分割出願を利用した権利化の事例(発明の名称「ゲーム管理装置及びプログラム」)

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田村良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)です。

 

日本の特許制度では、1つの特許出願をもとに、新しい出願を分割して出願をすることができます。分割出願を利用することで、親出願の請求項に記載された発明とは異なる発明について、審査を受け、特許を取得することが可能となります。

 

今日は、特許第5814300号(特許権者:株式会社コナミデジタルエンタテインメント)をもとに、分割出願について考えてみたいと思います。

  

 

特許5814300号(特願2013-114837)は、この出願をもとに分割出願がされ、さらに、その分割出願をもとに分割出願がされ、ということが繰り返されています。特許第5814300号の出願日は、2013年5月31日ですが、2023年5月現在で、特許第5814300号を含めて合計18件の出願がされています。そして、そのうち17件が特許になっています。

 

そして、残りの1件は、現在も審査中です。ですから、今後、さらに分割出願がされる可能性もあります。多くの場合、1つの製品には、複数の発明が含まれていますから、特許査定が出された後も、分割出願を繰り返して、複数の発明を権利化していくのは、有効な方法です。

 

これだけの数の分割出願をしているので、明細書もしっかりと作りこまれていることが予想されます。特許公報を確認してみると、[特許請求の範囲]と[発明の詳細な説明]の文章部分だけで43ページ、段落番号は[0307]まで付され、図面の数は24でした。ソフトウェア関連発明としてはボリュームのある部類に入りそうです。

 

まずは、特許第5814300号の請求項1から見ていきましょう。

 

【請求項1】
ユーザが所有する複数のキャラクタの中からユーザによって選択された少なくとも1つのキャラクタを、イベント発生用の第1キャラクタとして設定する設定手段と、
前記設定手段によって設定された前記第1キャラクタまたは複数の前記第1キャラクタの組み合わせに応じた特定のイベントをゲーム中に発生させるイベント管理手段と、を備えているゲーム管理装置。

 

 

特許第5814300号の請求項1に係る発明は、ゲーム装置に関するものです。プレイヤが、複数のキャラクタからイベントの発生対象としてのキャラクタを選択すると、選択したキャラクタに紐づいたイベントが発生する、といった内容です。非常にシンプルですよね。

 

以下、分割出願について見ていきたいと思いますが、特許第5814300号(以下、「第0世代」ともいいます)を含め17件の特許の請求項1について、表に簡単にまとめています。詳しくは、この記事の最後尾の表をご参照ください。表中の「発明の主なポイント」は、請求項1の記載をベースに作成していますが、分かりやすさを優先し、実際の請求項よりも簡略化した記載としていますので、正確性に欠ける部分もありますが、ご了承ください。また「発明の主なポイント」のうち、他の分割出願と比べて特徴的だと考えられる箇所については、赤字を付しました。また、同世代の出願で、共通する発明特定事項については、青地を付しています。

 

一般的に、分割出願が利用されるタイミングは、①拒絶理由通知への応答期間内、②特許査定の謄本の送達日から30日以内、③拒絶査定の謄本の送達日から3か月以内、のいずれかであることが多いと思われます。

 

ですが、このケースでは、最初の拒絶理由が通知される前に、分割出願されたものも存在します。例えば、第2世代の5件の分割出願のうち4件(特許第5894329号、特許第5894330号、特許第5894331号、特許第5894332号)は、第1世代の審査請求前に、同日に出願をし、そして早期審査の申請をしています。また、第6世代も、第2世代の4件の分割出願と同様、第1世代の審査請求前に、同日に出願をし、そして早期審査の申請をしています。

 

他社に対して競争優位性を確保するために戦略的に特許を取得していくことを目的とするのであれば、上の①~③のような特許庁からの通知や査定をきっかけとするタイミングで分割出願をするのではなく、必要なタイミングで自発的に分割出願をすることが重要だということを、教えてくれます。

 

興味深いのは、これら4件は、「第2ゲームで使用可能な第2キャラクタを育成する第1ゲームにおいて、第1キャラクタに対応付けられたイベントが所定の条件を満たすことで発生した場合、イベントの進行・結果に応じて第2キャラクタのパラメータが変動するゲームを管理する」点で共通していることです。

