案(小特許)制度概要」が挙げられています。こちらもご参考にしてください。

 

石川 勇介(弁理士、元ジェトロ・バンコク事務所)

専門分野:特許権利化実務(化学/材料/機械/ソフトウェア/ビジネスモデル)、特許調査

 

秋山国際特許商標事務所 https://www.tectra.jp/akiyama-patent/