こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田村良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)です。
発明者から発明のヒアリングをしていて、「この内容であれば、問題なく特許になるだろう」ということもあるのですが、先行技術調査をするまでもなく、「これは、きびしそうだな。新規性、進歩性がないだろうな」と思われる発明に出会うこともあります。特に、アイデアの着想はできているのだけど、まだまだ細部が練られていないような場合は、そのようなケースに当てはまることが多いように思います。
このような場合に、「この技術は、特許になりません」と結論をだすことは簡単です。ただ、これが繰り返されると、その技術者から発明提案が出されなくなるかもしれません。
特許出願をすれば何でも特許になるわけではありませんから、特許が認められる可能性が低いということは、発明者に伝える必要があります。ただ、発明者の発明を提案しようとするモチベーションをこわさないようにするためにも、また、目の前のアイデアをより良いものに磨き上げるためにも、ここで終わらずに、次の一歩が欲しいところです。
無理矢理に特許になるアイデアをだしてもらう、というのではなく、どのような発明であれば、事業にも役立って、且つ、特許が取得できるものになるのかのイメージを、発明者にもってもらうためのサポートをすることが必要です。
では、どうやってサポートをしていくと、良いのでしょうか。私は、主に、3つの視点をもって、発明者に質問をし、アイデアの深堀りを促しています。
1つ目は、そのアイデアを実現しようとしたときに、何か問題が発生しないかを想像し、その問題をどうやって解決するのかについて、質問をします。
例えば、ユーザがWebサイトでピザを発注し、発注から30分以内に配達できなければ、サーバからユーザの端末へクーポン情報を送信するようなビジネス関連発明について、相談があった場合を考えます。この場合、例えば、「配達を完了した時刻を、どうやって正確に把握するのか?」、「台風や大雪などの天候の悪い場合でも、このルールは適用されるのか?」などの問題点を、システムでどのように解決するのかを、質問していきます。
2つ目は、その用途や技術分野に特有の課題はないか、或いは、用途や技術分野だからこそ行う必要のある工夫はないか、についての質問をします。
ホテル等の宿泊施設の予約アプリを参考に、レストランの予約アプリを開発したような場合を考えます。例えば、ホテルの場合は、顧客の希望する部屋が埋まっているかどうかで、予約が可能かどうかを判定しますが、レストランの場合は、予約人数の合計が定員に達しているか否かで、予約が可能かどうかを判定する必要があります。また、レストランの利用時間もお客さんごとに違いますから、予約が可能かどうかの判定も、ホテルと異なる工夫が必要になるはず。こういったことを前提として、レストラン検索用のアプリだからこそ、必要になるような機能がないか、といった質問をしていきます。
3つ目は、ソフトウェア関連発明に限られた話になりますが。ソフトウェアは、基本的には、入力、演算、出力の3つの要素から構成されています。入力されたデータをもとに、演算が行われ、その演算結果が画像や音声として出力されます。この3つの要素のいずれかで、他の類似のソフトウェアには存在しない工夫がないかについて、質問をしていきます。例えば、「他の類似のソフトウェアとは異なる演算方法を用いていませんか?」などの質問です。
これら3つの視点で質問をすることで、発明者が事前に考えていたアイデアが言語化されることもありますし、その質問をきっかけとして、更なるアイデアが生み出されることもあります。また、これらの質問を繰り返すことで、一つの質問の回答が、次の質問につながり、最初に聴いた内容よりも、アイデアが深堀りされていきます。
その場で、発明者から質問の回答が得られない場合もありますが、発明者をサポートしようとする、こちらの姿勢は伝わりますので、発明者もアイデアを練り上げる努力を継続してくれます。
私は、弁理士になって18年がたちますが、大変お恥ずかしながら、その発明が特許になるかどうかについて、未だに正確な判断ができません。発明をヒアリングした段階で、「これは特許にはできないな」との印象を受けた発明でも、発明者の何としても特許にしたい、との想いを受けて出願をすることがあります。そして、不思議と、それらの発明が特許になることを、何度も経験しています。
「あきらめたら、そこで試合終了ですよ・・・」
という有名漫画の名言がありますが、発明のヒアリングにも当てはまるのではないかと考えています。
発明者と一緒に、知的財産権を創り上げていくことは、弁理士や知財担当の仕事の中でも、やりがいのある業務の1つです。発明ヒアリングの場で、発明者をしっかりとサポートして、有効な知的財産権を生み出していきましょう。