企業の競争優位を達成するための戦略

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田村良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)です。

 

企業が特許を取得する意義として、他社による技術の模倣を防ぐことがあげられます。たしかにそうなのですが、より突き詰めて考えると、競合他社に対する競争力を高めて、企業の業績を向上させる、或いは、企業の業績低下を防ぐ、ということにあるのではないかと、考えています。そうすると、知財の実務家であっても、企業の業績に深く関係する経営戦略についての知識をもっておくことは重要です。

  

 

米国の経営学者で、ハーバード大学経営大学院のマイケル・ポーター教授は、競争戦略に関する研究の第一人者として知られています。マイケル・ポーター教授は、いくつもの経営戦略についての理論やフレームワークを提唱しています。例えば、企業が、競争優位を達成するための基本な戦略として、コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略の3つの戦略を提唱しています。

 

コストリーダーシップ戦略は、同業他社よりも低コストで製品やサービスを提供する戦略です。例えば、株式会社ファーストリテイリングの主力ブランドであるユニクロ(UNIQLO)は、低価格で高品質なカジュアルウェアを提供しています。まさに、コストリーダーシップ戦略をとっていると言えるでしょう。

 

このコストリーダーシップ戦略は、一般的には、その業界でも最大手の企業がとる戦略だと言われています。企業規模の異なる企業が同じようなビジネスをした場合、規模が大きければ大きいほど、効率的に運営することができるためです。このコストリーダーシップ戦略をとる企業にとっては、競合他社に差別化の要素をつくらせないことが重要となります。競合他社が、独自の差別化商品の販売を開始すれば、それを後から研究し、追いかけていきます。競合他社に差別化されないように、相手が得意な分野や技術について、あえて集中的に特許出願を行っていくことも戦略の1つかもしれません。

 

次は、差別化戦略です。差別化戦略は、競合他社とは異なる独自の商品、サービスを提供する戦略です。例えば、この記事を書いている2023年3月の時点で、モスバーガー(株式会社モスフードサービス)の提供するハンバーガーは240円であるのに対し、マクドナルドの提供するハンバーガーは170円です。マクドナルドよりも高価格であるにもかかわらず、モスバーガーを利用する方はたくさんいらっしゃいます。なぜでしょうか。それは、差別化戦略をとっているから、と言えそうです。モスバーガーでは、国内の提携農家から生野菜の提供を受けるなど、素材にこだわり、また、注文を受けてから作る「アフターオーダー方式」を採用するなどの差別化を図っています。

 

差別化戦略をとっている企業であれば、マーケティングの観点から他社と差別化しようとしている商品の機能やサービスの特徴を、特許などの知的財産で、積極的に保護していく必要があります。差別化戦略をとったときに、競合他社による差別化を消そうという動きを封じるための手段として、特許の取得が重要になってきます。

 

最後に、集中戦略です。集中戦略は、特定の顧客セグメントに焦点をあてる戦略です。例えば、高級ホテル・高級旅館専門予約サイト「一休.com」(株式会社一休)は、他のホテル・旅館の予約サイトとは異なり、顧客を高級ホテルや高級旅館に宿泊する層に絞って、コアなユーザーを獲得しています。

 

集中戦略をとっている企業は、その特定の顧客セグメントの心をつかんでブランド化していくことが大切であるように思います。お客様に対して、商品やサービスのイメージを訴求できるようなネーミングやロゴについて商標登録をし、他社のフリーライドなどブランドを毀損するような動きを排除することが大切になってきます。もちろん、特定の顧客セグメントに特化したことで生みだされた、新しい商品の機能やサービスの特徴があれば、特許を取得することも必要になってくるでしょう。

 

 

いかがでしたでしょうか。マイケル・ポーター教授は、この他にも、ファイブフォース分析やバリューチェーン分析などの分析手法を提唱しています。もちろん、マイケル・ポーター教授以外の方が提唱されている理論やフレームワークもたくさんあります。

 

そういった理論やフレームワークに触れつつ、知財の実務に活かすにはどうすればよいかを考えるのも、非常に面白いですし、意義のあることではないでしょうか。

 

田村 良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)

専門分野:特許の権利化実務(主に、化学、ソフトウェア)

  note

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