こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田村良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)です。
拒絶理由通知に対する意見書など、特許の実務では、文章に説得力をもたせることが重要となります。
今回は、どのように主張に説得力をもたせるのかについて、お話をさせていただきます。
以下のようなケースを考えてみます。
「鉛筆」は公知、「消しゴム」も公知になっています。このような状況で、鉛筆の後ろに消しゴムがついている「消しゴム付き鉛筆」を発明したとします。ここでは「消しゴム付き鉛筆」は公知ではないものとします。
さて、この「消しゴム付き鉛筆」について、特許は認められるでしょうか。
「消しゴム付き鉛筆」は公知ではありませんから、新規性はあります。それでは、進歩性は、どうでしょうか。「鉛筆の後端に消しゴムがついているので便利」ということは直感的に理解できますが、例えば、意見書でそのような主張をするだけでは、説得力が足りないように思われます。
通常の鉛筆で文章を書いている時に、書いた文字を消しゴムで消そうとする場合、まず、鉛筆を机の上に置きます。そして、消しゴムを手に取ります。ミスした文字を消しゴムで消すと、今度は、消しゴムを机の上に置きます。次に、鉛筆を手に取り、引き続き文字を書き始めます。
一方で、「消しゴム付き鉛筆」であれば、鉛筆を机の上に置く、消しゴムを机の上に置くなどの動作は必要ありません。指を使って片手で、鉛筆の上下を入れ替えるだけで、鉛筆と消しゴムの機能を使い分けることができます。つまり、「消しゴム付き鉛筆」は、従来よりも少ない動作で、鉛筆と消しゴムの使い分けができるものです。
明細書や意見書において、単に、「鉛筆の後端に消しゴムがついているので便利」とだけ書かれているのと、上のように、鉛筆と消しゴムの使い分けが少ない動作でできることが書かれているのとでは、説得力に大きな違いがでてきます。
ところで、特許・実用新案審査基準の第III部第2章第2節「進歩性」(以下、審査基準)には、進歩性が否定される方向に働く要素として、「先行技術の単なる寄せ集め」があげられています。審査基準によれば、『先行技術の単なる寄せ集めとは、発明特定事項の各々が公知であり、互いに機能的又は作用的に関連していない場合をいう。』とあります。
上で述べたように、「消しゴム付き鉛筆」は、文字を書ける、文字を消せるという2つの関連性の高い機能(2つの連続して実行される機能)を有するものであるため、従来よりも少ない動作で、鉛筆と消しゴムの使いわけができるものです。このことから、「消しゴム付き鉛筆」は、先行技術を組み合わせたものではありますが、「先行技術の単なる寄せ集め」ではない、と言うことができそうです。
特許の権利化の実務をしていると、引用文献との相違点はどこにあるのか、主引用文献と副引用文献の課題は異なるかなど、審査対象の出願明細書や、引用文献の文字面のみを追ってしまいがちです。もちろん、そのような記載の違いを認識することは大切なのですが、説得力のある書面を作成するには、それだけでは足りません。
審査対象の発明や引用文献の技術を、解像度を高めて理解し、それを審査基準等に記載された判断基準にあてはめて論じていくことが必要となります。
今回は、「先行技術の単なる寄せ集め」に該当するか否かを事例としましたが、例えば「課題の共通性」や「阻害要因」など、発明の新規性や進歩性について論じる様々な場面で、同じことが言えます。
もし、特許の実務はまだまだこれから、という方がいらっしゃいましたら、技術を高い解像度で理解すること、それを審査基準等に記載された判断基準にあてはめて論じること、この2つを意識してみてください。主張に説得力が伴ってくるはずです。