人が行っている業務やビジネスを行う方法をシステム化したビジネス関連発明

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田村良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)です。

 

本日は、ビジネス関連発明についてのお話です。

 

ビジネスモデルそのものは、それが新しいビジネスモデルであったとしても、特許の対象とはなりません。特許・実用新案審査基準 第III部 第1章「発明該当性及び産業上の利用可能性(特許法第29条第1項柱書)」には、以下のように記載されています。

  

 

請求項に係る発明が以下の(i)から(v)までのいずれかに該当する場合は、その請求項に係る発明は、自然法則を利用したものとはいえず、「発明」に該当しない。

(i) 自然法則以外の法則(例:経済法則)

(ii) 人為的な取決め(例:ゲームのルールそれ自体)

(iii) 数学上の公式

(iv) 人間の精神活動

(v) 上記(i)から(iv)までのみを利用しているもの(例:ビジネスを行う方法それ自体)

  

 

ビジネスモデルそのものは、特許法の保護対象である「発明」ではない、と判断されます。ただし、このビジネスを行う方法を、情報技術を利用したソフトウェア関連発明とすることができれば、「発明」として取り扱われることになります。

 

それでは、人がビジネス上で行っている業務やビジネス方法をシステム化して、ソフトウェア関連発明とした場合、特許は認められるのでしょうか。

 

「特許・実用新案審査ハンドブック 附属書B 第1章 コンピュータソフトウエア関連発明」には、「引用発明として、特定分野において人間が行っている業務やビジネスを行う方法について開示されるものの、その業務をどのようにシステム化するかが開示されていない場合がある。このような場合であっても、特定分野において人間が行っている業務やビジネスを行う方法をシステム化し、コンピュータにより実現することは、通常のシステム分析手法及びシステム設計手法を用いた日常的作業で可能な程度のことであれば、当業者の通常の創作能力の発揮に当たる。」と記載されています。

 

特定分野において人が行っている業務やビジネスを行う方法が、出願前に開示されている場合、これらをシステム化した発明については、進歩性を有しないと判断される可能性が高そうです。例えば、雑誌にて企業が求人広告を掲載し、応募者が郵送で履歴書を送付していたことをヒントに、Web上で求人広告の掲載から応募までできるようにしたような場合は、進歩性を有しないと判断されるでしょう。

 

ですが、裏を返すと、特定分野において人が行う業務やビジネス方法をシステム化した場合であっても、そもそもこれらの業務やビジネス方法が公知でなければ、進歩性を有すると判断される可能性がある、と考えることもできます。

 

ここで、特許6725477号(株式会社ぐるなび、発明の名称:情報処理装置)をご紹介します。下記は、特許6725477号の請求項1です。

 

【請求項1】

料理間の相性を示す相性情報と、入店からの経過時間と注文頻度との関係を示す注文頻度情報とを記憶する記憶部と、

前記注文頻度情報に基づいてユーザの入店からの経過時間に応じた注文頻度の高い1以上の料理をおすすめ料理候補として選択し、

前記相性情報に基づいて選択された前記おすすめ料理候補の中からユーザ入店後に注文された料理との相性のよい1以上の料理をおすすめ料理として決定し、

決定した前記おすすめ料理をユーザに提示するための表示情報を生成する

制御部

を具備する情報処理装置。

 

入店からの経過時間に応じた注文頻度の高い料理から、お客さんが入店後に注文した料理と相性のよい料理をおすすめ料理として表示する情報処理装置、についての発明です。

 

ベテランの料理人の方であれば、この情報処理装置と同じような思考プロセスで、おすすめ料理を決定することもできそうです。例えば、「入店から1時間以上が経過すると、締めの料理を注文する人が多い。締めの料理としては、ラーメンか、お蕎麦があるけれど、このお客さんのこれまでの注文は揚げ物が多かったので、あっさりしたお蕎麦がいいかもしれない」といった具合です。

 

人が同じような方法を行うことができそうではありますが、こういった方法でおすすめ料理を決定することが、出願前に開示されていなければ、進歩性が認められます。

 

最近は、テーブルに備えられたタブレットを操作して、料理の注文をするような居酒屋やレストランもあります。こういった飲食店で、入店からの経過時間に応じて、タブレットにおすすめ料理を表示するのは、お客さんにとっても、お店にとっても、よい効果がありそうですね。

 

これまでご説明してきたように、特定分野において人が行う業務やビジネス方法が公知でなければ、それをシステム化した発明は、進歩性を有すると判断される可能性が高まりますが、以下のように考えることもできそうです。

 

それは、ある特定分野において、これまでとは異なる業務の進め方やビジネス方法を考え出し、それをシステム化したような場合でも、進歩性が認められ得る、ということです。そして、このような発明については、進歩性を否定するための材料(新しく考えだした業務の進め方やビジネス方法)が開示されている可能性も低いでしょうし、ビジネス方法をそのままシステム化しただけのシンプルな内容の請求項で、特許を取得することもできそうです。

 

このビジネス方法が従来よりも優れた方法であることが前提とはなりますが、こうして生まれた特許は、ビジネスを進めていくうえで、他社に対して優位性の維持できる有効な特許になりそうです。

 

 

田村 良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)

専門分野:特許の権利化実務(主に、化学、ソフトウェア)

  note

ライトハウス国際特許事務所  https://www.lhpat.com/