拒絶理由通知の対応方針を、秒速で見つけ出すには?

こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田村良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)です。

 

皆さんは、拒絶理由通知への対応について、どのくらいの時間をかけて検討していますでしょうか。

実務を始めたばかりの方であれば、「半日以上も考えたけれども、どう対応すればよいのか、思いつかない」といったこともあるかもしれませんね。

ですが、そういった難しい案件について、ベテランの弁理士に相談すると、10分もかからずに、対応方針についてのおおよその検討ができてしまう、なんてことはないでしょうか。

 

ごめんなさい。

タイトル中の「秒速」という表現は、嘘をつきました。

少なくとも私は「秒速」では無理です。「秒速で進歩性をクリアーする」って言うと、何だかカッコいいなと思いまして。

今日は、ベテラン弁理士が、拒絶理由通知や拒絶査定を読んで、圧倒的なスピードで、対応方針を見出していく秘密の1つに迫りたいと思います。

 

  

ところで、審査官から届いた拒絶理由通知を読んでいて、「審査官は、なぜこんなこと言ってるんだろう?」と感じることはありませんでしょうか。このような場合に、「審査官は、発明のことを全く理解しておらず、訳の分からないことを言っている」なんて結論付けてしまっては、うまくいきません。

 

このような場合は、「なるほど、審査官の言ってることは、一理あるよね。」と、ご自身が気付けるまで、拒絶理由通知書を何度も繰り返して読み返すことをお勧めいたします。審査官の言ってることの真意を理解せずに、こちらの一方的な主張だけをしても、審査官の判断を覆すことはできません。審査官の主張を十分に理解して、はじめて適切な対応をとることができます。

 

「審査官が訳の分からないことを言っている」と感じた場合は、「自分が審査官の意図を理解できていない」ということだと、心得ましょう。

 

実は、拒絶理由通知や拒絶査定には、たくさんのヒントが隠れています。このヒントを見つけ出すことが、高速で、拒絶理由通知の対応方針を導き出すことにつながります。極端な話、特許請求の範囲と拒絶理由通知書があれば、引用文献を一切読まなくても、対応方針を決めてしまえることもあります(引用文献を読まなくてもいい、ということではないですよ)。

 

それでは、いくつかのケースを見ていきましょう。

 

ケース①

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーバ装置へA情報又はB情報を送信する送信手段と、
送信手段によりサーバ装置へA情報又はB情報を送信した時間を記憶する記憶手段と、
・・・を備える装置。

 

【拒絶理由通知】
理由1(新規性)
・請求項1
・引用文献等 1
・備考
引用文献1には、サーバ装置へA情報を送信すること、A情報をサーバ装置へ送信した時間を記憶すること、・・・が記載されている。

 

【対応方針のヒント】
審査官は、「A情報を送信する」ことについて新規性を有しないと判断しているものの、「B情報を送信する」ことについて、何らは言及していない。A情報についての独立請求項と、B情報についての独立請求項を作成すれば、B情報についての独立請求項については、特許となるかも?

A情報の独立請求項については、さらに補正をして、引用文献1との相違点を設ける必要があるだろう。

 

 

ケース②

【特許請求の範囲】
【請求項1】
・・・を備える装置。
【請求項2】
・・・を備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
・・・を備える、請求項1又は2に記載の装置。

 

【拒絶理由通知】
理由1(新規性)、理由2(進歩性)
・請求項1、3
・引用文献等 1
・備考
引用文献1には、・・・

・請求項1、2
・引用文献等 2
・備考
引用文献2には、・・・

 

【対応方針のヒント】
引用文献1により請求項1、3の新規性、進歩性が否定されているが、請求項2については、引用文献1による拒絶理由は存在しない。また、引用文献2により請求項1、2の新規性、進歩性が否定されているが、請求項3については、引用文献2による拒絶理由は存在しない。

そうすると、請求項1を請求項2で限定し、さらに請求項3で限定すれば、これらの拒絶理由は解消するだろう。

 

 

ケース③
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサによりA情報を取得する取得手段と、
A情報が所定の条件を満たすものであるか否かを判定する判定手段と、
・・・を備える装置。

 

【拒絶理由通知】
理由2(進歩性)
・請求項1
・引用文献等 1、2
・備考
引用文献1には、A情報が所定の条件を満たすものであるかを判定することは記載されていない。一方で、引用文献2には、A情報が、所定の条件を満たすものであるかを判定することが記載されている。

って、引用文献1において、引用文献2の記載を参考にして、「A情報が、ユーザに特典を付与するための条件を満たすかを判定する判定手段」を採用することに格別の困難性は認められない。

 

【対応方針のヒント】
審査官は、引用文献1において、引用文献2の記載を参考にして、「判定手段」を採用することに格別の困難性は認められない、と述べている。

けれども、困難性が認められないからと言って、進歩性を有さないと判断するのは早い。引用文献1において「判定手段」を採用するための動機付け(技術分野の関連性、課題の共通性、作用・機能の共通性、引用発明の内容中の示唆)について、拒絶理由通知では何ら言及されていない。