 

これら4件は、第1キャラクタに関するイベントの進行・結果に応じて、第2キャラクタのパラメータが変動するようなゲームが前提となっていて、これらのゲームにおける異なる特徴について、それぞれ特許を取得しています。例えば、特許第5894331号は、所定の条件を満たすことで、シナリオには含まれない第1キャラクタに紐づけられたイベントが追加的に発生する点が特徴になっており、特許第5894332号は、所定の条件を満たすことで、複数の第1キャラクタの組み合わせに基づいたイベントを発生させる点が特徴になっています。

 

これら4件の分割出願に共通する「第2ゲームで使用可能な第2キャラクタを育成する第1ゲームにおいて、第1キャラクタに対応付けられたイベントが所定の条件を満たすことで発生した場合、イベントの進行・結果に応じて第2キャラクタのパラメータが変動するゲームを管理する」という包括的な概念で権利化をすることができればよいのですが、それができない場合もあります。そのような場合は、これら4件のように、その包括的な概念を実施する際に考えられる具体的な態様について、特許を取得することが有効な方法となってきそうです。

 

第6世代も、第2世代の4件の分割出願と同様、これら同世代の分割出願の間で、共通する発明特定事項を有しています。第6世代も、第2世代と同様の考え方で権利化を進めた、と言えそうです。

 

ところで、第0世代は、ユーザが所有する複数のキャラクタの中からイベント発生用のキャラクタを設定し、設定されたキャラクタに応じた特定のイベントをゲーム中に発生させるものです。一方で、例えば、第2世代の特許第5894331号は、第0世代とは異なり、「ユーザが所有する複数のキャラクタの中からイベント発生用のキャラクタをユーザが選択する」ことは発明特定事項として含まれていません。特許第5894331号の請求項1は、以下の通りです。

 

【請求項1】
第2ゲームで使用可能な第2キャラクタを育成する第1ゲームにおいて、ユーザにより設定された第1キャラクタに対応付けられたイベントが所定の条件を満たすことで発生した場合、前記イベントの進行または結果に応じて前記第2キャラクタのパラメータが変動するゲームを管理するゲーム管理装置であって、
基本イベントを含んだ所定のシナリオによって前記第1ゲームを進行させるシナリオ進行手段と、
前記シナリオにはもともと含まれていないイベントであって、ユーザにより設定された前記第1キャラクタに対応付けられた前記イベントを、前記所定の条件を満たすことで前記第1ゲーム中に追加的に発生させるイベント管理手段と、
を備えているゲーム管理装置。

 

 

第0世代の特許は、シンプルな請求項で、権利範囲も広いものであるように思われます。それでも、「ユーザが所有する複数のキャラクタの中からイベント発生用のキャラクタをユーザが選択する」ことが発明特定事項として存在するため、ユーザが所有していない複数のキャラクタの中からイベント発生用のキャラクタを設定するような場合にまで、特許権の効力が及ぶわけではありません。

 

一方で、特許第5894331号は、第0世代とは異なり、「第2ゲームで使用可能な第2キャラクタを育成する第1ゲームにおいて、第1キャラクタに対応付けられたイベントが所定の条件を満たすことで発生した場合、イベントの進行・結果に応じて第2キャラクタのパラメータが変動するゲーム」には限定されますが、第0世代ではカバーできなかった範囲について権利を取得することができています。

 

繰り返しになりますが、多くの場合、1つの製品には、複数の発明が含まれています。分割出願を利用すれば、その製品に含まれる複数の異なる技術的思想を有する発明について、権利化をすることが可能となります。

 

こういった複数の異なる技術的思想を有する発明を見つけ出し、分割出願を利用して、これらを権利化していくのは、特許の実務家としての腕の見せ所ですし、非常にやりがいのある業務であるように思います。たくさんの事例を研究して、それらを実務に活かしていきたいですよね。

 

 

田村 良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)

専門分野:特許の権利化実務(主に、化学、ソフトウェア)

  note

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