ビジネスモデルを、ビジネスモデル特許で保護するには?

 

とある中小企業の経営者から発明相談を受けています。

 

社長
社長

面白いビジネスモデルを思いついたので、特許出願を考えています。弊社では、自社のWebサイトでピザの注文を受け付けて宅配をしています。今回、思いついたのは、ピザの注文を受けてから30分以内に配達できなければ、お客様にクーポンを差し上げる、というアイデアです。クーポンは、データで提供され、次回にピザを注文時に使用できます。

 

社長
社長

注文を受けてからピザをお届けするまでに時間がかかった場合に、特典を提供する、ということをお客様に伝えることで、少しでも早くピザをお届けする、という我々の覚悟と企業努力を暗に示したい、と考えています。

 

弁理士
弁理士

○○社長、面白いことを考えましたね。このビジネスモデルについて、特許出願をするとしたら、どのような請求項を記載するとよいのか、検討をしましょう。

 

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こんにちは、知財実務情報Lab. 専門家チームの田村良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)です。  

 

今回は、ビジネスモデル特許のお話です。

 

特許法では、発明を「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの」と定義しています。そのため、ビジネスモデルそのものは、特許の保護対象である発明には該当しません。それでは、ビジネスモデル特許とは、どういったものなのでしょうか。

 

ビジネスモデル特許は、ビジネス方法に関する特許を意味するものですが、コンピュータ装置やインターネット等の情報技術等を利用して、ビジネスモデルを実現したものであることが多いです。

 

ビジネスモデルそのものについて、特許を取得できません。仮に、そのビジネスモデルを実現するためのビジネスモデル特許を取得したとしても、競合他社による同様のビジネスモデルの実施を阻むのは、容易ではありません。とはいえ、競合他社に対して、できるだけ強固な参入障壁をつくりたいところです。

 

本日は、ビジネスモデルそのもので特許を取得できない状況で、どのように競合他社に対して参入障壁をつくっていくかについて、私が考えていることをご紹介したいと思います。

 

 

ビジネスモデルのコンセプトを特許で保護するために、どのような請求項が必要になるか、という視点をもつことが、大切だと考えています。

 

それでは、冒頭の会話の続きを見ていきましょう。

 

弁理士
弁理士

先ほどのアイデアについて、例えば、以下のような請求項を書いてみました。いかがでしょうか。サーバ装置にて、注文を受けてから配達が完了するまでの時間が、所定の時間を超えると、サーバ装置に、クーポンに関する情報が、お客様のIDと紐づけて記憶されます。お客様は、次回以降のピザの注文時に、クーポンを利用することができます。

 

 

【請求項1】
利用者が操作する第1装置から商品の注文情報を受信する第1受信手段と、
商品の配達者が操作する第2装置から、利用者への商品の配達が完了したことを示す完了情報を受信する第2受信手段と、
注文情報を受信してから完了情報を受信するまでの経過時間を算定する時間算定手段と、
算定した経過時間が所定の条件をみたすと、利用者を識別し得る識別情報と関連付けて、特典に関する特典情報を記憶する特典記憶手段と
を備える、コンピュータ装置。

 

社長
社長

ありがとうございます。たしかに、この請求項で特許を取得することができれば、私どもが実施しようとしていることは、特許で保護されますね。ただ一つ、気になることがあります

 

弁理士
弁理士

それは、どんなことでしょう?

 

社長
社長

弊社では、クーポンをデータで提供し、次回のピザの注文時に使用できるようにしたい、と考えています。でも、競合他社の中には、この特許を回避するために、クーポンをデータで提供するのではなく、印刷をしたクーポン券や、ピザ以外の商品を、お客様のご自宅に届けるところもあるでしょう。

 

社長
社長

注文を受けてからピザをお届けするまでに時間がかかった場合に、特典を提供することで、ピザを少しでも早くピザをお届けする、という我々の覚悟と企業努力を伝えたい、と考えています。権利で守りたいのは、ピザのお届けに時間がかかった場合に、特典を提供する、というコンセプトなのです。

 

弁理士
弁理士

ありがとうございます。先ほどの請求項は、今回のビジネスモデルのコンセプトを、十分に保護できるものではなかったですね。請求項を再検討させてください。

 

 