そのため、引用文献1において「判定手段」を採用する動機付けがないかもしれない。

 

 

ケース④
【特許請求の範囲】
【請求項1】
・・・
第1ユーザ端末への操作により、第2ユーザ端末の操作する第2キャラクタの戦闘ゲームへの参加を許可する許可手段と、
第2キャラクタの戦闘ゲームへの参加から所定の時間以内に、第1ユーザ端末が操作する第1キャラクタ及び第2キャラクタが敵キャラクタに勝利をした場合に、第2キャラクタに特典を付与する付与手段と、
・・・を備えるシステム。

 

【拒絶理由通知】
理由1(進歩性)
・請求項1
・引用文献等 1、2
・備考
引用文献1には、第1ユーザ端末への操作により、第2キャラクタの戦闘ゲームへの参加を許可することが記載されているが、戦闘の勝利後にキャラクタに特典を付与することは記載されていない。一方、引用文献2には、戦闘ゲームの開始から所定の時間以内に敵キャラクタに勝利した場合に、キャラクタに特典を付与することが記載されている。

そうすると、引用文献1において、引用文献2を参考にして、本願請求項1に係る構成と同じ構成とすることは、当業者が適宜なし得ることである。

 

【対応方針のヒント】
本願発明は、第2キャラクタの戦闘ゲームへの参加から所定の時間以内に敵キャラクタに勝利をした場合に、第2キャラクタに特典を付与するものであるのに対し、引用文献2は、戦闘ゲームの開始から所定の時間以内に敵キャラクタに勝利した場合に、キャラクタに特典を付与するものである。

そのため、引用文献1と引用文献2を組み合わせても、本願発明と同じ構成にはならないのではないだろうか。

引用文献2には、戦闘に参加をしたキャラクタに特典を付与するということは記載されていない。そのため、引用文献1に引用文献2を組み合わせた場合、第2キャラクタではなく、戦闘ゲームの開催者である第1キャラクタに特典を付与するような構成となるのが、自然ではないだろうか。

引用文献1には、第1キャラクタを助けるために第2キャラクタが戦闘ゲームに参加するものであり、引用文献2には、そのような記載はない。引用文献2は、キャラクタに特典を付与することが記載されているが、引用文献1には、そのような記載はない。そうすると、引用文献1と引用文献2とでは、課題が全く異なるのではないだろうか。

また、本願発明は、戦闘に参加した第2キャラクタに特典を付与するものであるのに対し、引用文献1にはキャラクタに特典を付与することは記載されていないため、引用文献1と本願発明とでは、課題が異なるのではないだろうか。

 

 

ケース⑤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
・・・である、フィルム。

【拒絶理由通知】
理由2(進歩性)
・請求項1
・引用文献等 1
・備考
出願人は、○年○月○日付けの意見書において、本願発明について、耐腐食性が優れるという効果を主張している。本願明細書の[0100]には、「優れた耐腐食性を得るためには、フィルム中の化合物Aが化合物Bの官能基と結合している必要がある」と記載されているが、請求項1には、そのような特定はされていない。そのため、請求項1に係る発明が、耐腐食性に優れるという効果を有するとは認められない。

 

【対応方針のヒント】
請求項1に係る発明が、耐腐食性に優れることを主張するためには、請求項1について「化合物Aが化合物Bの官能基と結合している」ことで補正すればよいだろう。

 

 

ケース⑥
【特許請求の範囲】
【請求項1】
・・・A手段と
・・・B手段と
を備える、装置。
【請求項2】
・・・C手段と
を備える、請求項1に記載の装置。

 

【拒絶理由通知】
理由1(進歩性)
・請求項1
・引用文献等 1
・備考
・・・請求項1に係る発明は、引用文献1に記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものである。

<拒絶の理由を発見しない請求項>
請求項2に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。

 

【対応方針のヒント】
引用文献1には、C手段について記載も示唆されておらず、請求項2は、拒絶理由を有しないと判断されている。そうすると、C手段を有する請求項であれば、拒絶理由を有しないと判断される可能性が高いのではないだろうか。例えば、以下のような請求項は、どうだろうか。

・A手段と、C手段とを備える装置
・B手段と、C手段とを備える装置
・C手段と、D手段とを備える装置(D手段は、明細書内に記載)

 

 

いかがでしょうか。ご説明しましたように、引用文献は読まなくても、拒絶理由通知と特許請求の範囲の記載から、たくさんのヒントを得ることができます。これらのヒントをもとに、本願明細書や引用文献を読んで、確認をしていきます。引用文献については、まずは審査官が引用した段落や図を中心に、確認していけばよいでしょう。

ここであげた例は、ほんの一部の例です。経験を重ねていくと、拒絶理由通知から読み取れる情報も多くなるかもしれませんね。中間対応について、まだまだ力を磨く必要があると感じていらっしゃる方は、拒絶理由通知や拒絶査定から、何かヒントが得られないだろうか、ということを意識して読んでみてください。

 

田村 良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)

専門分野:特許の権利化実務(主に、化学、ソフトウェア)

  note

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