こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田村良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)です。
拒絶理由通知が届くと、意見書を提出する機会が与えられます。今回は、この意見書の書き方について、主に、進歩性の拒絶理由が通知された場合を中心にお話をさせていただきます。
意見書に記載する事項と言えば、主に、「拒絶理由の概要」、「補正の説明」、「拒絶理由が解消すべき理由」の3つではないかと思います。人によっては、「拒絶理由の概要」も省略してよい、と考える人もいるかもしれません。
「拒絶理由の概要」については、どの請求項に、どのような拒絶理由(新規性なのか、進歩性なのか、サポート要件なのか等)があげられているのかを、記載すればよいでしょう。中には、拒絶理由通知書の記載をそのまま書き写したような意見書もあるようですが、意見書のボリュームが増えるだけで、特に効果はないのではないかと思います。
意見書と同時に手続補正書を提出する場合は、補正が適法になされていることを説明します。どのような補正を行ったかを説明したうえで、その補正が、新規事項を追加するものではないことを説明します。
補正された事項が「当初明細書等に明示的に記載された事項」である場合、「当初明細書等の記載から自明な事項」である場合には、その補正は、新たな技術的事項を導入するものではないものとして、認められます。
明細書に記載された文言をそのまま利用して請求項に記載するような場合、つまり、明示的に記載された事項をもとに補正をする場合、当初明細書等を読めば、新規事項の追加でないことが判断できますので、意見書には、補正の根拠となる段落番号等を記載するだけで問題ないでしょう。
当初明細書等に明示的に記載されていない事項をもとに請求項の補正をするような場合は、補正の根拠となる段落番号等を記載するだけでは、その補正が「当初明細書等の記載から自明な事項」であることに、審査官に気付いてもらえない可能性があります。その補正が「当初明細書等の記載から自明な事項」であることを、説明をした方がよいでしょう。
その他、必要に応じて、シフト補正ではないこと、目的外補正ではないことも記載していきます。
次に、拒絶理由が解消すべき理由についてです。
進歩性の拒絶理由についての意見を記載する場合、まず、請求項に係る発明と、主引用文献との相違点を明確に示します。進歩性は、請求項に係る発明と主引用発明との相違点に関し、副引用発明を適用したり、技術常識を考慮したりして、論理付けができるか否かを判断するものです。ですから、相違点が明確になっていないのに、論理付けができないことを議論することはできません。
まれに、相違点よりも先に、有利な効果があることや、動機付けがないことを記載した意見書を見かけることがあります。これは、進歩性の判断の手順に沿ったものではありませんので、適切なものではないと考えられます。
次は、論理付けの議論です。「特許・実用新案審査基準第III部第2章第2節 進歩性」によれば、審査官は、まず、請求項に係る発明と主引用発明との間の相違点に関し、進歩性が否定される方向に働く要素(例えば、課題の共通性、引用発明の内容中の示唆、主引用発明からの設計変更等)に係る諸事情に基づき、論理付けができるか否かを判断します。そして、論理付けができると判断された場合に、次は、進歩性が肯定される方向に働く要素(例えば、有利な効果等)に係る諸事情も含めて、論理付けができるか否かを判断します。意見書も、この手順に沿って記載するのがよいでしょう。
まとめると、進歩性の拒絶理由について、意見書に記載する順序は、以下のようになります。
相違点の明確化
↓
進歩性が否定される方向に働く要素をもとに、論理付けができないことを説明
↓
進歩性が否定される方向に働く要素と、肯定される方向に働く要素とをもとに、論理付けができていないことを説明
↓
進歩性は否定されない、という結論
審査官にとって、読みやすく説得力のある文章を作成する土台として、このように、進歩性の判断手順に沿って記載していくことが大切です。
最後になりましたが、特許業界では、「意見書で反論する」との表現が用いられることがあります。私もついつい「反論」との用語を使ってしまいますが、「反論」ではなく、「説明」だと考える方が、良い結果につながるのではないかと考えています。
例えば、審査官の認定に誤りがあったとして、「審査官は、Aと認定されておりますが、Aではありません」と「反論」をするだけでは、審査官の判断を覆すことは難しいでしょう。「審査官は、Aと認定されております。しかし、本願明細書には○○と記載されており、・・・・という理由で、Aとはいえません」といったように、Aではない理由を説明していくことが必要です。
いかがでしたでしょうか。意見書には、審査官が受け入れやすいであろう記載の仕方、作法があります。こちらの主張を十分に伝えて、良い結果を得るためにも、より良い型や作法を身に着けていきたいですね。