特許制度は、自然法則を利用した技術的思想の創作を保護するものです。一方、社長がのぞんでいるのは、ビジネスモデルのコンセプトや売りを保護することです。技術的思想の創作を保護する特許制度において、ビジネスモデルのコンセプトを保護しようとすることは簡単ではありません。

 

それでは、どうすればよいでしょうか。

 

請求項1は、コンピュータ装置に関するものです。何らかの物品をプレゼントとして自宅に送付することは、情報処理ではありませんから、このことを、請求項1の発明特定事項として記載しても、コンピュータ装置を特定することにはなりません。

 

次のことを考えてみます。

 

仮に、クーポン券や商品などの特典を自宅に送付する場合、どのような情報処理が実行されるか? と考えます。そうすると、利用者が操作する第1装置へ、特典が与えられる旨の情報が通知されるだろうと、予想することができます。例えば、利用者が操作するスマートフォンやPCに、「ピザのご注文をいただいてから30分以上が経過しましたので、ピザのクーポン券をご自宅に送付いたします。」といったメッセージがeメールにて届くようなことが考えられます。これを、発明特定事項として記載をしていくわけです。

 

【請求項1】
利用者が操作する第1装置から商品の注文情報を受信する第1受信手段と、
商品の配達者が操作する第2装置から、利用者への商品の配達が完了したことを示す完了情報を受信する第2受信手段と、
注文情報を受信してから完了情報を受信するまでの経過時間を算定する時間算定手段と、
算定した経過時間が所定の条件をみたすと、利用者を識別し得る識別情報と関連付けて、特典に関する特典情報を記憶する特典記憶手段、又は、算定した経過時間が所定の条件をみたすと、利用者が操作する第1装置へ、利用者に対して特典が与えられる旨の情報を送信する送信手段
を備える、コンピュータ装置。

 

弁理士
弁理士

請求項を再検討しました。下線をひいた部分が、新しく追加した部分です。こちらでいかがでしょうか。何らかの特典をお客様のご自宅に送付する場合、サーバからお客様のPC等に通知されるのではないかと思います。この点を、請求項に盛り込みました。

 

社長
社長

ありがとうございます。こちらの請求項であれば、何らかの特典をお客様のご自宅に送付する場合も、カバーされているように思います。

 

いかがでしたでしょうか。

 

どの技術分野にも当てはまることだと思いますが、出願人が実施しようとしている技術をカバーするような特許を取得するだけでは、競合他社の参入を簡単に許してしまうことがあります。ビジネスモデル特許の場合も、例外ではありません。

 

出願人が実施しようとしている技術をカバーした特許を取得するとともに、ビジネスモデルのコンセプトを保護するためには、どのような特許があればよいのかを考え、出願をし、権利化していくことが必要となってきます。

 

手順としては、以下のとおりになります。

① 出願人が実施しようとしている実施態様以外の、ビジネスモデルのコンセプトを取り入れた実施態様(一部でコンピュータ装置を利用しないような実施態様も含む)をピックアップする。

② ピックアップした実施態様を実現する場合に、どのような情報処理を実行することが想定されるか。

③ 想定される情報処理を、発明特定事項として請求項に記載する。

 

この手順で1つ問題があるとすると、ビジネスモデルによっては、②において、ピックアップした実施態様を実施するために実行されるだろう情報処理が想定できない場合がでてきます。その場合は、①でピックアップした実施態様を実施する場合に、あると好ましいと思われる情報処理(例えば、ユーザにとって利便性が高いなど)について、アイデアをだしていきます。そして、③にて、このアイデアを、発明特定事項として記載していきます。このようなアイデアだしが、次の開発のヒントになる場合もあります。

 

ここで記載したような請求項は、シンプルなものです。特許にするのも苦労するかもしれません。ただ、ビジネスモデルが新規であれば、そのビジネスモデルを実現するための発明も新規性を有する可能性も高いと思われます。シンプルな内容の請求項であっても、ビジネスモデルが新規であれば、それを実現する情報処理も、独自性のあるものとなりますから、請求項に係る発明について、公知の発明等から進歩性を否定するための論理付けをするのも難しくなります。そう考えると、チャレンジをする価値はあるのではないでしょうか。

 

 

田村 良介(弁理士、ライトハウス国際特許事務所)

専門分野:特許の権利化実務(主に、化学、ソフトウェア)

  note

ライトハウス国際特許事務所  https://www.lhpat.com/